(1-30)誰か
指先で金属の縁をなぞる。
何か、つまめるものはないか。
取っ手の代わりになるような突起はないか。
小さな留め具でもあれば、そこを動かせるかもしれない。
右手で上部を確かめ、次に左手で反対側を探る。
何もない。
もう少し下へ。
指を滑らせ、丁寧に、慎重に。
金属の冷たい感触が指先に伝わってくるだけだった。
「……ない」
さらに下へ。
中央部分を触る。
左右の縁を確かめる。
扉の下のほうまで指先を這わせてみる。
それでも何も見つからなかった。
ただの平らな金属板。
外側には取っ手があるが、内側にはそれらしいものが何一つなかった。
「……」
純恋は、もう一度扉の中央を両手で押した。
動かない。
今度は、両手のひらを付けて摩擦力で斜めに力を入れてみた。
やはり動かない。
「……うそでしょ……」
声がかすれた。
もう一度、上から下まで触ってみる。
何かあるはずだ。だって、こんなところに人が閉じ込められる可能性だってなくはない。誰かが間違って中に入ってしまったらどうするのだ。そんなことは最初から想定されていないのだろうか。
「うそ……うそだ……」
指先が震え始めた。
何もない。
どこにもない。
どうやっても、内側から開けることができない。
「うそだーーーーーーっ!」
思わず叫んでいた。
狭い金属の箱の中で自分の声が大きく反響する。叫んだ瞬間、胸の奥にあった何かが崩れたような気がした。
もうだめだ。
これは本当にだめなやつだ。
ちょっと困った、という程度の話ではない。
本当に出られないのだ。
純恋は、ようやくそのことを認めざるを得なかった。
これまではどこかで楽観していたのだと思う。
何か方法があるはず。
きっとすぐに出られる。
少し待てば誰かが戻ってくる。
そう思いたかった。けれど、もう自分でどうにかできるという期待はほとんど消えてしまっていた。
こうなったら仕方がない。
誰かに気づいてもらうしかない。
外から扉を開けてもらうしかない。
見つかったらどうしよう、などと言っている場合ではなかった。
勝手に入ったことを怒られるかもしれない。
警察を呼ばれるかもしれない。
劇団にまで連絡が行ったら、どう説明すればいいのだろう。
そんな心配はあとで考えればいい。今は、とにかくここから出なければ。
純恋は胸いっぱいに息を吸い込んだ。
そして、できる限り大きな声を出した。
「誰かーーーーー!」
自分でも驚くほどの声だった。
喉が震え、狭い空間に響き渡る。
「誰かいませんかーーーーー!」
返事はない。
純恋は一度口を閉じ、耳を澄ませた。
……。
何も聞こえない。
人の足音も、話し声も、エレベーターの動く音もない。
ただ、静けさだけがあった。
「出られないんです!」
もう一度、声を張り上げる。
「誰か、開けてくださーーーーーい!」
声がかすれた。
それでも、やめるわけにはいかなかった。




