(1-03)不思議な能力1
何でもない依頼人の資料。それが何気なく目に入っただけだったが、美香はその名前がどうにも気になった。普段ならそんなことはないのだが、けれど今は何となく訊いてみたくなった。
「その方……大石さん……」
美香が遠慮がちに声をかける。
「ん?」
村上が顔を上げた。
「手掛かりがないんですか?」
「ああ……うーん。まぁ、な」
村上は頭を掻いた。
短い返事だった。
村上は普段、依頼を受けるとまず「気になるところ」を探す。
家族の話に食い違いがある。
失踪直前に妙な電話をしている。
行動パターンがいつもと違う。
誰かと揉めていた。
金の問題があった。
交友関係に、家族が知らない人物がいる。
そういった小さな違和感を拾っていく。
たいていの場合、最初は何も分からない。だが、調べていくうちに一つ、また一つと気になる点が見つかる。そこを掘っていけば別の情報が出てくる。
さらに調べる。
すると、ばらばらだった情報が少しずつつながっていく。
あとは時間との勝負だった。
時間さえあれば、いずれ何かしらの輪郭は見えてくる。
――そう思っていた。
今回までは。
「ちょうど美香さんが初めて来た日くらいじゃないですか。大石さんの依頼って」
岸田が言った。
「ああ」
村上は壁に掛かったカレンダーを見る。
「そうだな……もう一週間も経っちまったか」
七日。
たった七日と思うか。
もう七日と思うか。
行方不明者を探す仕事をしている村上にとっては、その差が時に大きな意味を持つことを知っていた。
「素人の私が口を出すものじゃないと思うんですけど……」
美香が言葉を選ぶように続ける。
「八方塞がり、みたいな感じなんでしょうか?」
村上は少し黙った。
そして、苦笑した。
「情けないが……実際、そういう状態なんだ」
「所長がそんなこと言うの珍しいですよね」
岸田が言う。
「うるせぇよ」
村上はそう返したものの否定はしなかった。
その様子を見ていた美香は、しばらく迷った。
言おうか。
やめようか。
何度か口を開きかけては閉じる。
そして、意を決したように言った。
「あの……」
「ん?」
「所長は、不思議な能力って信じますか?」
「……ん?」
村上の眉が上がった。




