(1-26)地下階再び
貸しスタジオを出て駅へ向かう。
電車に乗って揺られながら、純恋はぼんやりと地下の部屋を思い浮かべていた。
(今日も鍵が開いていたらいいな)
そんなことを考えているうちに目的の駅に着いた。
ビルまでは駅から少し歩くだけだった。歯科医院の看板を見上げ、純恋は何食わぬ顔でエントランスに入った。誰かに見られているわけでもないのに、なぜか少しだけ緊張する。
エレベーターの前に立ちボタンを押す。
やがて扉が開いた。
純恋は中に入り地下階のボタンを押した。
扉が閉まりエレベーターが静かに下降していく。
チン。
到着音が鳴り扉が開く。
あのときと同じ静かな地下の通路。
純恋は周囲を見回してからスチールドアに近づいた。
ドアノブに手を掛ける。
ゆっくりと回す。
カチャリ。
「あっ……!」
ノブが動いた。
純恋の顔がぱっと明るくなる。
「やった! 今日も開いてた!」
思わず声が弾んだ。
まるで、自分だけの秘密基地に帰ってきたような気分だった。
純恋は周囲をもう一度確認すると素早くドアを開けて中に入った。そして扉の鍵を閉める。念のためドアノブを回してみた。きちんと閉まっている。
「よし」
次に、壁際のスイッチを押した。
パッと照明が点き何もない部屋が明るくなる。
目の前には、純恋だけの空間が広がっていた。
もちろん、本当は彼女だけのものではない。そんなことは分かっている。それでも、前回便利に使えたこともあって誰もいないこの部屋に入るとなぜか充実した気分になった。
「さて、と」
純恋はバッグを肩から下ろし、壁際に並んだ三台のロッカーを眺めた。前回は気にも留めなかったが、ここに来るたびに荷物を床へ置くのも面倒だ。
「よし、今日はロッカーも使っちゃおう」
三台のうち、一番端のロッカーの前に立つ。
取っ手を引くと扉はあっさり開いた。
中には何も入っていない。
純恋はバッグを押し込み少しだけ満足した。
「これでよし。なんかだんだん自分の部屋っぽい感じがしてきたぞ」
そんなことを言って一人で笑った。
もっとも、ここに置いておけるのはせいぜいバッグくらいだ。いつ誰が来るか分からないのだから、私物を置きっぱなしにするつもりはなかった。それでも、荷物を片付ける場所があるだけでずいぶん便利に思えた。
「あ、そうだ。スマホを充電しなきゃ……」
純恋は壁際を見回した。
コンセントはどこだろう。
照明のスイッチの下には、それらしい差し込み口が見当たらない。ロッカーの裏側か、それとも壁の低い位置にあるのか。
よく探そうとしたそのときだった。
チン。
エレベーターの到着音がドアの向こうから聞こえた。




