(1-21)うそじゃない
すると、縁が莉理の言葉を引き継ぐように口を開いた。
「うそじゃないと思う」
莉理が娘を見る。
「あのおねえさん、とっても必死な感じだったもん」
縁はまっすぐに村上を見つめた。
「助けてほしいって、すごくわかったし」
村上はその言葉を聞いて静かに頷いた。
「……そうか」
縁が感じ取ったものが何なのか村上にはわからない。だが、村上自身も同じように感じていた。あの声に、あの表情に、嘘をついている人間の気配はなかった。
「わかった。ありがとう縁ちゃん」
村上は改めて頭を下げた。
「莉理さんも、本当にありがとうございました。おかげで捜索を進めることができそうです」
「いえ。お役に立てたのならよかったです」
莉理は微笑んだ。
村上はそこで美香の方に目を向けた。
「美香さんは……もう落ち着いたのかな?」
美香は少し驚いたように顔を上げた。
「あ……はい。すみませんでした」
「いや、謝ることはないよ。何か事情があるんだろうし」
村上はそれ以上、理由を尋ねなかった。
美香の様子が普通ではなかったことは確かだ。だが、今は無理に聞き出す場面ではない。
「もう少し、ここに居てもいいですか?」
美香が遠慮がちに尋ねた。
「ああ、もちろん。こちらは全然構わない」
村上は頷いた。
「じゃあ、俺と岸田は先に行くよ。すぐに確認したいことがあるからね」
「はい。わかりました」
美香は小さく頭を下げた。
村上と岸田は、莉理と縁に向き直った。
「今日は本当にありがとうございました。また、改めてご挨拶に伺います」
「お気をつけて」
莉理が頭を下げる。
縁も、母親の隣で小さく会釈した。
「ばいばい」
「ああ、ありがとう。またね」
村上は縁に笑いかけた。
それから岸田とともに玄関へ向かい靴を履いた。
外に出ると夕方の日差しをまぶしく感じた。ついさっきまでいた防音室の静けさが、まるで遠い出来事のように感じられる。だが、村上の頭の中では純恋の言葉が何度も繰り返されていた。
――ビルの地下。
――ロッカーがあって。
――出られない。
「所長……」
隣で岸田が口を開いた。
「ん?」
「これ、本当にすごい情報でしたね」
村上は頷いた。
「そうだな。まずは、あのビルをもう一度確認する。それからナベにも連絡だ」
そう言って村上は歩き出した。
今度こそ純恋を見つけ出す。
そのためにやるべきことははっきりしていた。




