(1-20)生きてるよ
「会話ができる魂は生きている人の魂か、亡くなってから四十九日以内の魂なんです」
「四十九日以内……ですか?」
岸田が聞き返した。
「はい。四十九日を過ぎると、基本的には会話ができなくなります。もちろん、すべてを私たちが理解しているわけではありませんけど」
莉理は少し困ったように笑った。
「ですから、会話ができたというだけでは大石さんが生きているのか亡くなっているのかまでは判断できないんです」
村上は黙って頷いた。
少なくとも、今の話だけでは生死はわからない。
そういうことなのだろう。
そのときだった。
「生きてるよ」
背後から幼い声がした。
三人が振り返る。
いつの間にか、縁が部屋から出てきていた。
村上の後ろに立った縁は、何でもないことのように言った。
「あのおねえさんは、まだ生きてる人」
「……え?」
岸田が思わず声を上げた。
村上も驚いて縁を見た。
「縁ちゃん、それは間違いないのかい?」
村上が尋ねると縁はこくりと頷いた。
「うん」
あまりにもあっさりとした返事だった。
まるで、空が青いことを教えるような口調だった。
岸田は身を乗り出した。
「生きてる人と亡くなってる人って、わかるの?」
これには莉理が答えた。
「わかります」
その声には、先ほどまでの柔らかさとは少し違う確かな響きがあった。
「どう説明したらいいのか私にも難しいんですけど……私たちにははっきりわかるんです。生きている人の魂と亡くなった人の魂は違いますから」
「違う……」
岸田は考え込むように繰り返した。
見た目の違いなのか。
声の違いなのか。
それとも、何か別の感覚なのか。
いずれにしても、普通の人間にはわからない世界なのだろう。
「縁が生きていると言うのなら、大石さんはご存命だと思います」
莉理はそう言って村上を見た。
村上は、胸の奥にわずかな安堵が広がるのを感じた。
生きている。
純恋はまだ生きている。
それなら助け出せる可能性がある。
しかし、莉理はそこで言葉を切らなかった。
「ただ……ひとつ、気をつけていただきたいことがあります」
「気をつけること?」
「はい。生きている人の魂、いわゆる生霊は嘘をつくことがあるんです」
村上と岸田は顔を見合わせた。
「嘘……ですか?」
「ええ。生きている人の魂は本人の気持ちや考えに影響されますから。自分を守ろうとしたり何かを隠そうとしたり……そういうこともあるんです」
莉理は慎重に言葉を選んでいた。
「一方で、亡くなった人の魂は基本的に嘘をつけません。ですから、もし生きている人の魂であれば話した内容がすべて事実だとは限らないんです」
「なるほど……」
村上は腕を組んだ。
確かに、本人の言葉だからといってすべてを鵜呑みにするわけにはいかない。探偵として、普段から人の話を聞いている村上にはその点はよく理解できた。だが、今回の純恋の様子を思い返すとどうにも嘘をついているようには思えなかった。
あの必死な声。
途切れ途切れの言葉。
そして、助けを求める姿。
あれが何かを企んだうえでの演技だとは到底考えられなかった。




