(1-19)亡くなっている?
村上は、座布団の上から立ち上がると縁に向かって深く頭を下げた。
「ありがとう。助かったよ」
縁は、いつもの落ち着いた表情で小さく頷いた。
「うん」
それだけだった。
村上は、もう一度だけ麻紐の円に目を向けた。先ほどまでそこには確かに大石純恋の姿があったが、肩から縁の手が離れた瞬間に見えなくなった。ただ、声も聞こえたし彼女が閉じ込められているという場所もわかった。ほんの数分前まで手掛かりひとつ見つからずに行き詰まっていた事件が、今や具体的な場所にまで絞り込めたのだ。
信じられない。
けれど、信じるほかない。
村上は縁にもう一度礼を言うと重い扉に手をかけた。
二人が部屋の外へ出てリビングに戻ると、そこには莉理と美香がいた。二人はソファに並んで座っていた。莉理は美香のすぐ隣に寄り添い、何かを気遣うようにその様子を見守っている。
美香の表情は先ほどよりは落ち着いているように見えるものの、それでもどこか疲れたような顔をしている。両手を膝の上に置き、指先をぎゅっと握り合わせていた。
村上たちが戻ってきたことに気づくと、莉理はすぐに立ち上がった。
「何かわかりましたか?」
「はい。ありがとうございます。すごく大きな手掛かりが掴めました」
村上はできるだけ簡潔に答えた。
これ以上の詳しい話は、まず警察と連携して確認する必要がある。今の段階で何かが確定したわけではない。それでも、これまでとは状況が大きく変わったことは間違いなかった。
莉理は、ほっとしたように微笑んだ。
「そうですか。それはよかったです」
「ただ……ひとつ聞いてもいいですか?」
村上はふと気になっていたことを口にした。
「はい。なんでしょう?」
「さっき、私にも大石さんの姿が見えました。霊というか魂というか……そういうものと会話したわけですが」
村上は言葉を選びながら続けた。
「もしかして、もう大石さんは亡くなっている、ということなんでしょうか?」
口にした途端、リビングの空気が少し変わった。
岸田も、先ほどまでの興奮した表情を引き締めた。
行方不明になって一週間以上。
閉じ込められているという純恋の言葉。
そして、目の前に現れたあの半透明の姿。
もし、あれが死者の魂だったとしたら――。
村上はその先を考えたくなかった。
莉理はすぐには答えず、少し考えるように目を伏せた。
「どうでしょう……私はその場にいなかったので断言はできません」
そして、静かな口調で説明を始めた。




