(1-18)手がかり
村上は一度、目を閉じた。
依頼を受けて一週間。
これまで、どれだけ聞き込みをしてもどれだけ足を使って探しても、彼女につながる確かな手掛かりは見つからなかった。その人が今、目の前にいる。ただし、本人の姿は見えているものの、ここにいるのは本当に彼女の魂なのだろうか。そんな疑問が頭をよぎる。
しかし、今は考えている場合ではない。
「純恋さん、閉じ込められていると言ったね?」
「……」
「自分がどこにいるのか、わかるかな?」
純恋はゆっくりと頷いた。
「わかり……ます……」
「どこだい?」
「ビルの……地下……」
その言葉を聞いた瞬間、村上の頭の中でいくつかの情報がつながった。
純恋が通っていた歯科医院。駅から少し離れた場所にある何階かのテナントが入ったビル。目撃情報もあり、捜索の際にはもちろん確認していた場所だった。
村上は慎重に尋ねた。
「もしかして、駅から少し離れたところにある、君の通っている歯医者が入っているビルかな?」
純恋は、はっとしたように顔を上げた。
「そう……です」
やはりあのビルだ。
「地下に……ロッカーがあって……出られない……」
地下のロッカー。
村上の表情が変わった。
あのビルの地下には確かに地下階がある。村上は現地を確認したときのことを思い出していた。ただ、地下にはまだテナントが入っておらず空きスペースだったはずだ。確か契約だけは済んでいたような。
もし、純恋の言っていることが正しければ――。
「……そうか」
村上は低くつぶやいた。
ようやく手掛かりが見つかった。しかも、これまでの聞き込みでは出てこなかった場所だ。
村上は純恋を見つめた。
「純恋さん、もう少し詳しく教えてほしい。君はどうしてそこにいるんだい?」
だが、純恋はすぐには答えなかった。何かを思い出そうとしているのか、あるいは話すこと自体が難しいのか。
彼女の顔には再び不安の色が浮かんでいた。
そのとき、横から岸田の声が聞こえた。
「所長、行きましょう!」
振り向くと、岸田はパイプ椅子から立ち上がり、今にも飛び出しそうな姿勢で村上を見ていた。その目は驚きと興奮で大きく見開かれている。
無理もなかった。岸田は女性の声は聞こえないものの村上の発言から概ね推測できていた。そして、これが単なる不思議な現象ではなく、実際の捜索につながる情報であることを理解していた。
村上は岸田に向かって静かに頷いた。
――ここから先は探偵の仕事だ。
ようやく見つけた手掛かりを絶対に無駄にはできない。、




