(1-17)聞こえる
「うおっ!?」
村上は思わず声を上げた。
そこに、女性が立っていた。
半透明の体。
輪郭ははっきりわかるのに、その向こう側がわずかに透けて見える。
女性は目の前で、村上の方へ向かって必死に何かを話していた。いや、正確には村上のことなど目に入っていないようにも見えた。ただ、誰かに何かを伝えようと懸命に口を動かしている。
村上は目を見開いたまま固まっていた。
見間違いではない。
幻覚でもない。
目の前に確かに人がいる。
しかも、その顔には見覚えがあった。
村上は、見台の上に置かれた写真に視線を落とした。
それからもう一度女性を見る。
間違いない。
写真の女性と同じ顔だった。
ただし、写真よりも少し疲れているように見える。そして、年齢相応の幼さは残っているものの、その表情は今にも泣き出しそうな切迫感があった。
「……これ……私と話しができるのか?」
村上は声を絞り出した。
すぐ後ろから縁の声がした。
「うん。しゃべれるよ」
村上は振り返らなかった。
女性が何かを訴え続けている。声は聞こえるもののいまいちよく聞き取れない。けれど助けを求めている。それだけは、はっきりと伝わってきた。
村上の中で何かが切り替わった。
驚いている場合ではない。目の前にいるのが何者であれ今は話を聞くべきだ。
村上は両手のひらを女性に向け、ゆっくりと、なだめるように動かした。
「えっと……ちょっと待ってくれ」
女性の動きがほんの少し止まった。
「落ち着いて。ゆっくり話してくれ。こっちはちゃんと聞くから」
その言葉が届いたのだろうか。
女性は村上の顔を見つめた。そして、ようやく自分の声が相手に届くとわかったかのようにその場に崩れ落ちた。膝から力が抜けたように床へ座り込む。
「私の声……聞こえ……ますか?」
かすれた声だった。
ところどころ途切れ、ひどく聞き取りにくい。
それでも、今度は確かに言葉として耳に届いた。
「助けて……ください……閉じ込め……られて……」
村上は再び目を見開いた。
聞こえる。
聞き取れる。
目の前の女性は確かに自分に向かって話している。
「ああ、聞こえる。ちゃんと聞こえているよ」
村上はできるだけ穏やかな声で答えた。
「大丈夫だ。落ち着いて。まずは、君の名前を教えてくれるかな?」
女性は何度か息を整えるようにしてから、口を開いた。
「あ……おおいし……すみれ……です」
「大石純恋さんだね?」
村上は念を押した。
「はい……」
間違いなかった。




