(1-15)光の粒2
村上は慌てて円の中を見つめた。
目を凝らす。
床を見る。
円の内側、縁の足元、何かが宙に浮かんでいるであろう空間。
だが、何も見えなかった。
床は何も変わらない木目調で、麻紐の円があるだけだ。
「……いや、何も見えないぞ」
「えっ? そんな……いや、もう光がどんどん湧き上がってきていて……」
岸田は円の中央から目を離さない。
村上も同じように岸田の視線の先を見つめる。
それでも、何もなかった。
岸田の目がおかしくなったのか。
あるいは、自分の目がおかしいのか。
村上は混乱しながらも、目の前で起きていることを必死に理解しようとしていた。
「うわ……すごい……」
岸田の声が、わずかに震えた。
光の粒は、さらに増えていた。
床から湧き上がるように現れた光は円の内側で渦を巻き始めた。ゆっくりと、しかし確実に互いに引き寄せられるように集まっていく。
散らばっていた光が中央へ。小さな粒が重なり合い、淡い輝きがひとつの塊になっていく。
その輪郭は、まだ曖昧だった。
けれど、ただの光の集まりではなくなりつつあることは岸田にもわかった。
何かの形になろうとしている。
頭のようなもの。
肩のようなもの。
そして、人の胴体を思わせる輪郭。
「……人?」
岸田は、ほとんど息だけでつぶやいた。
光はゆっくりと集まり続けた。
その姿が少しずつ鮮明になっていく。
やがて、そこにひとりの女性が立っていた。
淡い光をまとったひとりの女性。
年齢は二十代から三十代前半くらいに見えた。
服装も髪型も岸田にははっきりと見えていた。多少輪郭は透けているものの、紛れもない女性の姿だった。
ただ、その女性の顔には強い戸惑いが浮かんでいた。
自分がどこにいるのかわからない。
どうしてここにいるのかわからない。
そんな様子で、女性は周囲を見回していた。
すると、縁の足元辺りに目を止めた。祭壇を見ているのだろうか。
そしてそのまま視線を上げ、目の前に立つ縁を見つけた。
その瞬間、女性の表情が変わった。驚きが消え何かを確かめるような顔になる。
女性は縁に向かって一歩踏み出し、そして何かを話し始めた。
ただ、岸田にはその声は聞こえない。
何を言っているのかはわからない。けれど、確かに何かを話している。
一方、村上には相変わらず何も見えていなかった。
村上の目には、縁が麻紐の円の前に立ち、ただ静かに目の前の空間を見つめている姿しか映っていなかった。
「……岸田?」
村上はもう一度声をかけたが、岸田は答えなかった。
岸田は目の前の女性からどうしても目を離せなかった。
――もしかして、この人が大石さん?
その問いがようやく岸田の頭に浮かんだ。




