ギルド
予想外に想像以上だった、ホシの実力。
そして予想外に短かった、期限までの日数。
良い意味でも悪い意味でも。
どちらの予想外を一片に受けた俺は、方針を変え、ダンジョンをあとにして。
向かった先は大施設──冒険者ギルドであった。
「……久しぶりだが、変わらないな」
実に半年ぶりに戸を叩き、足を踏み入れた馴染みの場に、つい所感を独り言ちてしまう。
行き交う冒険者。職員。
幾枚の紙の貼り付けられた、巨大な掲示板。
他とは違う、活気と雰囲気。
ギルド。
ダンジョンに挑み、戦火を、栄光を持ち帰ることで生計を立てる冒険者。
そんな俺達を自称ではなく、まともな職業として成り立たせるための要。謂わば仲介場。
ああ、嗚呼。
実に懐かしい。
この活気。安心感さえ抱くこの熱気こそが、俺にとっては心地良い。
ダンジョンへ入ろうとする意志を明確に示せば、たちまちステラの耳に入ってしまう。
かといって、物見遊山に来るには居心地が悪すぎる。
だから半年ぶりのギルドだったが、まあ。
戻ってきた。随分と感慨染みた、我ながら似合わない感傷ではあるが、ああ、案外悪くない。
とはいえ、いつまでも立ち尽くしてはいられない。
右へ左へ、周囲を見回し確認する。
探すは一人。姿はなく、どうやら今は離れていると、少々だが安堵の息を零してしまう。
「……で、わざわざギルドなんて、何しに来たんですか?」
「ギルドに来る理由なんざそうない。依頼の確認だ」
怪訝な顔で尋ねてきたホシをよそに、真っ直ぐ、目当ての場所への歩みを始めていく。
ギルドでやれることは、大まかに言えば三つ。
冒険者として登録、更新。
仲間探し。
それと、依頼の確認。或いは、報告だ。
冒険者としての登録、更新は必要ない。
これ以上の仲間も必要ない。
ならば当然、目当ては一つ。覚悟決めて金を稼ぐのなら、より効率的に動かなきゃな。
「そういえば、どうしてここでも顔隠してるんです?」
「用心だ。顔が割れると、ややこしいことになるんでな」
「ええ……。やっぱ人選、間違えたかなぁ」
「……お前、少しは隠す努力した方がいいぞ」
自分から聞いておきながら、いざ答えを貰えば引く素振りをみせるホシ。
気持ちは分かるが、もうちっと取り繕うを覚えるべきだと。
クソガキの中でも素直過ぎる部類のクソガキへ、億劫ながらに指摘してやりながら、目的地の人集り──大掲示板の前へと辿り着く。
ギルドにて設置された、幾枚もの大掲示板。
ジャンルごとに分けられたそれは、冒険者達への仕事──依頼が、実に多く貼られている。
ギルドで提示される依頼は、主に二種類に分けられる。
指定依頼。
細かい指定や条件の下、ギルドを仲介としながら契約を為す、一般的な依頼。
求人やボランティアなど。
ダンジョンとは無縁でありながら、冒険者の手を借りたい者達の依頼もまた、ここには掲載されている。
そしてもう一つ、納品依頼。
ダンジョンで入手した魔石や宝具、或いは素材なんかを収めて金を得ることのみの依頼。
指定依頼とは異なり、依頼契約はなく、納品した者が成果を得る。
主にギルドや店など。個人ではなく団体が必要数を確保するための、ある種のノルマのようなもの。
思わぬ掘り出し物があったりするので、もちろん両方目を通しはするが。
それでも今回用があるのは、後者の方。
「あったあった。ちょうど良さそうだな」
左上から、右下へと。
ジロリと目を通した依頼の中で、ちょうど手頃のものが見つかり、つい口元を綻ばす。
『バロンの大角。納品数、十。期限目前につき、報酬額上昇』
「バロン……ま、まさか七階層まで潜るの!?」
「ああ。一週間で二百稼げと言われたら、それくらいの無茶には付き合ってもらわないとな」
驚愕を露わにするホシへ、ニヤリと口角を上げながら答える。
バロン。
白砂の塔。その地下七階層を主に生息している、大きな羊のような魔物。
取れる素材。白毛は寝具や衣類、一対の大角は薬の材料として重宝されている。
階層相応に手強くはあるが、階層以上に倒し甲斐のある、中々に見所満載な魔物だ。
ステラを抜きにした、俺個人のマージンは地下十階層。
もちろん念入りに準備して、細心の注意を払わなければならないが。
それこそ、変異種が群れで囲んでくるみたいな。
そんな大規模なハプニングにでも巻き込まれない限りは、対応出来る範疇だと判断している。
問題はこいつを守り切れるかだが……ま、金に困ってるのはこいつなんだ。命の一つくらいは懸けてもらわないとな。
「無理、絶対無理! 死んじゃうって!」
「なら落とし前か。お前は綺麗な顔してるから、奴隷として重宝されるだろうな」
「ぐ、ぐぎぎっ。ぐぎぎぎっ!!」
ホシは獣のように唸り反論してくるも、すぐに諦め、肩を落として消沈する。
ダンジョンは基本、一階層変わるだけで探索難度が変化する。
その上白砂の塔であれば、地下五階層を境に大きく変わり、一気に探索難度が増す。
今まで地下三階層までが限界だったようなやつが、急に七階層まで連れられるなど、わざわざ死に行くようなものでしかない。
だから、怖がるのは健常な反応だ……ん?
『あいつ、ホシと組むのかよ。誰か教えてやれよ』
『すぐに音を上げるだろ。なんたって疫病神だからな』
『こんな場でも顔隠すなんて相当な訳ありだろ。問題児同士お似合いじゃねえか?』
外では誤魔化しの腕輪を付けていないせいか。
どうにも入ってしまう、耳を擽るヒソヒソ声。
集まる注目は、俺に対して。
そして何より今、大げさに声を上げたホシへと。
同情の視線。
憐憫の視線。
或いは、哄笑の声。
……はっ、好きに言ってろ。
このガキの価値にも気付けない、扱えもしない程度の連中めが。
上手くやれば、こんなにも金や宝具に結びつくガキはいないってのにな。馬鹿なことだ。
「……げっ」
幸か不幸か。そんな周囲に意識を傾けていたからか。
野次馬共を飛び越えた、ずっと先。
奥の受付で何やら会話をしている、銀の髪靡かせる綺麗な女──ステラの横顔を、見つけてしまう。
「行くぞホシ」
「え、ひゃ、ひゃい!」
これ以上注目され、ステラに見つかれば例え顔を隠していても終わりだと。
ホシの手を掴み、すぐさまギルドを後にする。
これじゃ不審者だ。ほんと、嫌になるね。




