予定変更
飼い主たるステラの許しを得て、晴れてクソガキ……ホシの指導に就いた、次の日。
仕事に出たステラを見送ったあと、早速ホシと合流し、稼ぐために白砂の塔へと趣いていた。
「おーおー。本当に出やがった。すげえな」
地下三階層。
潜って早々、早速現れた四足の魔物。
スナイヌの変異種を狩りながら、ホシという存在の特異を実感する。
カランと落ちた、赤い宝石。
火起こし石。少し魔力を通せば火を出せる、便利ではあるがさして珍しくはない宝具。
だとしても。
ものの数十分で宝具が二つ。稼ぎとしてはあまりに破格。
ホシの言う体質とやらが吹かしではないと実感するには、十分過ぎるほどの成果であった。
……こいつはすごい。
どこまで偏るかは不明だが、こんな逸材を拾えるなんて、幸先いいってもんじゃないな。
「はえー、やっぱり強いなぁ師匠は。鮮やかすぎて、なんも参考にならないけど」
そんな俺の一歩後ろで、他人事みたいに両手を叩いて称賛する冒険者。
ベレー帽を被った、金髪の美少年。
いまいち真剣味を感じない同行者へと振り向き、若干ではあるが、冷めた目を向けてやる。
「……なに他人事みたいにしてるんだ。見てるだけじゃ、稼ぎなしで終わりだぞ?」
「えー、分け前ないんです!?」
「あるわけないだろ。てめえの分はてめえで稼ぐんだ。ほら、お手並み拝見だ」
そう言いながらホシへと近づき、ポンと背中を押してやれば、前方からは普通のスナイヌが三匹。
牙を剥き出し、こちらを喰らうべく迫る魔物。
一匹ならともかく、三匹相手は新人一人にはちよ厳しいかもしれないが、お手並み拝見にはちょうどいい。
「……む、無理! 一匹ならともかく、複数は無理だって!」
「そうか。じゃあ死ぬか売られるだけだな。ご愁傷さん」
「ひっど! 鬼! 悪魔! おぞましきエシャール!」
当然の道理だってのに、挙げ句この世最大の罵倒まで。
散々に不平不満を垂れるホシを喧しいとあしらってやれば、仕方ないと短剣を抜いて構え出す。
まあ、本当に駄目そうだったら助けてやるが、基本は自己責任が冒険者の鉄則。
勝てないと自覚しているのなら、なりふり構わず逃げるべき。
それさえ出来ないのなら、冒険者なんぞ向いていない。助けてもらえる機会で命を懸けられる、実にありがたいことだ。
「……ええーい! やってやる、やったるっての! せりゃあ!」
言葉の割に、意外と肝は据わっているのか。
半ばやけくそ混じりな掛け声と共に、ホシは向かってくるスナイヌ達との戦闘を開始させる。
……なんだ、思っていたより、やるじゃないか。
一匹ずつ。意外にも的確に攻撃を捌き、スナイヌ三匹を相手に善戦するホシ。
確かに、傍から見れば紙一重ではあるのだろう。
それでも、決して危機ではない。
何より身のこなしが軽く、的確に回避出来ている。じわじわとではあるが、それでも手に持つ短剣は、魔物達へと手傷を負わせている。
新人だとしたら上々。
若手の中だとしても、中々に動ける部類だとは思うが。
それ以上に、顔の割に集団戦──囲まれる荒事に慣れていそうだと、そう感じる動き方であった。
「……ふう」
「なんだ、案外やれるじゃねえか。指導とかいらないんじゃねえの?」
「なんだじゃないっての! 死ぬとこだったんだから! もう!」
最後の一匹を、見事狩り。
一呼吸していたホシへ軽く声を掛けてやれば、短剣の切っ先を向け、憤慨を露わにしてくる。
とはいっても。
実際のところ、現状のホシに俺が指導してやれる点がない。それは本音ではある。
こいつは、自分を理解している。
自分に何が出来るか。どこまで踏み込めるか。どんな武器が合っているか。
新人特有の過信が薄い。かといって、自身を過小に捉えているわけでもない。出来る事をやっている、新人らしからぬ動き。
──だからこそ。言い換えれば、既に限界でもある。
強さは一朝一夕にあらず。現状精進か偶然か以外で、過剰に伸ばす手段はない。
足りていないのは、助言ではなく仲間。
出来ることを増やすのではなく、出来ないことを補うための信頼こそ、次のステップへの要。
「指導より、組む相手探した方がいいんじゃないか?」
「だから追い出されたんだって。悪評立ってるから誰も組んでくれないし、時間ないんでパスです」
「そうなんだ。最近ギルド行ってないから知らんな」
「えー。……頼む人、間違えたのかなぁ」
仮にも俺の目の前で、ホシは何の悪びれもなく、聞こえる声量で愚痴ってくれる。
むかつきこそはするし、せめて隠せと呈したくなりはするが。
それでも、クソガキ相手にいちいち目くじらを立てるほど、心に余裕がないわけではない。
それに、ホシの言うことも一理ある。
間違えたとも言えるし、目聡いとも言える。
少なくとも、こちらも善意ではなく打算で組んだのだから、多少は見逃してやってもいいだろう。
……しかし、そうか。
「なあ。時間ないって言ってるけど、いつまでにいくらとか、明確な期限あったりするのか?」
「……えへへ」
「そうか。なら一年くらい掛けて、ゆっくり指導していけば──」
「あー待ってごめん! 一週間! あと六から七で二百万! だから急ぎで、なるはやで!」
恥も外聞もなく、みっともなく縋り付いてくるホシ。
ここがダンジョンで、たまたま周囲に人がいないのが、せめてもの救いだろうか。
にしても。
猶予は七日。それで必要額は二百万ときたか。
精々三十くらいだと思ってた俺の予想を優に超えてくるとは、中々どうして恐ろしいガキだ。
何にせよ。
そんなにまとまった金が必要なら、こんな浅瀬でやってても、到底間に合いはしない。
何より、俺の方も埒があかない。
変異種が落とす宝具は、ダンジョンに置かれた宝箱の中身と同じ。
より深く危険な領域にこそ、より価値のある宝具は眠っていると。それが冒険者にとっての常識だ。
……なら、むしろ好都合か。
ステラの補助魔法をどうこう出来る宝具が欲しいのであれば、より奥へ。
どのみち、いつかは進めなければならない次のステップ。
少し早いし、こいつの体質を考えれば不安はあるが、良い機会だ。俺も腹を決めるとしよう。
「予定変更だ。一旦帰るぞ」
「え、もう終わり!? もっとやれますよ! 稼ぎましょうよ! みーすーてーなーいーでー!」
「喧しい。誰も捨てるだなんて言ってねえだろ」
煩いホシは無視しつつ。
外套を翻し、ダンジョンを後にするべく、足を進めようとして──一度、振り向く。
「むしろホシ。お前、命を賭ける覚悟くらいはあるよな?」
「ほえっ?」
呆けるホシに、ニヤリと笑みを浮かべてやる。
「一週間で、強さも金も手っ取り早く片付けてやる。生きて帰ってこられたらな」




