最強補助魔法師、ステラ
目が覚める。
仄かな眠気が残る中、ベッドの上で体を起こそうとして、自らにかかる負荷を認識する。
……またか。
「……おい、おい起きろ。おい、ステラ」
「ん……?」
隣へ目をやれば負荷の原因──すうすうと、俺の腕にしがみつきながら寝息を立てる銀髪の美少女。
あの日より、ずっと組んでいる仲間。
ステラの肩を強めに揺さぶると、どこか不満そうに、寝惚け眼でこちらを見つめてくる。
「ふわぁ。いいじゃない、もうちょっと寝てましょうよ……」
「寝てましょうじゃない。なんで俺のベッドにいやがる。ほら、とっとと起きろ。邪魔だ」
「えー」
不満そうな目を向けてくるステラを引っぺがし、そのままベッドから降りる。
寝惚け眼を擦りながら、シーツを被ったまま体を起こすステラ。
シーツの下は、そのまま肌色。
下着さえない剥き出しの、綺麗な上半身を半端に晒す彼女に、欲より前に呆れを抱いてしまう。
「……痴女じゃねえなら、いい加減服着て寝ろってんだ」
「いいじゃない別に。というか、いい加減襲いなさいよ。へたれ」
「はっ、ごめんだね。馬鹿言ってないでとっとと出ていけ。支度の邪魔だ」
「はいはい、仕方ないわね。ふわぁ」
悪態には悪態を。
顔をしかめるステラの反論を軽く手で払いながら、寝間着を脱ぎ、適当に着替えていく。
まったく。
寝床に押し入られたのは俺の方なのに、どうしてこちらが悪いみたいに言えるの……はあっ。
「……見てんじゃねぇよ」
「いいじゃない。それとも、今から見せ合いっこする?」
「しねえよ。出てけ」
いい加減にしろと。
挑発染みた目を向けてくるステラの腕を掴み、そのまま部屋の外へと放り投げ、扉を閉める。
「ちょっと! 酷くない! 裸の女性を外に出すだなんて、最低!」
「うるせえ。とっとと着替えてこい。変態が」
乱雑に扉を叩きながら、荒ぶる女の声が聞こえるが無視。
泣きたいのは、三重に鍵を掛けたはずの扉を易々と突破され、自室の安寧さえない俺の方だというのに。
「……はあっ」
どうしてああなってしまったのか。どうしてこうなってしまったのか。
そう思う度に、かつての選択を悔いる度に。
つい大きなため息を零してしまう癖がついてしまったのは、紛れもなく彼女のせいだろう。
コンビ結成から、もう一年。
短期間で終わると思っていた関係は、どうしてか、今日まで続いてしまっている。
いや、続いているだけならいい。
ステラは実力ある補助魔法師。
かつてのパーティ、ライジングの頃のような距離感であれば、むしろ歓迎すべきことだ。
問題は、そうじゃないから。
この一年で俺とステラの関係は随分と拗れてしまっている。それこそ、毎日が億劫となるほどに。
「はいこれ。今日のお金」
朝食の最中。
ずしりと重さを感じさせる、良い音立ててテーブルに置かれる布袋。
中身はまあいつもの如く。何の捻りもない、予想通りの代物だろう。
「……あのなステラ。いつも言ってるが、いらねえって」
「はいはい分かってる。でも昨日、カジノで溶かしたんでしょ? だから素直に受け取っておいて。ね?」
俺が突き返そうとするも、ステラが慈愛の眼差しをこちらへ向けながら拒んでくる。
押して押されて、金が近づくは俺の方。
決して手を抜いているわけではない。そうであれば、どれほどマシであっただろうか。
ステラは最強になった。
誇張はない。
ある事件を経て新生と言えるほどの覚醒を遂げたステラは、常識を超越した補助魔法師となった。
最早仲間さえ必要ないであろうその実力を、果たして補助魔法師と括っていいものか。
ともかく俺が知っている補助魔法師の中では、間違いなく断トツ。
恐らくこの国……いや、この世界の補助魔法師で、こいつに並ぶ者は五人といない。或いは俺の理解が足りないだけで、そういう次元にさえいない可能性だって、十二分にある。
そして最強になったということは、金を稼げるようになったということ。
最強になったステラの前では、最早ダンジョンに夢はなく、手頃な金稼ぎの場でしかない。
それこそこの家だって、ステラが勝手に買ったほど。
故にこうして、お小遣いとしてお金が置かれるのだ。毎日、いらないと言っても関係なく。
返せないのであれば、受け取るしかない。
受け取った矢先、ステラから感じるのは安堵。
そして周囲から感じるのは、軽蔑の視線。
ステラとコンビを組んでから一年。
最強となったステラに健気に金を稼がせ、自分はダンジョンに潜らず飼われているクズヒモ。
真に遺憾ながら、世間におけるそれが今の俺の扱いであり、紛うことなき現状。
──どれほど忌々しくも、否定したくとも出来ない、完全な事実であった。




