始まりは軽い気持ち
「ステラ。君には今回の依頼を以て、このパーティを抜けてもらう」
我らが冒険者パーティ、ライジング。
中々腕の立つ、そこそこ上手くやれてきたはずの集まりにて。
パーティリーダーのアレスの口から、無情な宣告が突きつけられる。
対象は俺ではなく、俺の隣にいた補助魔法師のステラ。
綺麗な銀髪の美少女。胸の慎ましさと、基本的な愛想のなさが欠点って感じな女だ。
「……意味わからない。どうして?」
「ここ最近の君は、お世辞にもパーティに貢献できているとは言えない。君の補助魔法の腕では、追いつかなくなっている。自分でも分かっているだろう?」
報酬の分配がてら、唐突に始まったおかしな状況。
どういうわけかと、確認がてらに右を見れば、魔法使いのレナは退屈そうに鼻を鳴らしている。
次に左へ顔を向けてみれば、大楯騎士のガラハムは目を瞑って黙するのみ。
更には正面の小妖精ことララは、定位置であるアレスのそばを飛びながら、勝ち誇ったような顔を浮かべるばかり。
……なるほど。
どうやらみんなは納得済み。何も知らなかったのは俺だけってわけか。
笑えるねぇ。仮にも仲間だってのに根回しなしとは、随分と信頼されるようで何よりだよ。
「何より、レナやララから相談を受けている。君の刺々しい言動が、パーティ内の輪を乱していると」
「ふざけないで。そんなのデタラメ。私を追い出すなんて、何考えて……!!」
「大真面目だよ。俺達は『覇王の遺産』を目指す次の段階のため、活動拠点を移すつもりだ。だから、仲間の君とはここで終わりにする。これは既に仲間内で決定されたことだ」
アレスの言に、睨みを向けていたステラは言葉を返すことが出来ない。
……まあ、別に否定はしない。
確かにステラの腕はいいが、世界で一番かと言われたら、そんなことはない。
世界で一番とされる大秘宝を本気で狙うのなら、仲間を入れ替え次のステップへ……なんてのも、確かな手段に間違いはないからな。
けどなぁ、そんなこと言い出しちまうとなぁ。
ステラに限らず、俺達みーんな、『覇王の遺産』なんざを目指すには力不足だと思うんだがねぇ。
「これはせめても誠意だ。君には悪いが、素直に受け取って、それで終わりにして欲しい」
テーブルに、ドサリと置かれた布袋。
いくらかは知らないが、音から鑑みるに、きっとそれなりのお金が入っているのだろう。
ステラは助けを乞うような仲間へ視線を向けるが、残念ながら意味はない。
当然一瞬目が合ったが、果たして彼女の目にした俺は、どんな顔をしていたのかね。
「っ、後悔しなさい……!!」
乱雑に袋を掴み、現状へ必死に耐えるように、そのまま飛び出してしまうステラ。
円満とは言いがたい別れだが、まあ無理もない。
あいつ、それなりにプライド高いからな。
実力不足で追放なんざ、悔しくて仕方ない。金を突っぱねないだけ理性的だったろうよ。
ま、いずれにしてもパーティの底は見えた。
俺も若干仲間外れだし、何より自分たちから沈みかけの船になったときだ。
こいつらのことは嫌いじゃないが、ここらが潮時かね。
「さあみんな、切り替えていこう。新しい補助魔法師は既に見つけてある。早速だが、食事ついでにこれから紹介を──」
「んじゃ、俺も抜けるわ。今までお疲れさん、アレス」
「ああ、お疲れ……はっ?」
別れの挨拶はそこそこに。
飛び出していったステラに続くよう、パーティの輪から立ち去り、夕暮れの街中を歩いていく。
パーティを抜けたわけだが、正直一切負い目はない。
むしろ晴れやか。ようやくと言った心境。
思い返せば一年なんて長期間、どこかのパーティに属してダンジョンに潜ったのは初めてか。
昔は良かった。
程良い雰囲気。適度な進度。手頃な成果。
その日を満足に暮らしていければ十分だった俺にとって、あのパーティの誘いはうってつけだった。
それが、いつからだろうな。
アレスが……いや、あのパーティがより高みを目指すことへ固執するようになっちまったのは。
……いやまあ、元々か。
確かに組み始めの頃は、堅実にをモットーと話していたし、だからこそ乗ったわけだが。
次第に力を付けて、ステップアップしていくうちに上への野心を隠さなくなっていった。
それは別に、悪いことじゃあない。
冒険者なんてのは、どれだけ理性で紳士的に振る舞おうと、所詮は大なり小なり野心を原動力にしている獣に過ぎない。
妥協を許さず、欲に忠実なのはむしろ健全。
その日その日で不自由しない程度に暮らしていければ十分と、そんな俺とは根底が違った。それだけのことなんだろう。
とはいえ。
流石に設立当初の仲間を切るなんて光景は、少なくとも、初めて目にしたけどな。
さて。
ようやくパーティを抜けちまったわけだが、結構稼がせてもらったし、当面はダラダラするかね……お?
どこで飲もうか。
奮発して少し高めの娼館でも行こうか。
そんなこれからを考えながら歩いていた、まさにそのとき。
つい視線を向けてしまった、人気のない公園にて。
一人寂しく座りながら、啜り泣く見知った女──ステラの姿が目に入ってしまう。
はたから見れば、男に捨てられたみたいな。
まあ事実、それは正しいのだが。
ともかく、そんな悲惨な女の姿を見つけたので、目的地をそちらへ変える。
放っておいても構わないが、後味が悪い。
それに、まあ。
あいつ金貰ってたからな。ここで慰めの言葉でも掛けてやれば、飯と酒のおこぼれにありつけるかもだ。ついてるぜ。
「よおステラ。元気してる?」
「……アロン。何、嘲笑いに来たの? 惨めに追い出された負け犬を」
「まさか。俺も辞めてきちゃった。何だかんだ続いたが、そろそろ潮時かなってな」
軽く声を掛けながら、ズケズケと隣へ腰掛ける。
こういうとき、下手に気を違うのは悪手。
適当な男が女に声を掛けるときなんざ、適当なくらいがちょうどいいのさ。
「……アレスの馬鹿。私を捨てるなんて、許せない…‥」
「おおそうだな。あいつは馬鹿だ、大馬鹿者さ。お前ほどの補助魔法師を力不足で追い出しちまうんだからな。ほんと、もったいないことしたと思うぜ」
これは慰めというより、素直な事実。
実際、俺はステラの補助魔法に不満はなかったし、客観的に見ても優秀と誇っていい部類だ。
補助魔法に夢を持ちすぎるやつは、実はそう珍しくない。
特に最初に組んだ補助魔法師が有能だった場合、その有り難みを実感しにくいなんてのはままある話だ。
次の補助魔法師がそれほど優秀なのか。
或いは、失った女の有り難みに気付くのか。
どちらにしても、俺にはもう関係ない話。
全てはあいつらの選択。
幸あらんことを祈ってるぜ。明日の朝くらいまではな。
「まあ落ち込むなよ。実力もあって面もいい。そんな補助魔法師がいたら引くて数多。あいつらよりいい仲間がすぐ見つかるさ」
「……」
「そうだ。何なら当面は俺と組もうぜ。食っていくくらいなら楽勝だしよ」
立ち上がり、ステラの前に立ちながら手を差し伸べる。
もちろん、下心は満載。
何せステラは補助魔法師。一緒のパーティにいたのだから、魔法の腕は十分把握済み。
上手く利用すれば、稼ぎには困らない。こんなにも好条件の仲間は、そういないだろうよ。
「……アロンは、私を捨てない?」
「むしろ俺が捨てられる側だろ。おお怖いね」
「……そうね。じゃあ精々、使い潰すつもりで働いてもらいましょうか」
微笑んだステラは、俺の手を掴む。
契約は成立。
成り行きだが良い拾い物をした、なんて。
後から振り返れば、ここが人生の分岐点。
いつも通りの適当な打算による安請け合いが。
何も考えず、軽い気持ちでの頷きが。
これからの人生に大きく影響してしまう。
目の前の女は、それほどの化け物だったなんてな。俺は欠片も想像してなかった。
きっと、未来の俺がいたらこう言うだろう。
その女はやめておけよ、と。
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