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階層主

 一時の休憩を済ませた後。

 再び歩みを始めた俺達は、魔物を切っては進むを繰り返し、やがて分かれ道へと到達した。


 ここで終わりと、正面へは進めず。

 代わりとばかりに道が続くのは右と左。正反対の、交わることのない二択。

 

 どちらかが正解で、どちらかが外れ。

 ……或いはどちらも外れで、隠された道のみが正解、そんなことだって大いにあり得る。


 まあ、とはいえ。

 道中に何かしらのヒントがあったわけでもなし。

 完全な運だと言うのなら、わざわざ立ち止まり、頭を唸らせてまで悩んだって仕方ない。


 というわけで、選択はホシに委ねて右へ。

 俺が内心で選んでいた左とは逆の道を、粛々と歩く最中であった。

 

「しかしここ、白いだけで部屋も何もないな。金にもならないし、つまらねえ」


 部屋の一つ、宝箱の一つでもあれば盛り上がれるというのに。

 景色含め、まるで面白みもない。

 どうやらここを作ったやつは、お客様の心情なんて欠片も理解出来ない、三流の作り手らしいな。


「や、やっぱり引き返した方が。ぼくが選んだら、またよくないことが……」

「ははっ、これも指導の一環だな! 失敗出来る選択の機会があるなんてのは、幸せだぜ?」


 今にも踵を返してしまいそうなほど、不安に塗れたホシを笑い飛ばしてやる。


 それに、まあ。

 自慢じゃないが、こういう運否天賦に素(・)の俺はめっぽう弱い。

 賭場で金賭けてるときだって、ステラの機嫌を取るときだって。

 ここぞのニコイチは大概外して生きてきたもんだから、きっと相当に神様に嫌われてるんだろうぜ……おっ。

 

「……ビンゴ。喜べホシ、どうやらお前の勘は正解だったようだぜ」

 

 たわいもない雑談の最中、そうして見えてきたのはアーチ状の枠。

 転換なれど、行き止まりにあらず。

 境。扉なき扉。同じだけの白砂であった空間に終わりを告げるかのような、大いなる変化。


「気を引き締めろ。どんな歓迎されるか、さっぱりだからな」

「う、うん!」


 ホシへの注意は、そのまま己の気入れ。

 久々の死の気配。

 警鐘。本能の猛り。終ぞ鈍ってしまっていた感情の察知に、剣を握る力は一層強まる。


 いの一番に、境を潜(くぐ)る。

 躊躇いは、必要ない。


 そうして印とばかりに隔てりを、呆気なく越えた先。

 広がるは、大空間。 

 た(・)だ(・)一(・)つ(・)の(・)例(・)外(・)を(・)除(・)き(・)、変わらず白砂で構築されただけの、大きな部屋。


 例えるのなら、そう。

 まるでダンジョンの階層主、ボスがいたであろう大部屋のような、そんな雰囲気の場所だった。


「あれは、魔石……?」


 後に続き、部屋に入ったホシは、目の前のそれへの疑問を零す。

 真っ先に目に入る、異物。

 白砂のみの部屋で明らかに場違いな、ふわふわと浮遊する、眩く輝く紫紺の巨大石──まさしく、魔石。

 

 本来は魔物の核であるはずのそれは、どうしてか。

 知る限り、魔物の裡に宿るものでしかないはずのそれは、どうしてか。


 この不可思議な白砂の空間に。

 それはまるで、そこにあって当然とばかりに。堂々と。

 

「どういう、もん──」


 あれは一体、どういうものだと。

 首を傾げ、言葉を漏らしかけようとした。

 その刹那、大地は突然に、まるで俺達二人を感知したとばかりに、強い震えを始める。


『──英雄。試練』

「えい、ゆう……?」


 地震の最中、ホシが何かを呟く。

 まるで俺には聞こえない何かを聞き取ったと、そんな呆気にとられたような、反復を。


 何が聞こえたと。

 ホシに問おうとした、そのときだった。


 震えの中。地面の白砂が、俺達ごと動き始める。

 ──否。

 動いているのではなく、吸われている。

 中央に聳えるあの魔石に、砂漠の棺桶──流砂に捕らわれたが如く、急速に吸い寄せられ始めてしまう。


「姿勢を低く! 足に力入れろ!」

「え、は、ぐべっ!?」

 

 直ぐさまホシの頭を抑え、無理矢理に屈ませ。

 足下すぐそばへと剣を突き刺し、足を取られて一緒に流されまいと、懸命に堪える。


 本物の流砂であれば、跳んで離れるが最善だろうが。

 この場の白砂全てが、動くのであれば。

 落ちるばかりの穴ではなく、中央へと流れるのみであれば、耐えながら窺うが最良と。


 やがて、揺れは止まる。

 流れるばかりであった白砂はピタリと動きを止め──目の前には、巨躯が姿を現した。


 白砂の巨人。

 何のつもりか、人でも模しているつもりなのか。

 巨大な魔石をちょうど心の臓の位置へと置いた、大きな大きな白砂の魔物。


 嗚呼、なるほど。

 ここに至って、ようやく合点がいった。

 魔物はいないのではなく、最(・)初(・)か(・)ら(・)い(・)た(・)。

 魔石があるのだから当然だろうに、我ながら、随分と察しの悪いことだ。さては、酒の多さで脳まで焼けたか。


「し、師匠……!!」

「気を抜くな。自分を守ることだけ考えろ。生憎、構ってやれるほど優しい歓迎じゃなさそうだ」


 最早、ホシを流し見る余裕もなく。

 砂から剣を引き抜き、目の前の大敵を見上げながら、静かに構えを取る。


 敵は、あまりに強大。

 ともすれば、階層主にも匹敵するであろう脅威。単独で挑むのも馬鹿らしい、そんな相手。

 

 それにしても。

 どこかの雇われやら、果てはダンジョン自体と。

 金と宝具稼ぎのつもりで来ただけだってのに、こうも色々邪魔されるんだから、何だかな。

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