休憩
進む。
進む。
進めど続く白い道を、暴けど尽きぬ白い未知を、迫る魔物を退けながらひた進む。
魔物は、様々。
スナイヌやシロコウモリ、スナイムのような浅層のは依然として。
地下八階層に住まう四足、シロトカゲ。
地下十階層に群れるスナヘビ。
更には、ここ数日で飽きるほど見たバロン。更には、その他諸々。
見知った姿。
初見の様相。
まさに白砂の塔のオールスター。
魅力の目白押し、詰め合わせと言った所。
幸運と言えば、変異種に相当するのがいないことか。
一頭一体一匹を相手にするのはまだしも。
そこに変異種交え、背後に気を遣いながらともなれば、流石の俺にも余裕は持ち得ない。
……そうだ、余裕はない。
クズ一人。ダンジョンの脅威にさらされ、道半ばで果てるだけなら、まだしも。
俺の死は、即ち俺だけの死にあらず。
どうにも許容出来ない、実に最悪と言っていい、クソッタレの末路を迎える羽目になってしまう。それだけは、絶対に御免だ。
「……ふうっ」
飛び越えざま、バロンの首を刎ねる。
着地と同時に地を這うシロトカゲを断ち──此度押し寄せた、最後の一体を斬り伏せ、一息つく。
疲労が溜まる。
焦燥が募る。
幾度の戦闘を越えながら、差し当たって何の成果もない。
徒労を突きつけられる結果こそ、進展が窺えない現状こそ、何より心を消耗させてくる。
とはいえ、俺はいい。
この程度、さしたる問題になどなりはしない。
「…………」
問題があるとすれば、後ろ。
まるで審判を待つ、罪人とばかりに。
俯き、言葉なく、煩わしいとさえ思えるほどの生意気さなど、鳴りを潜めながら。
「……結構歩いたし、そろそろ休憩するか」
「え、でも……」
「うるさい。俺は疲れた。ほら、水と食いもん寄越せ」
ホシの意見は知ったことかと。
どさりと。
尻の汚れなど気にせず腰を下ろし、壁に寄りかかって休憩をする。
何か言いたげなホシだったが、それ以上はなく。
背中に背負っていた鞄より皮の水筒と携帯食料を取り出して、こちらへと渡してくれる。
水は大分温いし、安物の乾パンもどきは変わらずクソマズい。
ダンジョンの中での食事の侘しさは、実に久しぶりで、どうにも昔から変わらない安心がある。
より深く、より困難に挑むのであればモチベ維持は必至。
食事のために料理で人を雇うパーティもあるのだから、決して馬鹿には出来まいが。
それでも、俺にはこれくらいが丁度良い。
ダンジョンの中では抑えるからこそ、生還の後の一杯や食い物が美味いのだ。……まあ、不味いよりかは美味い方がいいとは思うけどな。
「そらお前も休め。そんで食べておけよ。休めるときに休む、冒険者なら鉄則だぜ」
未だ立ち尽くすホシに促してやるが、どうにも反応が悪い。
どういう心情かは知らないが、相当に応えたか。とことんガキらしくて何よりだよ。
「ごめん、なさい……」
「ああ?」
「ぼくのせい、だよね。こんなことに、なったの。ぼくがいたから、あの人達は襲ってきたんだよね。全部、ぼくが師匠を巻き込んじゃったから……」
ぽつりと、俯きながらに謝罪を漏らすホシ。
ポロポロと、瞳から零れる滴。
一度吐いたらもう堪えきれないと、白いだけの空間に、こいつの悲観が響き続ける。
否定はしない。
というより、否定する材料を持ち合わせていない。
ステラの補助魔法を除けば、俺に特別な要素は一つもない。
現に冒険者として生きて十年近くになるが、こんな異常事態を迎えたことは一度とてない。
だから、俺が原因でないとしたら。
それでいてこの騒動が偶然による産物でなかったとしたら、疑うべきはもう一人のみ。
ホシ。
もしも俺は巻き込まれただけで、このクソガキをこの領域へと招くためだとしたら。
酒の席なら吐いて捨てられる、そんな荒唐無稽だとしても。
こんな状況じゃ、その可能性は捨てられない。違うと慰めるには、否定材料が見つからない。
「……はっ」
だがそれでも。
例えこいつが原因に、間違いがなかったとしても。
それがどうしたと、鼻で笑えてしまう。
だからどうしたと、一笑に付してしまう。
「喧しい。そんな死ぬ前の気休めみたいな自分語り、反吐が出る」
「……えっ」
「ここはダンジョン。そんで俺達は冒険者。だったら何が起きようと、死んだら自分のせいでしかない。たかだかクソガキに全責任がのし掛るなんざ、思い上がりも大概にしろってんだ」
反論されるなどと、きっと思っていなかったのだろう。
意外とばかりに声を漏らしたホシに、俺ははっきりと、俺の中にある本音を告げてやる。
もちろん、簡単に割り切れる者はそう多くない。
状況によっては、俺だって他者のせいにすることだってある。所詮はそんなものだ。
だが、今回はそうじゃない。
結局の所、ダンジョンに入ると決めたのは自分。
──何より。
「何より、今は指導中だからな。生徒のケツくらい、いくらだって拭いてやる。それとも何か? お前は俺を信用出来ないか?」
ニヤリと、笑みを向けてやる。
舐めるなよと。この程度の危機、越えられないわけがないだろうと。
お前が俺を師匠と呼ぶのなら、冒険者らしく、クズらしく。
何一つ根拠がなくたって、手前勝手に、見栄で格好付けるくらいはしてやらないとな。
「……何それ。師匠、適当すぎでしょ」
「世の中、適当なくらいでいいんだよ。ほら座れ。とっとと飲み食いしちまえ。……あ、そんなに罪悪感あるなら借金の理由くらい教えろよ。休憩中の暇潰しとして、大いに笑い飛ばしてやっからさ」
「えー。どうしよっかなー?」
何かがおかしかったのか。
ホシはこみ上げる笑いを抑えきれないと、微笑みながら俺の隣へと腰を下ろしてくる。
「……師匠。ありがとう」
「……おう」
今が何時で、残る時間は如何ほどか。
まあ、今くらいはいいだろう。
どうせもう、こっちの門限は過ぎちまってるだろうしな。我ながら、お優しいことだ。




