↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/20

楽しそう

 バロン狩りは、実に恙なく。

 むしろ俺の想像を超えるほど、順調を超えたハイペースに進み、相応の成果を取得した。


 一日目は、首尾良く。

 二日目もまた首尾良く、既に納品依頼は達成され。

 そして三日目は、変異種の二体同時発生という厄介な事態こそあったものの、無事乗り越え。


 期限まで、残るは一日のみ。

 額で言えば、足りないのは残り十万ほど。


 残念ながら、俺が求める類の宝具は出てこなかったものの。

 それでも途方もない額であったはずのホシの借金額は、いつしかもう目の前となっていた。

 

 ──とはいえ、別にいいことばかりでもないのが、人生の難儀な所だ。


「……」


 朝の食卓に走る、重苦しい沈黙。

 向かい合う、銀髪美人。

 家主でもあり、仲間でもあるステラは大変に不機嫌そうに、ただ黙々と食事を続けていく。


 決して短くない付き合いの俺には分かる。分かってしまう。

 これは、まずい。非常にまずい。

 

 ステラは基本口調が強い方だが、それでも不満は溜め込む手合い。

 溜め込んで溜め込んで──その先に待つのは、爆発。

 さぞ面倒な癇癪を起こされる。下手をすれば、追加の補助魔法を掛けられるかもしれない。


 何が原因だ、なんて。

 思い当たりがないなどと、言うつもりはない。

 誤魔化しの腕輪。ダンジョン。どちらかが、或いは両方が、こんなときにバレたか。


「……機嫌悪そうだな、ステラ」

「ええそうね。誰かさんが、私以外の誰かにかまけてるせいで、少し落ち着かないわ」

 

 探りを入れれば、ステラは手を止め、ぼやく。

 

 ……最近って、ほんの数日じゃねえか。


「……何もガキンチョに妬くことねえだろ。あくまで──」

「ええそうね、あくまで指導。でも、最近のアロンは楽しそう! 私といるときより、私と話しているときよりずっと! ええ、ずっとよ!」


 テーブルを叩き、声を荒げるステラ。

 こちらを睨むその形相は、普段の冷静で涼しげなそれとは違っている。


「ステラさん、良い子よね。一緒にいて、さぞ楽しいでしょうね! ええ、私みたいな愛想のない女と違って!」

「……ステラ。俺は別に、そんな──」

「私のこと、もういらないの? アロンも私のこと、捨てるの? また一人にするの? ねえ、ねえ? 答えて!」


 ステラより、魔力が吹き荒れる。

 ステラの怒声に呼応するように、空気が、テーブルが震えを帯び、俺の肌をひりつかせる。


 この不安定さが、今のステラ。

 一見、何一つ変わりなく。より美しい女になったがあくまで張りぼて。

 本性は俺なんぞに依存し、俺なんぞに捨てられることを死よりも恐れる、壊れた哀れな女。


 故に、怒りはない。

 故に、恐怖もない。


 あるのはただ、哀れみのみと罪悪感。

 少々プライドも棘もあったが、それでも夢を描き、上昇志向の強かった一人の女冒険者。

 例え、きっかけだったとしても。

 俺(・)自(・)ら(・)が(・)壊(・)し(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)彼女を、真っ直ぐと見つめるしか、俺には出来ることはない。


 ……捨てないで、か。

 まったく、笑わせる。

 どこまでいこうと、どこまで壊れようと、結局捨てる側なのはお前の方だろうに。


「……あっ、ご、ごめん私、私っ!」

「気にすんなよ。もう慣れてるっての」


 正気に返ったステラは、今にも泣きそうな目で謝ってくる。

 捨てないでと、縋るような。

 痛々しく、弱々しい灰色の双眸は、吹いたら消えてしまう蝋燭の火のよう。


「……次の休み」

「……え?」

「明日には一応、一段落する。だから、お前の次の休みに何かしら穴埋めしてやる。それで勘弁しろ」

  

 だから、つい。

 俺は声を掛けてしまう。自分の得にもならない妥協案を、ステラに投げてしまう。


「……じゃあ、買い物。一日中一緒にいて。あと、一緒に寝て」

「最後のは駄目だ。調子に乗るなっての」

「……けち。いくじなし。唐変木」

「言ってろ。小娘が」


 それだけ言って、俺は席を立つ。

 最終日の今日は、少し早めの待ち合わせ。

 ホシを待たせることへの罪悪感はそこまでないが、あいつに遅刻でからかわれるのは御免だ。


「……ごめんアロン。気を遣わせて、ごめんなさい。許して……」

「謝るなよ。そういうの、悪い癖だぜ」


 ごちそうさん、と。

 最後に声を掛け、手を振ってからリビングを後にし、支度を整えて外へと繰り出していく。


 別に、同情なんかではない。

 情なんて、温かいもんでもない。

 

 俺にとっちゃ、一回り歳下のこいつは所詮、ホシと何ら変わりない。

 冒険者としての仲間。歳下の小娘。それだけだ。


「おはっようございま……どうしたんです師匠? なんか、朝から疲れた顔してるけど?」


 到着した、白砂の塔入り口にて。

 こちらの心などお構いなしに、溌剌とした笑顔で手を振ってきたホシに、ため息一つ。

 

「……別に。お前は人生楽しそうだなと、本気で尊敬してるだけだ」

「え、そ、そんな照れちゃいますって、えへへー。……あ、もしかして皮肉!? からかってる!? ちょっとー!!」


 わしゃわしゃと。

 ベレー帽越しに軽く頭を撫で、それから喧しいホシを流しつつ、塔へと歩んでいく。


 しかし、そうか。

 楽しそう。楽しそうと、そう来たか。


 久しぶりのダンジョン。

 久しぶりの本業。

 この半年間、闇雲に燻り続けるばかりだったもやもやを発散出来る、久々の機会。

 

 そういう自覚がなかったなどとは、決して言いはしまいが。

 それでも、そうか。俺は楽しかったのか。

 ボロを出さないよう気を遣っていたのに、それでもステラに指摘されてしまうほど、隠せていなかったのか。


 ……クソガキのこと、やいのやいのと言えたもんじゃないな。ザマぁないぜ、本当によ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。