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死亡=現実でも死のバグ世界、お嬢様と執事の生存・脱出戦略~『詩忍にくちなし』~  作者: ふるなゆ☆


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7.変身系

 常夏の海風が年中吹き(さら)す村イーストブルー。風車が絶え間なく回っている。


 家々は低地だったり、海に浮かんだ木板の上だったりに建てられている。軽やかなのが特徴的だった。


「さて、系統の確認のため《変身系》の能力を発動してくださいますか。『じ』から始まる動物……ジュゴンに変身されてはどうでしょう。」


 ジュゴンってどんな動物だっけ?

 ポ〇モンの角の生えた白い可愛らしいのしか思いつかない。まあいいや、私は目を瞑って技を唱えた。


【ジュゴン――】


 私はアザラシのようでアザラシではない。セイウチのようでセイウチではない。イルカのようにシュッとした体型じゃない。この丸々としたボディのこれは――ジュゴンだ!


「どう……?」


「まだ判断つきはしませんね。変身だけでしたら、私もできますから。」


【カラス】


 黒鉄色の羽を持つ普通のカラスに変身したカゲト。しかし、すぐに人間の姿に戻った。


「カラスになった所で何ができる訳ではありませんから使い道はないですがね……。」


 いや、私だってジュゴンになった所で使い道……多分ないよ?


 体の中に溜まった水を吐き出した。

 単なる威力も全くない(みず)鉄砲(てっぽう)。暇だからカゲトの顔狙って放った。


 プシュッ――。

 

 が、さっと横に避けられた。


 空中で水の軌道を曲げる。何となく不思議な力で私の意のままに曲げることができた。

 水がカゲトの顔を襲う。


「わざとやっていませんか?」

「バレた?」


 ため息が吐かれた。

 ジュゴンを解除して人間に戻る。


 濡れて垂れ下がった髪。それをかき上げる。水が跳ねて太陽の光を反射する。水に滴る彼はとってもカッコよく映る。あまりの衝撃的なカッコ良さに何かムカつく。


「お嬢様は《変身系》確定でございます。普通なら水鉄砲が曲がる訳ありませんからね。」


 それもそうだ。

 しかし、水鉄砲を曲げられるからなんだ? という話である。正直、戦いで役に立てるビジョンが持てない。

 

 はぁ。なんだかため息が出た。


「《変身系》では変化後の生物が能力を持つことがあります。例えば、先程戦ったアンチギルドの幹部が変身したゴリラは超常的な肉体を得ていたと考えられます。本来、普通のゴリラであれば瓦の手裏剣を無傷で終わらすことなどできませんから。それと同様に、お嬢様のジュゴンも水鉄砲を曲げる能力を得ているのです。」


「待って。それとは比べないで。(みじ)めになるから。」


「それと変身状態の時は、その生物に対応した技を、その形で扱うことができます。変身中に《変身系》は使えませんが、《具現化系》や《言霊系》は得意系統と同レベルで使える可能性があります。」


「じゃあ、ジュゴンになれば銃とかジャンプとかをちゃんと使えるってこと?」


「銃は……ジュゴンが扱える想像がつきませんので難しいかと。ジャンプは……イルカとは違いますからね……。難しいかも知れませんね。」


「じゃあジュゴン、駄目じゃん!」


「申し訳ございませんが、私には《変身系》をご教授致すことが難しいことを申し上げます。」

「カナリンも無理かな~。」


 もう八方塞がりのような気がしてきた。


「ただご安心ください。私の(よしみ)に《変身系》のエキスパートがおります。その方に修行を頼もうと思います。」


 まあ、カゲトの知り合いに(すが)るしか無さそうだ。それを私は受け入れた。


「ちなみに、彼は王都を挟んで反対側の"西大山"におります。今日はここ"イーストブルー"にて体を休めてから出発しましょう。」


 つまり、また都に戻らなきゃならないってことだ。せっかくここまで来たのに……。仕方ない、せっかく来たのだから楽しんで帰ろう。


 私は頷いた。



「ここはいつも夏で暑いのぉ。」

「ここはいつも夏で暑いのぉ。」

「ここはいつも夏で暑いのぉ。」


 そんなことを繰り返すおじいちゃんが座って話しかけてきた。

 

 どこか見たことがある光景だ。

 しかし、思い出せそうで思い出せない。


 昔懐かしのRPGに出てきそうな建物の前にやってきた。

 私は時代的にそのゲームをやったことはないけど、推しのVTuberがそのゲームをやっている所を見たことがある。

 この『詩忍にくちなし』での自由なプレイ方法として紹介されてた動画を思い出した。


 ひとまず建物の中に入る。


 ガチャリ。


 中はクーラーの効いた涼しい室内だ。

 またもやゲームの中でしか見たことのない(つぼ)が三つ並べられていた。


 確か割るとアイテムが入っていたんだっけ?


 持ち上げて――

 真下に投げる。


 パリーンッ!


 大きな音が広がる。

 中には可愛い宝石が入っていた。それを拾いあげようとしゃがんだ。


「きゃー! 泥棒よ!!」


 ……あれ?


 もしかしてゲームの世界観じゃなかった?


 急いでその場から離れる。

 外野が集まってきた。人の視線が集まる。そう言えば、いつの間にか二人の姿がない。


「今日の昼ご飯はまだかのぅ?」

「もう食べたでしょ!」

「そうだったかのぉ。」


 何度も同じことを繰り返していたおじいちゃんは、ゲームのように同じ言葉を繰り返すボット的存在ではなく、普通に意思のある痴呆が入っているかも知れないことが原因で繰り返していたことに今気付いた。


「あそこの女です!」


 指をさされる。

 やばい、逃げなきゃ。


 急いで林の中に駆け込んだ。

 何とか人を()いてきた。ゲーム的価値観でいたら酷い目にあった……。今とても反省してます。


「ジュリネお嬢様――。」


 逃げ切った先に二人が待っていたみたいだ。いや、密かに着いてきたのかも知れない。


「お嬢様の頭はイカれていらっしゃるのですか? ええ、相当イカれておられます。」


 何その最悪な反語法。初めて聞いた言葉使いなんだけど。


「ごめん。ちょっとドン引き……。」


「待って。ちょっとひかないで。理由を説明させて!」



 ――説明中――



「ジュリネさんって別の世界から来た人間だったのね……。それで、その人間世界では他人の家に無断で入るのがオーケーで、他人の物を勝手に壊すのがオーケーだったんだ~。……怖っ!」


「あの……違います。コレハワタシガカッテニヤッタコトデス。」


 もう私はこれ程かと言う程に姿勢を正して地べたに正座をしていた。

 もうこれお嬢様的な威厳、何一つ無いな。


「ひとまずお嬢様の頭は小学生にも満たないということが分かりました。」


 否定できる状況じゃなかった。


「これでイーストブルーで一泊はできそうもありませんね。急いで都に戻った方が良いかも知れませんね。」


「泊まる場所の問題よね? それは問題ないわ。カナリンに任せてっ!」


(かく)れ家】――。


 地面に穴ができた。その穴を潜ると広い空間がそこにあった。


(かい)装】【(かい)造】【絡繰(からくり)化】


 あっという間に地下の空間は広い地下の家に成り果てた。地下三階まである広い土地だ。

 壁や床も無地の模様で彩られていて見ていて飽きない。

 ただ……物がないのがもったいない。


【家具】家財――。


 カゲトのその技で家具などが次々に現れていく。あっという間に空間に色めき立つようになった。


「これだけは守って。絶対に外には出ないでね! 最悪の場合を想定して、九、七、六、(ゼロ)――九七六零(かなりん)だけは覚えておいて」


 その言葉を念押しに伝えられた。

 外に出ると暗証番号を打たなきゃ入れなくなるらしい。



 ――――――。

 ――――――。



 ぐっすり眠ってたけど、尿意を感じて目が少しだけ覚めてしまった。


 みんなを起こさないように電気をつけず足音も立てずに目的地に進む。ゆっくりと階段を上る。

 無事に目的地に着いてすべきことも終わった。

 後は戻るだけ……だ。


 あれ? 私の部屋ってどこだったっけ。


 下手に騒いでカゲトを起こしたくはない。彼は私達のために警戒心を強めている。だから、ちょっと足音を立てただけでも、電気をつけただけでも、さっと目覚めてすぐさま参上するのは目に見えている。


 とりあえずこっちだった気が……。


 欠伸(あくび)が出る。まだ眠いし、頭をちょっとぼんやりしている。


 階段を上った。


 夜風が気持ち良かった――。


「あっ、外に出ちゃった。」


 すぐに(きびす)を返して階段を下る。


 カチリ。


 なんの音――?


 カチャッ。


 階段が突然斜めになって坂へと変形した!?

 こうなったらもう滑り落ちることしかできない。


 長い長い廊下へと出た。電球の薄明かりだけが頼りだ。


「こんな廊下あったっけ?」


 先へと進むと壁が現れた。壁には暗証番号四桁を打ち込むアナログ的なパネルがあった。


 番号は確か九、七、六、零。


 これでよしっ、と。ボタンを押した。


 壁が開いていく。何となく私は再び暗証番号を見た。よく見たら九、七、六、八になっている。零と八を間違えてしまっていた。


 ガタンッ。


 目の前に廊下を埋め尽くす程の大きさの丸い岩石が現れた。

 

 こちらに向かって転がってくる。


「やばいやばいやばいやばいやばい。」


 追いつかれないように逃げるしかできない。もう来た道をひたすら戻っていく。


 何とか坂になった階段を回避所として転がる岩石を避けることができた。


 ひとまず一安心……。


 ガチャ。


 真横から槍が飛び出てきた。間一髪当たらなかった。


「セーフ……。ってか、侵入者対策、強すぎないっ!? もうこれダンジョンじゃんっ。」


 慎重に進も――


 ガシャン。


 床が空いた。

 落ちる!


 落ちた。

 ありがたいことに下は単なる何も無い空間だった。そこに落とされただけだった。てっきり槍が敷いてあるのかと思った。


 (つか)の間――。


 開いた床が閉じて、私はそこに閉じ込められた。さらにこの空間に水が入り込んできた。


「まさかの水責めっ!?」


 段々と水位が上昇してくる。

 膝。太腿。……肩、そして顔まで来る頃には私も泳いで何とかやり過ごそうとする。が、閉じ込められていて、どうやっても逃げ出せない。


 このままじゃ水で満たされて、窒息死してしまう。どうしよう……。


 もう水は天井まで……。


 その時、一つやり過ごす方法を思い付いた。


【ジュゴン!】


 私はジュゴンになった。

 海洋生物なので何とかなるはず……。


 十分ぐらいすると息が苦しくなってきた。


 天井に向かって水鉄砲。そうすると水の波動が起きて天井にダメージを与えられる。

 何とか開いてくれ!


 少し歪んだ天井の床。そこから酸素が流れ込んでくる。何とかその空気を吸って一時的にやり過ごした。



 その後も十分置きに空気を吸うを繰り返して、夜明け頃に救出された。



「もうジュゴンはコリゴリ……。ってか、暗証番号もうコリゴリ……。」



 ただ一言。――疲れた。

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