47.『水忍』参
「申し訳ございません。――お嬢様。乱暴せざるを得ない状況にて、お許しください。」
私はカゲトに勢いよく押し吹き飛ばされた。
エリアの外に思いっきり飛び出て、水溜まりの地面を転げ回る。
【永遠・永久――】【液体操作】
そこにできた水牢。丸く広がる水の塊の中に、カゲトは閉じ込められた。
そこからは出られそうにないし、出して上げたくても水は壊れない感じがする。
「早く石像を破壊するでござる。忍者の俺らは五分は持つ。それ以上は賭け。その間に倒さなければ、カゲトは助からないでござる!」
時間制限。早くやらなきゃ。
心が焦る。息が上がりそうになる。
早く――殺さなきゃ。間に合わない。
「……待って。まずはエリアの外に出して。トドメはハロミト君。……最後は託す。」
「分かったっす。ここでやらなきゃ男じゃないっすから!」
怪物は三体が破壊され、復活中。一体をボーニーが引き受けている。
その間にルイレンが動き出した。
私もやるべき事をしなきゃいけない。早く、倒してカゲトを助けなきゃ。
「一か八か――。これに賭けるしかないっ!」
背に腹はかえられない。
ハロミトの近くに行った。
「今から私が真っ直ぐ飛び出す。ハロミトは真っ直ぐ剣を構えて!」
ハロミトが真っ直ぐ前に向かって剣を構えた。その先には水忍がいる。
私はハロミトを後ろから力強くぎゅっと抱き着いた。力強い肉体を感じられる。温かい体温が私の中に染み込み渡る。
「何なんっすか。いや、嬉しいけ――」
「いいから黙って、しっかり剣を握って。行くよ。」
【ジェット!】
私ですら制御不能の真っ直ぐ進む轟速発射。
石像に突き刺さる勇者の剣。石像をエリアの外へと押し出していく。
水忍の石像は外に出て溜まるかと力を込めて抵抗し、移動を弱めるが、エリアから出てしまう羽目になった。
水忍が抵抗してお陰であらぬ場所に飛んで行ってしまうことなく済んだ。
ここはエリア外。回復されることもない。倒すならここでしかない。今しかない。
手を離した。私はそのまま後ろに倒れて転げた。まだ倒しきっていない。
"日使用――時空の日輪"
いつの間にか石像の後ろにいて、剣で突き刺しているルイレン。
そこで水忍が動きを見せる――。
【エスケープ!】
ポチャン。
無限に回復が行われてしまうエリア内へのテレポート。
そこに七支刀の原型のない七支刀がワープした。水忍の方はワープすらできていない。
「触れてる敵の技を奪う。……七支刀の効果だ。」
石像がエリア内に向かって後ろ向きに跳ねた。このまま行かれたらここまでの努力が水の泡だ。
「させないっす!」
剣が振り下ろされる。
しかし、水忍には刃が届かない――。
このままじゃ空を切る――。
「終わったっすね。」
"能力解除"
突然、刃先が長くなる勇者の剣。それにより下がっていく水忍にも剣が届く。
ガッ!
石像を斬り裂く。水忍は粉々に砕けてそこに落下していった。
四体の怪物が消えていく。
陽光が水に反射し美しく輝かせる。
戦いは終わった。
はずなのに――。
カゲトを閉じ込める水は未だに残り続けていた。
「なんで……。倒したじゃん!」
無理やりカゲトを引き抜こうとしても不思議な力が働いて、反発の影響を受けて吹き飛ばされてしまう。触ることはできても、引き抜くことは出来なかった。
カゲトはそこに囚われたままだ――。
「このままじゃ、カゲトはっ。」
「ヤバい。いくらカゲトと言えど、このままじゃ窒息死する。」ボーニーも焦っている。いや、焦らない方がおかしいか。
どうしようもない現状。
少しでも命を繋ぎ止めたい。
私はカゲトの手に触れた。
ありったけの時間を止める。その分だけ、余裕が生まれる。その間に、できることを考える。
【時間――!】
たった十秒しか止められない時間。これが私の限界だった。
カゲトは見るからに時間が止まっていた。
が、十秒なんてあっという間だ。気休めにもならない。
「え……なんで?」
十秒経ったはずなのに。それ以上経ってもカゲトの時間は止まっている。私の能力が切れたはずなのに、カゲトは時が止まる影響を受けたままだ。
そこにフェルナがやって来た。
「確かこれは……おじいちゃんの最強の技――永遠・永久。その技の効果は、発動した時のエネルギーが枯渇するまで『永遠状態』にする技で、この状態で技を受けると、受けた技が"永遠状態が解けるまで"永続に続くというものだったはず。……多分。」
「つまり、その『永遠状態』の時に水の中に閉じ込めたり時を止められたから、ずっとこのままでいるってことで、解けるのは――。いつなの?」
「ごめんなさい。うちもちょっと分からないかも。」
そこにカナリンがやって来た。
「"解析"を使えば、どういう状態か分かるよ。」
「じゃあ、今すぐやって!」
「今は無理ね。カナリンの体力がなくて発動できない。それと、この技は丸一日かかるから。」
今はただ待つしか無さそうだ。
心がざわざわする。きっと無事なはず。希望があるから、平穏を保てる。奇跡が起きますように――。
◆
お通夜のような雰囲気。
その雰囲気に私は染まっている。それがずっと続いている。
ただ、カゲトの無事だけを祈ってる。
「解析が終わったわよ。」
カナリンに飛びつくように近づいた。
「そんな急がなくて大丈夫よ。はぁ……」とため息を吐かれた。
私の気持ちは急いでいるんだ。その気持ちのまま動いていく。
「フェルナさんの話通り、カゲトさんは『永遠状態』にあるみたいなのよ。その上で、水の牢獄と時間の停止の効果がかかってる。ほんの少しずつだけ『永遠状態』のエネルギーは減っていたわ。そのエネルギーが全て無くなったら、『永遠状態』は解かれて水もなくなり時間も動くようになるわね。」
「それでいつになったら『永遠状態』は解かれるの?」
「見立てだと約一年半とちょっと……から二年ぐらいね。それまではカゲトさんはずっとあのままよ。これに関しては、諦めるしかないわ。」
約一年半も……いや、もしかしたら二年もカゲトは永遠にあのまま――。
私を庇ったばかりに、カゲトはあの状況に陥った。私の弱さが嫌になる。
けど、死んだ訳ではない。自暴自棄にはなれないからね。……ぎゅっと握りこぶしを握った。
ここ数日で表面上における戦いの傷は癒えた。
ルイルイ兄妹がやって来た。
「カゲトの件だけど、"永久の町"の代表としてあたいらが責任持って管理する。立ち入り禁止区域にして、定期的に様子を確認するつもりだ。復活したら早急に報告するぜ。なっ」とルイレンの方を見た。
「……。」ルイレンは返事をしなかった。
「まぁ、そういう事で、後は任せな。お前らは"永久の町"に居続ける必要はねぇんだ。」
その心遣いに「ありがとう」と上の空の気持ちで呟いた。
――――――。
大切な人を失った――。
けど、その人はまだ生きている。その事実だけが悲しい心を溶かしてくれる。
「これからどうするの? 流石にカゲトさんなしじゃ石像に対象できなくない?」
その通りだ。
無闇矢鱈に進んだ所で、被害がさらに増えるのは目に見えている。カゲトがいて、こうなったんだ。このまま行けば、次はもっと多くを失う気がする。
「ちょっと考えさせて。」
私は隠れ家の外に出た。
相変わらず夜空が綺麗だ。
夜風に吹かれていく。
「……そういや、あの日も確か、こんな美しい夜空が広がってたんだっけ。」
私は美しく広がる夜の星々を見上げていった。




