44.カゲトと隠れ家
それは最高を詰め込んだ秘密基地――。
それは収納可能。何処へ行ったとしても、すぐそこが秘密基地になる。
場所は地下。その先にはもはやゆったりとできる広くて華々しい地下空間となっている。地下に作られた屋敷と言っても過言では無いかも知れない。
侵入者が侵入することはほぼないと思っている。侵入者排除のカラクリが作動するからだ。作動すると罠が殺しにかかる。私も一度死にかけた。
それがカナリンの隠れ家!
みんなのスペースである居間へとやって来た。明日は決戦の日。そんな覚悟を決めながら部屋に入った。
私好みの部屋にカゲトのセンスが光る洗練された部屋だ。オフホワイトと木材色の混じる無印カラーのシンプルイズベスト部屋――。
「って、なんじゃこりゃ!?」
あまりにも異物が目立っているせいで思わず声が出た。
シンプルな部屋の片隅、その大部分を締める黒と赤の派手なボディ。鮮やかな赤いマット。虹色の小さな柵。そう、それは景観ぶち壊しの牛の機械。
「何なのよ、これ!?」
「ロデオマシンっす!」
ロデオマシン――。ス〇ッチャとかにあるあの前後左右にランダムに揺れる牛の機械に乗るアトラクション。それが目の前にある。リビングにある!
「なんでっ、なんでこんなものがあるの!?」
「そりゃ、カナリンに頼んで買って貰ったんすよ!」
「ほんとは、ハロミトの部屋に送る予定だったんだけど、部屋に入らなくて仕方なくリビングに置くことになったんだよね……。」カナリンの補足が入った。
そりゃ、こんなに幅を取るんだから入らないよ。
ってか――
「どうして? どうして、こんなの買ったの!?」
「簡単っす。これを使って体幹を鍛えるためっすよ!」
「わざわざ、これを買う必要あった!? 体幹だけなら、バランスボールとかそんなんで良くない!?」
「いやぁ、面白いじゃないっすかぁ。」
「いや、邪魔だからね! めっちゃ部屋の雰囲気台無しにしてるし!」
これはここに置いてはいけないものだ。カナリンにハロミトの部屋に移動できるか聞いた。そしたら、「無理ね」と返ってきた。
こうなったら、返品して貰うしかない。
「カナリン。これ、返品できる?」
「無理ね。使えるのは"買う"だけで返品は技の対象外だから。ここじゃ業者の人とかも来れないし返品は諦めた方がいいわよ。」
「なるほど、じゃあ、壊すしかないね。【自分自身】【重火器】【重力】――。」
「壊さないで~。所持金なくなるぐらいの大金叩いてようやく買ったんす。壊すのはマジ勘弁っす!」
泣きついてきた。
ハロミトが邪魔で壊せない。
「買うものはもっと考えて買え!」
お金なくなってまで、こんな無駄で無意味なものを買うとか信じられない。
結局、ハロミトに泣きながら邪魔されたせいで、部屋にロデオマシンが置かれることになった。
「パルゥ。」
無邪気に動き回るパルパルが癒しだ。
ぴこんっ。
いい事考えた。
「このロデオマシン。パルパルの小屋にすればいいんじゃない? 流石にこの色味は嫌だから、柵とかマットとかを無印っぽい色味に変えて……。この牛の部分は棄てて――」
「棄てるんすか!」
「いや、邪魔じゃん!」
そこに見兼ねたカゲトが入ってきた。
「では、期限を設けるのはどうでしょうか? 色を塗り替えるのにも時間はかかりますし、少しの猶予は与えてもよろしいのではないでしょうか。」
「まぁ、カゲトがそう言うなら。」
ハロミトはこのロデオマシンの生命期間を決めた。その間だけは私は目を瞑って見て見ぬフリをすることに決めた。
「では、色付けと機械の消去は私めが行いましょう。」
流石はカゲトだ。仕事が早い。
本当にカゲトのいない生活は考えられなくなってきている。
「流石ね。そうそう。カゲトはカナリンが来る前の屋敷生活でも、雑用的なことやってたの?」
カナリンの質問にカゲトは微笑みながら、
「えぇ。家事全般から雑務に至るまで私一人でやっておりました」と答える。
「それで執事の仕事もしてたのよね……。よく出来るわね。人手が足りなくないかしら?」
「私には"影分身の術"で分身を作れますからね。人手は不足しておりませんでしたよ。それよりも、家事全般をカナリン様にして頂いてる今、少し申し訳なさを感じております。」
「気にしないで。だって、カナリンね――」
【家事!】
一瞬にして、リビングに掃除がかけられた。
ゴミやホコリがなくなった。
「"家事"の技を使えるから。何も大変じゃないからね。」
のんびりと温かな雰囲気の中、大きな牛の機械だけが違和感を放っていた。
――。
ちょっとだけふらっと外に出たくなった。
「大丈夫。九、七、六、零。カナリン! もう間違えないからっ!」
心配される私。まぁ、以前のミスが思い起こされるのだろう。
「私めもお付き添い致します。」
カゲトが共に行動してくれるみたいだ。その事実がみんなを安心させていた。
さすがカゲト……としか言いようがない。
外。永久の町の夜空を眺める。藍色の中に滲む紫が混ざる銀河には点々とした星々が輝かしく照らされている。
見ているだけど心は見蕩れていく。
「私ね、今がとっても楽しいんだ。」
お調子者のハロミトに空気を読むカナリン。何事も完璧にこなすカゲト。存在感あったりなかったりするボーニー。癒し枠パルパル。まるで家族のような温かさがある。
だけど……
「私はこの世界の人間じゃないから戻らないといけない。だけど、戻るためには危険な道を進まなきゃいけないじゃん。ふと思ったんだよね。わざわざ危険な道を冒してまで帰るべきなのかなって。それで大切なみんなが欠けたりしたら嫌だしね。」
「私めもこのチームは非常に好きでございます。しかし、この出会いはお嬢様が危険な道を進んだからこそ、手に入れたかげかえのないチームなのではないでしょうか。勇者様もカナリン様も進むからこそ同席しておられる。」
「そうだよね。ちょっと迷ってたのかも。ごめんね、変なこと言っちゃって。」
「問題ございません。居心地が良い所を好むのは人として当然でございますから。それに私めが全力で働きますので、変に悩まなくても大丈夫でございますよ。」
その安心感が心を安定させる。
星々に照らされた私達二人。
「何やら懐かしい光景が思い浮かばれます。私達が出会ったのも、このような美しい夜空の日でした。」
「そうだね。けど、私、その時そこまで余裕なかったから。そんなに印象に残ってないかも。」
「自らの技【時空】の副作用に追われていましたからね。」
「思い出したら恥ずかしくなってきた。やめよっか、この話。」
「そうですね。わざわざ今ここで、懐かしむ必要はありません。それよりも明日の『水忍』との戦いに備える方が得作ですからね。」
「そうね――。こんな所で現抜かしてる場合じゃないか。……戻ろっか。」
私達は隠れ家に向かって足を出していく。
突然、カゲトがくすっと笑った。
「どうかした?」
「いえ。お嬢様の成長を感じられて嬉しく思ってしまい。ここまでの旅で、お嬢様は立派に成長された。それはもう、お嬢様に軽口を叩く必要のないほどに。」
「待って。軽口を叩いていたのってわざとだったの?」
「さぁ、どうでしょう。」
彼はそれ以上、口を割ることはなかった。
どこか冷たい風が吹いてきた。少し重い風のように感じられた。
私達は隠れ家へと戻った。
居間の入り口に差し掛かる。
「お嬢様っ!」
カゲトに無理やり後ろに動かされた。
何故っ!?
次の瞬間、何か大きい物が壁を突き破って突撃してきた。
岩の壁にぶつかったのは牛の機械だった。
「カナちゃんに頼んで"加速"して貰ったロデオで遊んでたらぶっ飛んだっす……。」
カナリンの加速で機械の力を超えて、速く動くロデオの制御が効かなくなって、支えが壊れて吹っ飛んだってことだろう。
「まったく――」私はちょっとため息が出た。「まぁ、壊す手間が省けたってことでいいのかな?」
ハロミトは意気消沈の姿を見せていった。
ほんと、明日が『水忍』との戦いだと言うのに何をやってるんだか。
その日の夜は明け――
ついに、『水忍』の石像を解除し戦う日がやって来た。




