40.紅一天楽面、参
チクタクチクタク――。
今、頭を槍で突き刺されたような気がしたけど、違ったみたいだ。
槍はまだ頭に届いていない。
首を傾げて何とか外した――。
覚束無い足取りで何とかそこから離れる。
「なんで……?」
頭がクラクラする。
ティナの過去。その情報が全然完結しない。もっと時間をかけてゆっくり確認すれば、確実にどこかで完結するけど、経った数分の合間が命取りの中、そんなに待つ余裕がない。
何なのこれ……。
まじで……五条悟じゃん。絶対、領域展開の無量空処じゃん。いや、ドフトエフスキーの方かも。
昔の漫画のキャラを思い出した。何とか頭の中の絶え間ない記憶が簡単な情報に成り代わる。とりあえず、少しだけマシにはなった。
振られる槍。
【時間】
時間を止めて避ける私。
もう一、二秒ぐらいしか止められなくなってる。そろそろ限界かも……。
ティナは少し焦ってる様子だ。
「なんで、動けるの? 動けないはずなのに。」
投げられた手槍。何とか避ける。
【転移――!】
また避けられない攻撃だろう。ここは"時間"で……。いや、使わなくても避けれそう。
私の"時間"は多様したから効果が弱くなっていった。彼女も同様に"移転"の効果が弱くなっているんだ。明らかに移転する位置が遠くなっている。
このまま避けれそう――。
その槍を掴もうとする体制なのが分かる。このまま槍をキャッチして攻撃される。それなら――。
【時間!】
止められた時間。たった――一秒。
止めた対象は……ティナ。
スカッ。彼女は槍を掴み損ねる。
ザンッ!
ティナの腹に突き刺さる手槍。
この隙を見逃さない。
十手で槍の持った左腕を叩く。
反射的に落とす槍。その槍をすかさず掴む。
そして、頸に向かって――突き刺す。
タンッ!
彼女の首に当たる丸めた手。そんなものただ痛いだけの攻撃。致命傷でも何でもない。
「その手槍は私の――。召喚も消すも自由自在……でしょ。」
私の変身が解けた。
もう技は使えない。呼吸が荒くなる。
「あなた、満身創痍みたいね。」
「アンタもでしょ。」
薄暗い地下の部屋でお互い見合う。
「私の記憶を受けて耐えるなんて初めて。どうだった、私の記憶は? 最悪でしょ?」
冷たいトーンで放たれる言葉。
こっちは短い言葉を放つので精一杯だってのに、質問してくるな、なんて思う。とりあえず、息を整える。
「ほんと最悪だと思う。辛いと思う。同情しちゃうかも。」
「じゃあ――。」
「けど、ハロミトを殺すんなら話は別。可哀想じゃ、済ませない!」
それだけは揺るがない。
「やはり、私達は戦い合うしかないみたい。けど、私はもう手槍は出せない。」
「偶然ね。私も武器が出せないわよ。」
「じゃあ、殴り合いしかないのかな。」
「殴り合いかぁ……。」
気は乗らないけど、やるしかないみたい。
何やら音がし始める。少し騒がしい。
「追っ手が来たみたい。今回は私の負けでいいよ。だけど、死ぬ気はないから。死なない限り、チャンスは必ず巡ってくるものよ。次会う時は、どうなるんだろうね――。」
視界が歪む。
「また、会いましょう。その時はあなたが絶望的な状況でね――。」
白い吐息が落ちる。
【――。】ボソッ。
彼女が消えた。
部屋に取り残された私。
そこに国の忍がやって来た。カゲトも遅れて来た。
「大丈夫でございますか?」
「大丈夫……。ってか、遅いよ。」
体があまりにも重くて動きたくなくなった。頭もぼんやりとしてる。「――どっと疲れた。」
◆
黒い煙がゆらりと伸びていく。
半壊した建物が幾つも視界に映る。
「中級地域の各町村はどこも同様な感じのようでござるな。元凶の天道教を無事倒しても、被害はなくならない……。」
壊れた建物が目に焼き付いていく。
「なんで信者達はこんなやべぇ教会に入ろうと思ったんすかね。」
「理由は色々あるでしょう。例えば、心の穴を埋めるのに必要な存在だとか……。」
「なるほどね……」私はなんか理解した気がする。
ようやくぼんやりとしていた脳が整理されてきた。
ティナは村での居場所はなく、都市に行っても居場所はなく、奴隷となった。そんなどん底の人生を歩みながらも、自殺に走らなかったのは、きっとヘイムや宗教があったからだと思う。
もし手を差し伸べてくれたのが彼らだったら。
どん底にいればきっと掴んでしまいそうだ。
一度掴めば、二度とは裏切れない。例え悪いことしていると分かっていても、大切な人を裏切るなんてこと出来やしない。そんなに人間、強くない。
正義の心を持っているのに、悪だと気付かずに行っているなら目を覚まさせなければいけない。
だけど、悪だと自覚している人に悪だと自覚させた所で意味はない。
ティナはきっと――後者だ。
目を覚まさせることはできない。次会う時も、きっと私達は戦うしかない。
ふと、私は近くの人を見た。
「ねぇ、カゲト。一つ質問してもいい?」
「ええ。何なりと。」
「もしとても辛い思いをして、ようやくその辛い人生を幸せへと導いてくれるのが誰から見ても悪の組織で、その組織が多くの人々を殺してるとするじゃん。その子もその組織の一員で、もちろん多くの人々を殺していた時に、戦う羽目になったらさ……カゲトならその子をどうする?」
「それは、誰かそのような状況に陥っていて、その参考に……ということでございますか?」
「違う違う。ただふと気になっただけ。」そんな誤魔化せられない嘘をつく。
「私めは、迷わずに倒します。どのような過去が、理由があろうとも、悪として他者を害するのであれば、討つべき敵でございますからね。そして、最後の別れの言葉に想いを馳せますね。」
カゲトがティナと敵対したら、きっと迷わず殺すだろうな。
「じゃあ、ハロミトはどう?」
「俺は無理やりでも助けるっすよ。可哀想じゃないっすか。諦めなければきっと助けられる。俺はそう思うんす。罪は助け終わってから果たして貰えばいいんすから。」
ハロミトがティナと敵対したら、ひたすら手を差し伸べるんだろうな。例え……自分が傷つこうとも。
全く……。二人で正反対の意見じゃん。
まぁ、それもそっか。
答えなんて――ないもんね。
私は、その時思った正解を進むだけだ。二人の意見を聞いたけど、それは変わりそうにもない。
「質問答えてくれて、ありがとね……。」
カナリンやパルパルが待つ隠れ家の方を見た。その方向には傷跡が残る町が見渡せた。
「拙者は!?」
あ、ボーニー……。二人に聞いて満足してたわ。
「じゃあ……。けど、まぁいいや。もう。」
「なぬっ!?」
きっとこれから修復に入るが、この傷跡は残ってしまうのだろう。
壊滅した"天道教"の教会が灰色の煙だけを上げていた。
汚れてしまった空に向かって、どこからか現れた天道虫が自由の空に向かって羽ばたいて行った。




