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死亡=現実でも死のバグ世界、お嬢様と執事の生存・脱出戦略~『詩忍にくちなし』~  作者: ふるなゆ☆


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39.紅一天楽面、弐

 これは……何の記憶?

 見たこともない。覚えもない。未知の記憶。ただ、その記憶が一瞬にして頭の中で再生されていく。



 ――――――。

 ティナの記憶――。

 ――――――。



「私、お姉ちゃんが世界で一番大好きなの。だから、お姉ちゃんが生贄(いけにえ)に選ばれて、すっごく悲しい。」


 そこに可愛らしいフリルの服をひらひらと舞う女の子が目の前にいる。周りの目は彼女にぞっこんにも見える。


 家のような所へと戻る。

 父は二年前に魔族に襲われ亡くなられたみたいだ。母と妹との実家暮らし。残された家族のこちら側に対する視線はどこか冷たく感じた。


「出来損ないがデカイ顔しないで。あんたなんか生贄になれただけでもラッキーじゃない。」


 温度差に風邪を引きそうなほどに態度が急変する妹。外では演技に徹しているものの、今の態度のそれが彼女の実態であった。




「祠を壊されたって? 一体誰が……。」

「バムさんだ。あの……バムさんが村の邪神(じゃしん)と戦うために壊したんだ!」


 村に響き渡るその噂。

  

「バムさんが、あの魔族四天王の邪神を(たお)したぞ! これで生贄を出して襲われる風習は終わりだ。」


 歓喜に溢れる村人。この体も同じように喜びに浸っていた。



「せっかく生贄で役に立つ唯一の場所が与えられたと言うのに……。もうあんたはただの穀潰しじゃない!」



 母の心無い言葉が心を抉る。

 涙すら出ないまま、(まぶた)を閉じる。


「――お願いできる? ありがとう。やっぱり産んで良かったわ。やっぱ、お姉ちゃんと違って、優秀ね。」


 その言葉も聞き流し……たくても流せなかった。



 

 村に現れる猪の魔族の群れ。

手槍(てやり)】小さな槍しか用意できず、魔族すらろくに殺せない。

 村人が力を合わせて魔族を処分していく。


天使(てんし)


 妹の力で傷が回復していく村人。

「天使の力は、人を回復させて、魔族を浄化させるの!」


 魔族もその不思議な光で消滅する。


 そこにいた魔族の群れは消滅した。


「お姉ちゃんお疲れっ!」


 偽物の屈託ない笑みを浮かべる天使。それだけでも心は欠けていく。

 家に戻る。適当に皿洗いをするも、水が勢いよく周りに溢れて、床を濡らす。


「はーあ、役立たずはいらないっての! 戦えない。援助も出来ない。他のことはなーんにもできない。生きてる意味、あるの?」


 妹が家の中で向ける言葉の刃はとても鋭かった。


「やっぱさー、あんたなんか、生贄くらいしか価値ないでしょ?」 



 ――。



「まさか邪神が復活したとは。みんなのため、村のため、生贄になってくれ。」


 そう言われて、村の外へと出る。いや、追い出される。

 もう生贄なんて必要ない。邪神の復活は嘘。だけど、この村は無理やり追い出すために生贄なんて嘘をついた。


 必要とされていないんだ。

 村人は誰も止めてくれない。ただ、作り笑いだねを浮かべている。


 何も出来ない――。戦えないし、不器用だし、何のために生きているのか。


 生きる意味もない。ここでくたばってもいいとさえ思えた。



 巨大な蛇の魔族だ――。


 これが生贄の必要な魔族かな……。



 蛇は何故か殺さない。

 一人の男が蛇を手懐けている。そして、話しかけてきた。


「子どもが一人で上級地域を出歩くなんて危ないじゃないか。ここで生まれたら外には出られない。そう教えて貰ったんじゃないかな?」


 彼の言葉に、

「私は捨てられたから。もう戻れない……」と答える。


「ふーん。もしかして君は村の人間を恨んでいるのかな?」


 その答えに何にも返事はしなかった。首も動かすことはなく……ただ無音を貫く。


「まぁ、いいや。これは何かの偶然。ボクが君を下級地域まで連れていって上げようか?」


 行く宛てもない、目的もない旅。着いていくことを了承するのは早かった。



「ボクは――ヘイム。よろしくね。」





「君は相当な思い違いをしているね。君の能力は《具現化系》なんかじゃない。《言霊系》なんだ。」


 村の人も誰しもが疑わなかったことを彼は疑った。


「君は素晴らしい才に溢れているんだ。《具現化系》でもないのに、しっかりと活用できそうな手槍を二本も召喚できる。すごい才能なんだよ。」


 初めて褒めて貰った。

 その時から彼への思いは募っていった。



 彼に認められようと必死に技を磨いた。

 一度チェックポイントを置いた場所に特定の範囲内において瞬間移動ができる【テレポート】。


 一定範囲内に物を瞬間移動させる【転移】。


 他にも様々な技を習得し、それぞれを磨いた。




「さて、ここがこの世界の中心――下級地域、古の都だよ。これは餞別(せんべつ)さ。大切に使ってね。」


「待って。私も一緒に行きたい。ヘイムと一緒がいい!」


「――気持ちはありがたい。けど、今は連れては行けないんだ。いつかまた会ったら、ボクに力を貸してくれないか。」


「当たり前だよ。何でもする。ヘイムのためなら何でもできる。だから、私を――」


「ありがとう。それまで元気でね。」



 ヘイムは風に紛れて去ってしまった。

 残されたお金が虚しく残っている。





 夢に見た古都。

 村から出られない上級地域住みの人間にとっては、誰しもが憧れる夢。


 可愛い服を着て、可愛いものに身を包んで、優雅に飲み物を飲みながら、賑やかな外を眺める。


 あれだけ夢に見たはずの都も……。


 実態を知れば、汚い場所――。



 上級地域から来た田舎者を雇う場所はなかった。働けないからお金が貯まらない。


 お金がなければ、何にもできない。何にも買えない。ただの貧乏な人にしかならない。そして、誰からも目も向けられず、さらに貧乏になっていく悪循環。


 ヘイムから貰ったお金は簡単に底をついた。



 ――。


 久しぶりの風呂。何故かちっとも嬉しくない。

 薄着で簡易な服を着せられ、手(かせ)(かせ)をつけられる。

 肉付きの良い男に無理やり連れられて牢屋の中に閉じ込められる。


 都の土島側の壁沿いのどこかにある地下への階段。そこを下るとあるのが奴隷売買の市場。時間が経てど一向に変わらない真っ暗な景色と動けない状況、そして商品となったという事実が絶望感を感じさせる。


(ヘイム――。もう一度会いたいな……。)


 何故か思い出す希望。

 体が勝手に動いていた。



【テレポート――!】



 何にもない裏路地。ただ、誰にも見つからないという理由でチェックポイントにしていたのが幸をなした。


 しかし、行く宛てもない。


 ふらふらと進んだ。

 お腹が鳴った。そこにある男が気づいた。それが教祖様との出会いだった――。





 生きる場所のない自分に生きる場所を与えてくれた。そのままそこで生きている。そこにいる他のみんなは今まで感じたことがないほどに温かく受け入れてくれている。


 そこは"天道教"――。


 卓を囲んで食事を頂く。

 真ん中で優しく微笑むのは教祖様。本来は彼は教祖という訳ではない。彼の父が作り上げた天道教を引き継ぐ上で、教祖という役目も同時に引き続いだだけだ。つまり、二代目教祖様と言うことになる。


 天道教の理念は反フィロ人政策――。


 この都はフィロ人中心で回っている。上級地域から来た田舎者が仕事すら得られなかった事実が、その事を確かなものとして認識させる。

 そして、フィロ人ではない金がない者には救いの手は与えられず、山賊になるか奴隷となるか、飢え死にするか、待つのは悲惨なものだけ。

 だからこそ、この文化を破壊するために活動している。



 その理念を胸に刻み込んで、強くのめり込む。


 

 ある日、教祖様に呼び出される。

 そこは図書館だった。


「本を読みなさい。知識をつけなさい。さすれば、幸せの選択肢は広がる。考えて動けるようになる。少しでも小さな幸せを感じることができる。」


 長い長い文字の羅列に初めて触れた。

 最初は全く分からなかったその価値も、教祖様が分からない漢字や意味を教えてくれたお陰で少しずつ本を好きになっていった。



 知れば知るほどに、知識が広がって、考える幅が広がっていく。

 ちょっぴり博識になった気持ちで本を読み(ふけ)る。



 いつしかここが必要とする居場所になっていた。





 生々(せいせい)流転(るてん)――。

 諸行無常――。

 有為(うい)転変(てんぺん)――。


 どんな言葉で飾ろうとも、どれも現実の事実は変わらない。同じ生活は続かない。少しずつ変わっていく世の中、必ずどこかで綻んで大きく変わる。そこでようやく変化に気付く。



 二代目教祖様が死んだ。死因は奴隷商が差し向けた暗殺者による暗殺。


 善意による善行で貧しい人達を救う。しかし、裏を返せば、奴隷落ちする人を減らすことに繋がっていた。さらに、二代目教祖様はさらに、奴隷商への抵抗も行っていたのが(あだ)になったみたい。


 彼の弟が教祖の名を継いだ。

 ――三代目教祖様だ。


 ここから反フィロ人の思想が過激なっていく。

 辞めていった信者も多い。しかし、辞める理由などなかった。不退転の心のみが存在していた。



 テロリスト判定を受け、国の忍に殺される三代目教祖。



 天道教は転換期を迎えようとしていた。

 温厚な路線か、さらに過激な路線か。


 四代目教祖の座は、彼の弟ではなく、初代教祖の弟に決まった。三代目教祖の弟は側近として新たな教祖様を支えることとなった。

 ただ、実態は、弟の嫁が相当な権力を持ち、反フィロ人政策を(こじ)らせていくものだった。



 過激派となった天道教は、反フィロ人の思想に浸かりやすい魔族思想とくっついた。フィロ人は強い反魔族思想を持っている。敵の敵は味方……という理論だ。


 魔族思想――魔族と共存して行こう。その考え方は、強い魔族が現れやすい中級地域や上級地域の指示を得やすい。魔族との戦いで死者が出る。しかし、もし魔族と共存できれば死者も減る。


 路線変更と相応の力を得たことにより、陸道という強者が次々と信者入りするようになった。

 

 その後、魔族思想の頂点として君臨する男と手を組むことになった。



 その男とは、ヘイムだった――。



「久しぶりだね。――ティナ。」


 覚えていてくれたんだ……。その事実だけで胸が踊る。あまりの嬉しさに心が苦しくなる。


「ボクはアンチギルドというギルドを立ち上げたんだ。ティナにお願いがあるんだけど、いいかな?」


「何っ?」ちょっと楽しくなってきた。


「アンチギルドの幹部にならない?」



 断る理由はなかった。ヘイムと一緒の組織になれる。それだけで簡易的に承諾した。


 天道教はアンチギルドの下部組織となった。

 上に立つ組織の幹部なのに、信者に留まっていたティナに目がつき、教団内にて『力の代行者』という立場に変わる。


 それでも、今までの信者という立場を捨てたくはなかった。


 だから、名目上だけは『力の代行者』として、実質的にはただの信者として所属。そして、ヘイムの手足としてアンチギルドの幹部として働いていく。



 ――――――。



 ある日、ヘイムが戦いについて教えてくれた。久々の時間だった。


 秘密兵器の技を身につけた。


「これだけは使いたくない……。私の過去は、誰にも知られたくないから。」


「そうだね。じゃあ、こうしよう。この技は最終奥義としよう。そして、この技を使ったら、その敵を必ず殺す。死んだら、(みな)、無に(かえ)るから、君の過去を覚えることなく死ぬんだ。」


「大丈夫かな……。」


「問題ないよ。この技は強いから。」



 

 (ティナ)の記憶を相手の頭の中に送り込む技――【転送】。流れる時間はたったの一分以内。その一分の間に、もてる全ての記憶を圧縮して流し込む。


 人の脳に大量の情報が流れ込んだ時、情報処理ができずに脳はフリーズする。


 脳が無量(むりょう)空処(くうきょ)に閉じ込められている間に、手槍で突き刺し殺す。



 ――――――。

 現実――。

 ――――――。



 えっ――?


 私の頭蓋骨に手槍が突き刺さった。

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