38.紅一天楽面、壱
【自分自身――】
臨戦態勢を取る。
空気が揺れている。
楽しそうな仮面がいつまでも笑っている。
◆◆
シーン――ジュリネ。
対――『紅一点楽面』『力の代行者』ティナ。
◆◆
手槍を一つ投げてきた。
それぐらいなら頭を軽く横に移動させるだけで簡単に避けられる。
【転移――】
は――?
私、死……ぬ?
【時間――】反応する本能。
手のひらを伸ばしたぐらいの周りだけ時間を止める。唐突に無意識下で発動したせいで、時間は二秒もない。首の斜め後ろ側には投げられた槍がある。
ずっと過度に集中していたから気づけたけど、後ろから私を狙う手槍がパッと現れた。
体を反ってそれなりに避けよう。
フッ――。時間が元に戻る。槍が進む。
何とか避けれた。
進む手槍をキャッチして、今度は手槍二刀流として直接攻撃してきた。
右手が振られた。何とかしゃがんで、その先にある槍を避けれた。
ピュンッ――!
そのままあらぬ方向に投げ出されていく手槍。嫌な予感がする。
【転移――!】
左手に持った槍で攻撃してきた。
真後ろからも槍の気配がする。
【時間――!】
一本の槍を持つティナも後ろから襲いくる一本の槍も時間を止めた。その間に横にズレて――回避。
何とか避けれた……。
大技使用で何とか避けれるが続いてる……。こんなの続けてたら体力がなくなっちゃう。これ以上は続けられない。
重火器じゃ攻撃準備が遅すぎて、絶対に当たらない。
なら――
【銃――!】
撃ち抜くだけ!
【テレポート】
いつの間にか私の前にいるティナ。
横に振られる槍。
転げ落ちて何とか這いずり、立ち上がることで避けられた。
回避一辺倒だけじゃない。攻撃に転じようとしても攻撃の隙がない!
いや、諦めちゃ駄目。もう一度、銃を――。
真っ直ぐこちらに走ってくる。片手だけしか槍がない。
側面から槍が突き刺さる銃。ぶっ壊れた銃に気を取られている間に、突き刺した槍を持って、ぐるりと回して先端を私の方に向けてきた。
とりあえず、何とか後ろに身を躱した。すぐさまもう一つの槍が投げ入れられた。
【時間――!】
ほんの少しだけ時間を止めて何とか避けれる。
【転移――!】
また、飛んでくる槍……だ。
【時間――!】
何とかもう一度避けれた。
疲労感が凄い。これ以上は技"時間"を使いたくない。使えば使う程に止めれる時間が短くなって、及ぼす範囲が狭くなっていくのが分かる。
銃は駄目だ。隙が大きい。
両手で持って構えて、狙いを定めて、引き金を引く。することが多い。片手撃ちだとか流れ撃ちができれば問題ないんだけど、そんなことしたら照準がぶれぶれになるし、発射の反動も耐えられない。
私が召喚できる武器で、近距離戦ができる物があれば……。
駄目だ。銃とか、さらに隙が大きい重火器しか使える武器がない。
「お互い疲れてるし、終わりにしようよ。とりあえず、死んでくれない――?」
別に他の物でもいい。『じ』が付く武器……何がある?
あっ――。あの武器なら、多少は。
【十手!】
カキンッ!
槍と十手がぶつかり合う。
細くて軽い扱い易い軽い武器。細い棒のようなものだから、殺傷能力はすこぶる低い。
だけど――!
カッ!
十手に付いているL字の金具の間に槍が挟まった。
手首を回転。槍が落ちた。
もう片方で突き刺してくる。十手を振って、跳ね返した。
落ちた槍に"転移"をしてこない。……何故?
あ、そっか。落ちてく槍を"転移"させた所で、転移させられた場所でただただ落下するだけだもんね。
【手元に戻れ!】
彼女の手元に槍が進んでいく。すぐに槍を回収していた。
カンッ!
カン!
槍と十手で何とか張り合う。近接戦だからか、下手に技も発動してこない。軽くて振り回しやすい十手に比べて、重みもあって片手でしか扱えない二本の槍は張り合うのにちょうど良いタイミング。
互角――!
ようやく言葉を発せるゆとりも生まれる。
「しぶといね……。けど、教会のために諦められない。」
「もう幹部達は全員死んで教会は崩壊するよ。もう教会のために戦う必要なくない?」
「私が教祖でもなって、再び教会を立て直せばいい。そのためにはまず邪魔な人を消さなきゃ。」
「どうしてそこまで――。」
「私の生きる意味そのものだから。ところで、あなたって本を読む? 親世界って知ってる?」
槍と十手がぶつかり合って、その合間を抜って話をしていく。
親世界? 何それ。知らないんだけど。
「この世界はね、その親世界から生まれたんだよ。私達も親世界の人間によって創造された存在。最近途絶えたけど、直近まで親世界の本がこの世界に流れ込んでた。本を読めば、そのもう一つの世界のことを色々学べるんだ。こんなに楽しいことはないよ。」
話の流れ的に、その親世界は私の本来いるべき世界のことだろう。つまり、私にとっては変哲もない普通の世界。
「その世界には沢山の宗教があるみたい。その中でも主な宗教が三つ――。けど、その中で惹かれるものは一つだけだった。私はね、神に――興味ないの……。」
駄目だ。もう私は言葉を発せないほどに十手を動かすのに集中しなければならない。二本の槍を何とかいなす。
「だから、神の憑代になったイエスも、神の告示を伝えるムハンマドも惹かれない。唯一、惹かれたのは……ガウダマ=シッダールタ、ただ一人。」
「ごーだま、しっだーるだ?」聞き馴染みのない言葉に思わず声を出していた。
「神ではなく――仏。諸行無常の世の中の摂理を説いた。輪廻転生の仕組みはきっとこの世界にも流れていると思う。」
なかなか難しいワードが飛び出してくる。そんな難しい話をするのは止めて! 知らないよ、仏ワードなんか……。私なんか槍とやり合ってるのに必死で、四苦八苦の状態でそれどころじゃないのに。
「読めば読むほど、色々なことを知れて楽しくなっていく。本を読むのは幸せなこと。二代目教祖様は私に生きる価値を与えてくれただけではなく、私に本という生きることを豊かにする方法を教えてくれた。あなたにはきっと理解できないでしょうね――。」
手槍が両手から落とされた。
無防備になった懐に、鋭い突きをお見舞いする。
「どうせ、それじゃ私を殺せない――。」
ただ、痛いだけの攻撃。それでもダメージは入るはず。
空いた手でぎゅっと私の頭を掴んできた。
「もう、終わりにしよう。さよなら――。」
え――?
【転送】
頭が……割れる。
何か、何かに頭の中が侵食されていく。
目の前が歪んでいく――。




