37.教祖の兄の三番目の息子の嫁
地下――。
そこは天井に穴が空き、光が射し込んでいる場所。
そこはそこそこの大きさのある一室。
そこには一人の女と、それを囲む国の忍達がいた。
【ルゴプス!】
女の体は変形して、大きな恐竜へと変貌を遂げた。まるでティラノサウルスのような圧巻さを持ち、けれども素早そうな体型をしている。何よりも頭の皺が印象的な恐竜だった。
雄叫び――。
その迫力はその場を凌駕する。
◆◆
シーン――カゲト。
対――『???』。
◆◆
【前方後円墳――】
小さな墓が現れ土地が隆起する。それでバランスを崩しかけるが、すぐにバランスを取る恐竜。
【絶縁体】
恐竜を囲むように置かれる薄い壁。
「カゲトさん。今です!」
忍の合図に反応する。
「雷遁【雷】霹靂!」
強烈な雷の線が合間を抜って進む。
眩い光――。
絶縁体が周りへの被害をなくす。恐竜だけを襲う雷撃。
「効かない……ねっ。」
尻尾一振で絶縁体は吹き飛ばされる。
ガシュッ――。
忍が喰われた。
残る忍は数人。
「火炎【火球】爆炎!」
炎が恐竜を襲うが、炎を振り払ったソレはまるで無傷。
勢いよく振られた尻尾と壁に挟まれ忍の灯火がまた一つ消える。
ガブ……ガシュリ。
さらにまた一つ消える。
《何……この絶望的な状況……。》
《あの恐竜は《変身系》の恩寵で、さらに肉体的頑丈さを手に入れているような感じだな……。カゲトは様々な属性の技を使える。手数の多さで負け知らずの実力を誇るが……。どの属性攻撃も通じないとすると話が別。助太刀したいが……。拙者には二人を守らねばならないし……。》
《心配なんでしょ? 行ってこれば。私達はここにいるから大丈夫。》
《しかし、二人に何かが起きるかも知れないし……。》
《大丈夫っすよ。何があっても何とかするっすから。》
《ボーニーが修行を付けてくれたお陰で私も戦えるようになった。だから、守られなくても大丈夫。私……戦えるから。》
《行っていいのか?》
《もちろん!》
ボーニーはモニターのある部屋を出て、カゲト達が戦っている場所へと向かった。
そして、肝心の対ルゴプスの状況――。
「カゲト様。鏡をお願いします。」
「えぇ。もちろんですとも――。」
カゲトは両手の指を合わした。
「水遁【鏡】迷宮。」
恐竜の周りに現れる鏡。その下には姿を反射する水が浮かぶ。
【ビーム!】
ビームが鏡に反射し、幾度も恐竜を突き倒しては進んでいく。
パリンッ。
鏡が破壊され、そのまま頭突き。ビームを放った忍は大きく吹き飛ばされた。
大薙刀を持って攻撃を仕掛けた忍は吹き飛ばされ、他の忍二人も巻き込まれて吹き飛んでしまった。
「まさかここまで強い敵がこの世に名を轟かすことなく、こんな所に潜んでいたとは……。想像していませんでしたね。よくその強さで今まで埋もれていましたね……。」
「ヒエンマらと共に無限回廊に籠ってたか、教会の裏に潜んでいたかのどちらかだらかね。あたしは目立つ気、さらさらないし。」
刀と尻尾が衝突し合う。分は恐竜の方にあるようで、カゲトが少しだけ後ろに動かされた。
「風遁【鎌鼬】旋風――」
斬撃が襲う。
しかし、恐竜はそこまでダメージを負っていない感じに見える。
恐竜の牙が喰らいに来る。
刀が向けられる。
ガキッ――!
刀は軽々と粉々に砕かれた。
隙の出来たカゲトに向かって大きな口が開く。
【鉤爪】
カゲトの手にクローが装着され、下顎に突き刺す。その勢いのまま、恐竜の股を潜り抜けた。
振り向く恐竜。
【刀】再び刀を手にするカゲト。刃が敵に向く。
「水遁【霞】朧月」
視界が真っ白になった。
スッ――。
その間に切り裂く刀。
グルルルルルルゥ!
恐竜の方向にて、轟く咆哮。ただ叫ぶだけで、霧が吹き飛ばされる。
恐竜は全くの無傷みたいだ。
ガッ――!
恐竜がカゲトを噛み砕く。
《嘘でしょ……。》
信じられなかった。
目を疑いたくなった。
カゲトはそこにいなくなっていた……。
《……って、もしかして。》
口を開くと、そこから零れ落ちるのは木の破片だった。
「偽物……?」
「【身代わりの術】ですよ――。」
「面倒な技っ!」
割れた天井。空高くから降りてくるカゲト。その勢いに任せて刀を振るう。
「火遁【火炎】烈火――!」
炎を纏う刀筋。その刀が恐竜の頸を真っ二つに斬り裂く。
「嘘っ。こんな所でっ!」
恐竜――ルゴプスは光になって消えていった。
つまり、カゲトの勝ちである。
「全威力を太刀筋に込めて生物の弱点――頸を斬る。それで漸く殺せました。今まで戦った中で、上位に入る程の強さでした。畏敬として記憶しておきましょう。」
「助太刀に来たでござる!」
そこに棒人間のボーニーが降り立った。
しかし、敵のいない今、その姿を見て静まり返る。
「敵なら、今しがた討伐しましたよ。して、あなたはお嬢様と勇者様の護衛をしてるはずではありませんか?」
「いや、戦いのモニター見ていて、アンタがピンチでいても経ってもいられず……。」
「これでお二方に何があったらどうするんです?」
「それは……。」
――――――。
「まったく……。過保護なんだから。」
私はそんなことを呟いた。
「これで終わり……かな? けど、あの天道様にトドメをさしたのって……。」
天道様は小さな槍で殺された。しかし、今の敵は恐竜になるだけ。槍を使う敵が他にもいる? その人が真の……黒幕?
「凄いよね。天道教の黒幕を倒したもの。彼女は、地位に拘らず、裏で全てを操っていた元凶。権力者の嫁としての立場を利用してたの。あの人は、教祖様の兄上様の三番目のご息男の嫁に当たる人。」
後ろから私の肩に触れる誰かの手。
そして、その声を私は何度か聞いたことがあった。
「おめでとう。残る天道教の幹部は私だけだよ。じゃあ、最後の舞台に行こっか。」
振り向く間もなく――。
【テレポート!】
私とその女は未知の空間にいた。
電球のみがこの部屋を照らす。どこかの地下の部屋なのは分かったが、どこの部屋かは全く分からない。
【手槍――】
二本の取っ手が小さな槍を繰り出す。あの槍こそ、まさしく天道様を殺害した槍で間違いない。
燃ゆる秋色のローブが揺れる。首にぶら下げた楽しそうな仮面が違和感を放っている。
「自己紹介がまだだったね。私はね、ティナって言うのよ。私は天道教の生粋の信者。ある日、私の力に目をつけたヘイム様により、"アンチギルドの幹部――『紅一点楽面』"となり、この教会において勝手に『力の代行者』として据え置かれた――。」
緊張が走る。
緩やかに流れる異様な空気感に気圧されそう。
「勇者の処刑が上手く行かなかったのはあなたがいたから。勇者があなたとの繋がりがあったから。そして、あなたは『忍刀』のカゲトとボーニーとも繋がりがある。もし、あなたがいなくなれば繋がりは脆弱になり、関係性は瓦解する。そうなれば、今度こそ勇者の処刑が成功する。天道教も息を吹き返す。」
槍の先が私に向く。
「あなたを殺す理由は十二分にあるでしょ。だから、ここであなたを殺すわ。」
閉ざされた空間。
アンチギルド幹部かつ力の代行者。そんな実力者が私の首を狙っている。
すぐに察した――。
殺しに行かなきゃ――殺される。
不気味な空気が揺れた。




