36.タイマン最強の人間
馬の鳴き声が乾いた町に響いていた。
ゴミが風にコロコロと飛ばされる荒れた土地。質素な赤茶色の色味に染まった土地。高床式の二階のみの建物には風流な店が並ぶ。
そこはウエスタンの景色――。
「お前さんかい? この村を襲撃したって野郎はよぉ。」
そう話すのは馬に乗ったイケオジのガンマンだった。
話しかけられた方は、建物の屋根に乗る一人の男――ワテル。
私達を欺くように裏切った男だ。
「やるじゃねぇか。ここは荒くれ者が辿り着く場所。警戒を怠らず針を手入れしてるスズメバチの巣みてぇな場所だぁ。村の連中が黙ってなかったはずだぜぇ。」
「この村の人間はとても騙されやすい。血気盛んで愚かです。簡単に騙されてくれましたよ。」
二人が対面した。その様子を扉の向こう側から覗く視線。
「まぁ、いいぜぇ。で、襲撃したのはお前さん一人かぁ?」
「……そうですね。私一人で十分問題ないですから。」
お互いが言葉で睨みを効かせていた。
《ねぇ、この人ってどんな人なの?》
《彼はラストウェスタンの主忍――"チェイス"でござる。戦い方はシンプルな銃一筋なガンマンなのでござるよ……。そんな彼の異名は……》
【銃――】
パキュン。
ワテルの頬ギリギリを通る銃弾。その軌道にある髪の毛は切れた。
早い。銃を召喚して瞬く間に撃った。観てる私達では何が起きたのかぼんやりとしか分からなかった。
「ワイヤーみてぇなもんがあるみてぇだなぁ。何れ撃ち抜けるから問題ねぇがなぁ。とりあえず、俺ちゃんに一対一を仕掛けたこと後悔させてやるぜ。」
《――"一対一最強"でござる!》
◆◆
シーン――チェイス。
対――『人間道』ワテル。
◆◆
ワテルが逃げ出した。
それを追うチェイス。
だが――
カチッ。
地面から槍が飛び出してきた。
それを馬に乗りながら華麗に躱していた。
カチカチ。
馬が暴れ出した。左足の先にトラバサミが絡まっている。
今度はそこに巨大な丸太が振り子のように流れてきた。
【鎖】
左手から鎖を出して建物の柱に潜りつけ、その鎖を回収することで移動を果たす。
右手からも鎖が出ていて、馬を縛り、そのまま馬も無理やり移動させる。ただ、重いからか引きづられていった。
カチッ。
突然、馬が爆発した。いや、地面が爆発した。
二階の木製の廊下に降り立つチェイス。
「くそっ。俺の愛馬をぶっ爆破しやがって。てめぇは俺さんを怒らしちまったようだ。この怒りの熱さは、ただ沸騰する水よりも熱ぃ、まるで電子レンジで極限に熱した水のように熱ぃぜ。覚悟しろよ。」
店の間と屋根に囲まれた少し細めの廊下。
その先にワテルがチラッとだけ覗く。
「罠を張ってんのがお見通しだぜ。」
「だからといって、ここは通らなければ私の所へは来られまい。」
見え透いた罠。画面越しで見ている私達でも分かる。
手に持った銃で天井を撃ち抜いた。そこから岩が落下した。
「ちったぁ、分かったぜ。罠のある場所はぜーんぶ少しだけ隆起してやがる。それを刺激しやぁ、罠が発動するってこったろ? 違うか?」
「分かったところで、ちまちま進めば逃げられる。君は進むしかないのでは?」
「余裕ぶってんのも今のうちだ。」
銃から弾を抜いた。木の床に四つの銃弾がカランと転がった。
「血迷ったのですか?」
「そう見えるか?」
【跳弾】
新たに現れる六つの弾。それを銃にセットし、リボルバーを回した。さらに、銃を回転させている。
「この銃弾は威力はねぇが……。よく跳ねるぜ。そりゃあ、まるでビリヤードで強く打たれたピン球みてぇにな。」
壁に放たれた銃弾は壁に反射して進む。さらに反射し、反射し、反射して進む。
さらに放たれる跳躍する銃弾。
小さな廊下に発動される落とし穴、突風、毒など。それらが不発に終わり歪んで消えていく。
「これで問題ねぇなぁ。おや、まさかの展開にお前さんも焦ってるんじゃあないか?」
廊下を突っ切るチェイス。
その先にはワテルがいる。
「随分と余裕でありますね。とても浅はかです。」
【罠――!】
「見え透いた罠には引っかからねぇよ。」
【ワイヤー!】
突然、彼の後ろで大爆発が起きる。ワテルがワイヤーを引っ張って罠を無理やり起爆させたみたいだ。
爆風で前に吹き飛ぶチェイス。
カチッ。
彼の体半分が床に沈んだ。落とし穴にでも引っかかったみたいだ。
「その罠は感覚遮――」
「そんな下劣な罠、仕掛けるんじゃあない!」
【鎖――】
鎖を繰り出して柱に巻き付けて一瞬にして脱出する。
今度はワイヤーが無数に貼られた廊下へと入り込まれた。
「ワイヤーが邪魔して、銃は届きませんよ。しかし、私の方は簡単に罠を作動できます。どちらが有利か分かりますね?」
そこに、二人の男女が槍で襲ってきた。ワテルの仲間だとすぐ分かった。
【銃】チェイスの即撃ち。さっきの跳弾の銃を消して、再び殺傷力のある弾を入れた銃を召喚したんだ。
――瞬く間に撃ち殺される。
「ったく、やっぱ一人じゃねぇんだな。まぁ、いいぜ。何人相手だろうが、相手してやんよ。」
【跳弾!】
すぐさま跳弾に切り替えて適当に四発撃つ。ワイヤーに軌道を変えられながら進む。しかし、どれも彼には当たらない。
「無駄なことをしますね。」
「無駄……じゃねぇんだぜ。」
パンッ!
放たれた跳弾がワイヤーによって軌道を変えながら進み、ついにはワテルを吹き飛ばした。跳弾だからか吹き飛ばす程度の威力しかないらしい。
チェイスが器用にワイヤーを避けながら進む。
そして、あらぬ方向に銃を撃つ。
ワイヤーと壁で跳ね返っていき、ついにはワテルに衝突した。
彼は横に吹き飛ばされ、その先にある木の階段を転げ落ちていく。
地面に降り立つ二人。
【銃】
実弾が足を撃ち抜く。
悲鳴を上げながら倒れ込むワテル。
「おいおい。喚くな。子どもじゃあるめぇし。軽く撃っただけだ。走れはしねぇが、立てはすんだろ?」
煙草を蒸して、口から白い吐息を吐き出すチェイス。
【罠――】
「待て待て待て。俺ちゃん、殺そうと思えばいつでも殺せたんだ。だのに、待ってやったんだ。お前さんもそう焦るな。」
いつの間にか銃は消えて、代わりにコインのようなものを持っていた。それを彼の目の前へと投げ入れ落とす。
警戒する彼に「ただのコインだ。拾え」と命令していた。
「ここはラストウェスタン。――"決闘の村"だ。この村の奴ァ、みんな決闘が好きなんだよ。やるのも、見るのもな。ほら見ろ、こんなにも野次に囲まれちまった。」
煙草の煙がモクモクと空へと上がっていく。
建物に囲まれた荒野で二人が対面している。
「ってことで、決闘だぁ。お前さんがコインを投げろ。コインが落ちた瞬間に、俺ちゃんは引き金を引き、お前さんはワイヤーで罠を発動する。――以上だ。分かったら、そっそと投げろ。決闘に野次がわんさか集まっちまった。」
多くの人が見ている。その中には怪我をした人達も沢山いた。
「分かりましたよ。」
息が詰まる。殺風景の中、風が空き缶を飛ばしている。
コインが投げ入れられた。空中をクルクルと舞っていく。
カチッ――。
シュッ!
棘槍が飛び出てチェイスを襲う。しかし、攻撃は全て躱され、煙草の先を削り取り、被っているハットを高い場所に没収しただけだった。
コインはまだ落ちきっていない。つまり、ルール無視の卑怯な一手。ワテルはそのまま踵を返して、片足を引きづりかけながら進む不格好な走りで逃げ出した。
カランランッ――。
ようやくコインが落ちきった。
その刹那――。【銃】
ワテルの胸元を穿つ銃弾。
彼は光の粉に変わっていった。
「つまらねぇことすんじゃあない。」
銃を回転させた後、銃口から出ている煙に息を吹きかける。
「お前さんの敗因は。俺ちゃんを怒らせちまったこったぜぇ。まっ、聞こえちゃいねぇがよ。」
風の吹き抜けるウエスタンにて、彼はそんな言葉を呟いていた。
――――――。
――――――。
これで陸道は全員、死んだ。
天道教の敵も残り僅か。残っているのは黒幕のような不穏な影だった。




