33.満月照らす餓鬼
そこは私達のいる町の外の景色。
ハゲタカが空を飛ぶ。
その近くに――電柱の上に一人の女性が立っていた。美しく見るものを見蕩れさせる美貌。それを台無しにする装飾。
「待たせたね。ようやく帳の準備が出来た。これより妾が汝に神罰を下す。」
ハゲタカが屋根に乗って羽を休める。
二人が相対した。
《彼女は"シャドウ"の主忍――ツェリ。我々は厨二病とあだ名をつけてるでござる。近距離から中距離での戦いを得意としてる好戦的タイプでござるな!》
ツェリは背中につけていた黒い羽を落とした。
「さぁ、帳を下ろせ!」
町が暗闇に覆われていく。何も見えない訳でもないため、満月に照らされた真夜中的な時間帯に感じる。
《この町にある秘宝"四門の釘"の力でござる。一定区域内において釘を打った四隅の中に帳を下ろして強制的に夜にする――シャドウの町の力なのでござる。》
「ここは妾の町だ。妾の一存で町の皆共が帳を下ろし夜にしてくれた。皆の思いを胸に乗せ、汝を――死刑に処す!」
「やれるものならやってみなよ。あたし、こう見えて強いからさ。返り討ちにして食い殺してやる。」
《わざわざ夜にしたってことは、夜の状況が有利になる能力ってことっすよね……。》
《いや……。関係ないでござる。》
《え? じゃあ、なんでわざわざ夜にしたの?》
《なんか、そっちの方が技が映えるしかっこいいからって言ってたでござるよ!》
《そんだけの理由で、わざわざ!?》
◆◆
シーン――ツェリ。
対――『餓鬼道』ハスナ。
◆◆
真夜中のシャドウ――二時二十二分。
二人はもうすぐ動き出しそうだ。
「召喚。妾の究極的破壊の斧。三日月斧――【ツルハシ】!」
明るい黄色で塗られた武器だった。
弧を描くように尺の半分まで伸びる武器はまるで半月。しかし、それはどこからどう見ても斧ではなくツルハシだった。
《……ツルハシじゃん。ってか、ツルハシって普通に言ったし!》
《ツェリにとっては斧らしいでござる。》
《ってかさ、わざわざ暗闇にするならさ、派手に黄色く塗らずに黒に染めれば、攻撃が見えなくなるし、そっちの方が良くない?》
《派手な黄色にしてるのはそっちの方がかっこいいから。って言ってたでござるよ!》
《なにその無駄な考え!》
「当たらなきゃ、ただの邪魔な武器。」
【春嵐――!】
ハゲタカが羽ばたく。強烈な風が吹き晒す。
しかし、ツェリはそこにはいなくなっていた。
後ろだ――。ハゲタカの背後から襲いかかる。
「そう、易々と町を壊されると困る。」
「知ったこっちゃないね。」
【ハンマーヘッド!】
「攻撃力増長月衝突――。」
ハゲタカの頭突きとツルハシが衝突した。
鳥は地面に強く吹き飛ばされ、ツェリは優雅に道路に着地した。
「くそっ。こいつ――。痛てぇ。」
餓鬼道の姿に戻っていた。頭を抑えている。
やっぱり硬い。私の銃火器も銃も全く効かなかった程だった。だけど、彼女の攻撃は相当効いているみたいだ。
【ハゲタカ】再びハゲタカの姿に変わって空を高く飛んだ。
「早く死んでくれねぇか。」
【羽】
ハゲタカの羽が空中にひらひらと舞い始めた。
「【針】千本桜!」
羽が針のように変わり果てて、彼女を狙って突き進む。
「【土】――巨人の手の傘。」
彼女を覆うように現れる硬い土でできた手の造形。その手が針から身を守った。
「これ以上、やってらんない!」
――!?
ハゲタカが逃げ出した。相手は空を飛んでいく。これでは逃げられてしまう。
「使う時が来たようだな。――今とても疼いている。」
彼女は片手で片目を抑えながら不思議なポーズを取っていた。
「黒鉄に輝き、さざめく漆黒の【翼】――!」
真っ黒の剛毛な羽がツェリから生えてきた。
その羽で追いかける。
「鬱陶しい!」
真っ直ぐスピードをぐんぐんと上げて突撃するツェリに対して、ハゲタカはすぐさま滑空して突撃を回避した。
家と家の合間。道路の中を低空飛行しながら進む。それをツェリもまた低空飛行で追いかける。
「【氷柱】――氷山の蓬莱槍」
氷の氷柱が前方に沢山現れていく。現れていくソレの半分はハゲタカを狙い、半分は先に現れて行く手を遮る。
氷柱を避けながら二人は進んでいく。
スッ。
スッ。
速い追いかけあいに、巡り変わる景色の中、冷たい冷気が漂う氷柱が行く手を阻むと言うのに、二人のスピードは依然、落ちない。
《すごい迫力。ユニバのアトラクションとかに出てきそうな感じがするわ。》
ついに、町を抜けた――。
巨大な駐車場の上を飛ぶハゲタカ。町側にある電柱の上に立つツェリ。
「妾が追うのはここまでだ。が、汝は未だに逃げる番。」
《開けた土地――。ということは、あの技が使われるでござるな?》
《あの技って何すか?》
《とても強力な技でござる! 見れば分かるでござるよ!》
夜空の下、魔法陣が幾つも浮かび上がる。
「白銀に輝く聖なる――【剣】【追尾】」
魔法陣から剣が飛び出した。それがハゲタカを狙って真っ直ぐ進む。
避ける。
他の剣が大量に現れる。
避ける。
次々と剣が現れては、真っ直ぐ狙って進んでいく。それを躱しながらハゲタカは飛んでいく。
《ツェリの剣は大量召喚できるように、極限まで軽量化、簡素化した剣にしているのでござる。それによって剣で切ることはほぼ不可能。》
《じゃあ、何も役に立たなくないっすか? ただの見かけ騙し……?》
《見て気付かぬか? 斬るのではなく、刺すのでござる。一つ刺されても問題ないだろうが、沢山刺されれば誰しも致命傷でござる。》
なるほど。理にかなってる――。
《言霊系ではないから召喚時の最初しか発動しないけど、追撃するように放たれるそれを避けるのは相当大変な事でござる。》
もし彼女が具現化系じゃなくて、言霊系だったら、剣は追尾するように進んで行くってことかな……。
大量の剣の猛攻を避けていくハゲタカ。
しかし、避けるためにその付近からは抜け出せずにいる。
「残念だ。もう妾の射程範囲。一撃で葬ってやろう。」
「生意気な! その言葉、そのまま返す!」
空中でさらに加速。ツェリに向かって勢いを増していく。
一方で。ツェリはツルハシを手に持ち、それをぐるぐると回し始めた。
黄色い色のツルハシだからだろうか……目に見えない程の速さで回されるその状態はまるで闇夜に浮かぶ満月みたいに見える。
「死にな。【ハンマーヘッド】!」
それは威力を底上げした頭突き攻撃。喰らったことのある私なら分かる。あの鋼鉄の頭であの速さで攻撃を喰らったら……やばい。
「満月一閃――月葬!」
ザンッ!
満月の軌跡が、夜空に残る。
一瞬、世界が止まった。
——次の瞬間。
いつの間にか斬られる餓鬼道。
「くそがっ。この餓鬼がっ。あたしが餓鬼に負けるだとっ。」
粉々に砕けるハゲタカの頭蓋。そして、彼女は光となって消えていった。
スサッ――。
黒い翼をゆっくりと羽ばたかせながら地面に着地するツェリ。黒い翼が消える。
「今宵の月もここまでだ。……ふっ。」
黒い羽が彼女の周りをひらひらと舞う。
帳で無理やり闇夜にした空間で、彼女は美しく立っていた。
「終焉――。」




