30.ハロミトの処刑
闇夜に塗れる漆黒の町――シャドウ。
一面黒に染まった景色はどこか異様な雰囲気を漂わせている。所々濃く光る色や金色の龍などの紋様がアクセントになっている。
そして、ここに"天道教"の本拠地がある。
なんか……そういう悪の組織がいそうな雰囲気が出てるなー。
「……あれ? ボーニーは?」
振り向くとボーニーが消えていた。
みんなで周りを見渡すも見つからない。
「ここでござる!」
近くで声がする。
「ここでござるよ!」
声の方向を向いても見つからない。
ほんとに……どこにいるの?
「だから、ここにいるんでござる!!」
あっ、いた!
真っ黒な線で描かれた存在だから、黒い背景に溶け込んで見えにくくなっていた。この町じゃボーニーへの視認性が悪すぎる……。
「これだけはハッキリと言わせて欲しいでござる。拙者、影は薄くないでござるよ。棒人間だから、日の陰は細いけれども。」
大丈夫。今のところ、そんなに影薄いと思ったこと、ちょっぴりとしか思ってないから。
「だが、そのお陰で、伸び伸びと潜入調査が出来たのも事実だけどな……ござる。」
そうか。この黒統一の町では黒でできた棒人間は余計に存在感がなくなる。彼があそこまで情報を収集できたのにも納得がいく。
「決戦は明日。今日はひとまず明日に向けてしっかりと休むでござるよ。」
――――――。
巨大な駐車場がある。
その近くに巨大なモールがある。私はその中に入った。
広い敷地の中にはショッピングセンターと広い休憩スペースが存在している。また、フードコートが非常に大きい。
さらに、そこからお土産コーナーがしっかりとスペースを取っている。
まるでここは巨大な――「パーキングエリアみたい。」
「えぇ。ここは昔、車の道と書いて車道PAと呼ばれたこの町唯一の建物でございましたから。」
あっ、シャドウって影(SHADOW)じゃなくて車道って意味だったんだ……。ちょっぴりダサッ!
「おっと、久しいな。ちょうどええ所におった。ちいとだけ時間ええかな?」
そこにふと現れる桃太郎。
彼はカゲトを連れてどこかへと行ってしまった。
何やら、とっても重要な話があるらしい!
私はボーニーとパルパル、カナリンと共に、お土産コーナーを見ることにした。
横一列に並ぶキーホルダーの売り物。そのどれもが金色に輝く――中学生男子が喜んで買っていきそうな剣だらけだった。よくよく見ると、ご当地キャラみたいな感じで様々な種類の剣がある。
「こんなもんにコラボする必要ある? ってか、種類多すぎないっ!?」
時代劇に出る代官が持ってそうな武器のレプリカが売ってる……。それもカッコよく色までついちゃって。へぇ、十手って言うんだ……。初めて名前を知った。
何故か眼帯が売ってある。売り物の名前プレートを見た。
「何これ……。」ツェリの魔眼黄龍を封印した漆黒に燃ゆる世界を滅する力を秘めた眼帯……。長いよ……長すぎるよ。
「うわ……。」今度は、背中に付けれるタイプの翼の造形品がでっかく飾られている。――ツェリおすすめ、漆黒のインフィニティな翼……。途中でカタカナ入れるのやめてよ。ダサいよ。ダサすぎるよ……。
「テンション上がるでござるな!」
あんたはそっちのタイプかっ!
「お待たせしました。」
カゲトが戻ってきた。隣には桃太郎ではなく、国直属の忍がいた。
「さて、壁に耳あり障子に目あり。話し合いについては、隠れ家にて行いしましょう。」
――――――。
カナリンの隠れ家にて、私達は明日の作戦の一通りの内容を再確認した。
みんな少しだけ張り詰めた息を吸っては吐いている。私ももちろん、張り詰めている。だって、これだけは失敗だけはできないから……。
場所はシャドウの中にある巨大なドーム状の建物。――天道教の所有地。
「まずは拙者が密かに忍び、処刑者達の裏を取るでござる。そして、タイミングの良い所で闇討ちを仕掛けるでござる。」
「そのタイミングで私は"銃火器"で天井を撃って、注目を集めればいいのよね。」
「私めの"鏑矢"でも注目を集めます。」
「うちも適当に姿を見せて注目集めるよ。」
闇討ちの時、多くの人がそこに集中されていたら、抵抗された時に対策が講じられてボーニーの行動が無駄になるかも知れない。
だけど、私の派手な攻撃とカゲトの派手な音、そしてフェルナの派手な姿で多勢の注目を散らす作戦だ!
「多分、そうなったら相当パニックね!」
「そうでござる。そして、場がパニックになってる間にハロミト君を助けるのでござるよ!」
「助けることができたら、速やかにそこから避難して、ここで待つって訳ね。」
「今回はカナリンはこの子と一緒にお留守番ね。絶対に無事で帰ってきてね!」「パルゥ!」
そうして、教団が瓦解する時が過ぎるのを待つ。
「ここで一つ伝えておくことがございます。」
カゲトがそこに付け加える。
「私めは国より、桃太郎氏と共に、教団の掃討作戦の命を受けました。ですので、皆様が逃げる間、私めは別行動を行います。ジュリネお嬢様と助けた勇者様におきましては、ボーニーにお願いしようと思います。」
「分かった。とりあえず、無事で帰ってきてね。」
「もちろんでございます。」
やるべき事はしっかりと頭に入れた。後は明日、しっかりとそれを果たすだけだ。
失敗したら、ハロミトは死ぬかも知れない。
絶対にそれだけはないように。
震えて止まらない手で、ぎゅっと靴紐を強く縛った。
◆
「宣戦……布告?」
今朝の雲はまるで曇天。
「"天道教"は中級地域の各町村に宣戦布告とも取れる旨を伝達しました。今日より各町村は天道教の支配下に置く、と。」
どうしてそんなことをしたんだろうか……。
「永久の町の一件を知れ渡っていて、巫山戯半分の宣言ではないことも重々理解してるでしょうからね。相当お怒りになっていると思いますね。」
各町村を守る主忍にとって、宣戦布告に怒るのは当然の話ではある。
「それを告知した広告塔と思しき『知恵の代行者』はシャドウの主忍――ツェリ氏に追われ、つい先程、待ち伏せした国の忍に討ち取られたようです。」
つまり、『知恵の代行者』は既に敗れ去った……と。
「さて――。」
巨大なドーム状の建物はまるで教会みたいな中身をしていた。多くの人が屯している。
奥に置かれた十字架にハロミトが縛られていた。そのすぐ近くには処刑人と思われる長い薙刀を持った人がいる。
今、私達は銅像の物陰に隠れながら様子を窺っていた。
教祖らしい人が十字架の前へと出た。群衆よりも高い段――位置にいるせいでとても目立っている。
「我々は長らく野蛮なフィロ人に苦しめられた。下級地域以外見捨てたのはフィロ人だ。生活を苦しめるのもフィロ人のせい。治安が悪化していくのは? フィロ人のせいだろ? 山賊が多いな。それもフィロ人のせい。山賊にならざるを得ない状況を作ったフィロ人が悪い!」
その言葉に賛同が集まっていく。
歓声のような雰囲気もある。それから長らく彼は黙っていた。
静かになった。再び彼は話し始める。
「我々人間は魔族と共存すべきなのである。そすれば、我々の住める場所は広がり、得られる資源を増える。だが、どうだ? 野蛮なフィロ人は魔族を虐げ殺害するだけに留まらず魔族側に着く人間をも虐げている。これは許されることだろうか? いや、許されていいわけない!」
またもやガヤの声が響く。それが静かになるのを待つ。
「魔族は元来人間である。上級魔族は人間同様の知恵を持つ。交渉により、上級魔族に中級魔族以下の魔族を管理させれば危険に及ぶことはない。魔族に脅える暮らしもなくなるのだ!」
派手な手振り身振りで見るものを引き寄せていく。彼のスピーチテクニックは凄まじいものがある。
私もつい聞き入ってしまう程だ。
「この世界は残念ながら、革命以外に変えられない。フィロ人がいる限り、この世の中で幸せになることはない。だから! 変えなきゃ未来がない! そうだ、我々が革命を起こし! 世界を夜明けに導くのだ!」
この場のボルテージが高まっていくのが分かる。空気が張り詰める。
「我が闘争――その第一幕。これよりフィロ人を代表する――選ばれし勇者の処刑を行う。この処刑を皮切りに、我々の革命の火蓋は切って落とされる。さぁ、歴史に刻むのだ。これは我々の幸福な世界への第一幕だ!」
カチャッ。
薙刀が高く上げられた。
この瞬間な興奮する人達の視線の先にいるハロミト。彼に向けて薙刀の刃が向けられた。
【木刀】
黒い壁に塗れて見えなくなっていたボーニーがすかさず処刑人を斬り殺す。
反応する間もなく闇討ちによって消える二人。
今だ――!
【自分自身】【銃火器】
天井に向けて砲弾をぶっぱなす。
爆発が視線を集める。
【鏑矢――!】
独特な音が教会の入り口側で鳴る。視線を背後に送るしかないだろう。
さらに、追加のフェルナによる……
【フェニックス!】
巨大な赤い鳥が入り口側にて現れた。
しかし、その時だった――。
壁側から破壊の音が響く。
何が起きてるのか。
そして。
天井が崩れ、崩落した――。
壁側に影が四つ程見える。
それも圧倒的存在感を放つ影だ。
威圧感を放った四人がそこに立っていた。




