26.陸道の人間道
「歴史は第四フェーズで語られる。その第一フェーズが僕の分野なんです。この第一フェーズとは、魔族が現れる以前の世界のことを指します。」
「じゃあ、いつから魔族が現れたんすか?」
私達は森の中、違和を放つ家具に座りながら休憩をしていた。
彼は安らぎながら「それはですね」と口を広げる。そこに「それはカナリンに説明させて」と彼女が割り込んできた。
「むかしむかし、この世界には最強の忍軍団が二つあったの。一つはコルガ派閥。彼らは今の国王軍に仕え、直属の忍として力を付けた。もう一つがインガ派閥。今の魔王城で自ら民を従えた。」
なるほど。国側と、もう一つは独立勢力……。
「むかし、神の花と呼ばれる"透明の梔子"という世界に一つだけの花があったの。その花を供物に捧げると神と対話できると言う不思議な力を持った花。その花を使ってインガ集団の長は神と対話して力を得たの。『世界征服がしたい。そのための力をください』と。対価として、征服後に国王のみが持つ王笏を引き換えに捧げることを約束した――。」
つまり、インガは"梔子の花"を利用して神と対話した。取引内容は世界征服のための力と国王の王笏。
「インガは世界征服を目論み、国を攻めた。コルガと王国連合軍は神の力を得たインガと劣勢になりながらも対抗した。長らく戦争が続いたのよ。」
予想はつくが結果が気になる。
「結果は連合軍の勝ち。負けたインガは世界征服を出来ないどころか、神に捧げるはずの王笏を得ることはできなかった。神は憤怒して、インガの集団や関わりのある者達を罰として魔族に変えた。」
つまるところ、インガは負けて、罰として魔族に成り果ててしまった……と。
「その後は、魔族は人間離れした生殖能力で増殖していったわ。その圧倒的な数に侵食されて、妖精族は住処を追いやられて個体数も減少――幻の存在になってしまったのよ。」
それでカナリンは……。
そこに眠る歴史を知って、私は少し俯いた。
魔族は人間と言う事実が裏付けされた。私の悩みはさらに深くなったような気がした。
「これでカナリンがあなた達と一緒に旅をしている理由が分かるんじゃない?」
カナリンは魔王を討伐する目的がある。その理由は聞いたことがなかった。
「カナリン達の種族の再興のためよ!」
あー、そっか。
彼女は立派な目的があって、それを叶えるために魔族に立ち向かっている。
私だって、元の世界に戻るために魔王を討伐するという理由で旅をしている。結局、魔王――つまり人を殺さなきゃ、この世界に閉じ込められたままになってしまう。きっと家族や大切な人の死に目にも会えずに後悔する。
腹を括って割り切らなきゃな――。
まだ心が重い感覚がある。けれども、進むしかなさそうなのだから、仕方がない。私は椅子からゆっくりと立ち上がった。
森の匂いを感じ始めた。
◆
歴史学者ワテルと助手のファミに着いて進む。
そんな中、森の中で猿の魔族が現れた。
【刀】カゲトが刀を取り出す。
「待ってください。」ワテルがカゲトに声をかける。
「極力魔族は倒さないでください。」
「どうしてでしょうか? 身の安全のために倒すのが手っ取り早いのではないでしょうか?」
「魔族は元を辿れば人間。無闇な殺生はいけません。本当に命の危険が及ぶ場合は例外ですが、そこの"ウッズモンキー"は悪さはすれど、人に危害を与えることはありません。ですので、見逃してあげてください。」
彼の言葉を受けて刀は消された。
猿……いや、ウッズモンキーは悪巧みを浮かべている。
そのまま進んでいく。
靴のカカトが脱げる。……踏まれて脱げる。戻しても、踏まれて脱げる。
「うざったいな! 地味な嫌がらせか!」
ウッズモンキーがアウトドアの靴のカカトを踏む悪戯をしてきた。ちょっと苛つく。
膝カックン!
「こいつら……!」イライラが溜まってく。
ワテルの頭の上にウッズモンキーが乗った。やはり、彼は上手く猿を手懐けられるのだろうか。
プウゥ。顔面へのオナラだ。猿が悪そうな笑みを浮かべている。
「大事なのは我慢です。そうすればきっと穏便に仲良くなれるはずですから。」
足を引っ掛けて転ばせ。
大量の枯葉を投げる。
もはや、そんな事されても平気なワテルに感心する。
あっ――頭にうん〇して飛び去った。
臭う――臭い!
こんな最悪なことをされても、ワテルはきっと変わらずにこやかな表情をするんだろうなー。
「ぶっ殺してやる! このクソ猿がぁ!!」
ワテルがめっちゃブチ切れた。「落ち着いてください」と助手が止めに入った。
まー、そりゃブチ切れるよね……。
あまりにも臭いので、水のある所を目指す。川でも湖でも、近くにありそうな所なら何でもいい。
彼らに着いていくと湖に辿り着いた。
ワテルは湖に足を入れる。そんな時、前方から何かが現れていく。
「貴様ハ誰ダ? 神聖ナル泉ニ何ノヨウダ!」
湖に現れる一匹の美しい鹿の魔族。その毛皮はとても美しい。それは湖の上に立っていた。
ワテルが深呼吸してから言い放つ――
「我が名はアシタカ!」
「嘘つけ!!」思わず突っ込んでしまった。
「気を取り直しまして……、我が名はワテル。頭についたう〇こを洗い流しにこの地に来た。そなた達は上級魔族のカミシカか? 借りるぞ、湖。」
「オイ待テ! 待テ待テ待テ! 汚イ、止メロ! 湖ヲ穢スナ! 去レ!!」
ワテルの頭が綺麗になった!
「コノ馬鹿野郎ガ!」
彼はカミシカという魔族に角で高く飛ばされて湖に着水した。命に別状はなさそうだ。
【乾燥】カナリンの技でびしょ濡れの服は瞬く間に乾いていった。
それなりに歩くと山の麓に辿り着いた。
「ここはZプリンス山です。ここを通れば、Zプリンセス山です。」
洞窟の中に入る。
中は真っ暗だと思いきや、洞窟の中では岩に埋もれている光る宝石があり、それが自ら光を放っているので意外と明るかった。
アメジストカラーやトパーズカラーからエメラルドカラーまで様々な色の宝石が照らしてくれている。
入り口からの下り坂一本道。
ガコンッ。
何かを踏み込んだ。
ゴト。
入り口付近から道を埋める程の大きさの岩玉が下り坂を転がっていく。その先には私達がいると言うのに。
「気をつけてください。この山は至る所に"トラップ"がありますから。」
「それ早く先に行ってよ!」
急いで逃げていく。
横を見たカゲトはパルパル抱えていて、窮地を脱する技とか使えなさそう。
追いつかれたら……やばい!
「何とか助かったっすね。」ポチッ。
ハロミトが片手を壁に当てて体重をかけた時、何かボタンのようなものを押した。
ガシャン。
壁の横から槍が突き出されていく。
何とか避けられた。
はぁはぁはぁ……。疲れた。
なんかデジャブを感じるわ――。
前も一回、岩と棘のトラップに引っかかって、その後水責めのトラップにも引っかかったっけ。
「進みましょうか。僕に着いてきてくださいね。」ポチッ。
ガコンッ。足元に穴が空いた。
落ちていく。
落ちた先には川だ。
「みんな私に捕まって!」
【ジュゴン】
川の流れが早い。早い所、岸に上がらなきゃ。
みんな掴まってくれてるかな……。とりあえずハロミトが掴んでいるのは分かる。
チラッ。
後ろを振り向いた瞬間、流れに体の自由を奪われてしまった。
しまった――。
私達は流されていった。
◆
息ができる。
ここは……。
ここは洞窟の中。川に運ばれて川沿いの岩場に流されてきたみたいだ。
ここにいるのは私とハロミトとパルパル、そして助手のファミ。
「ワテルさん達が気になりますが、ボク達だけでも先に進みませんか。先に山を出て待てば合流できますから。」
その意見に賛同した。
「ファミさんは道は分かるの?」
「何となくなら分かりますよ。……何となくですけどね。」
ファミに着いていくこと数分。未知なる洞窟を進むんだ先には太陽の光が見えてきた。
青い空の下、大きな鳥が旋回しながら飛んでいる。
「外だ~!」
ようやく外に出られた。そこは山と山に挟まれた盆地。多分、目の先にある山が目的地のZプリンセス山だろう。
空から何かが襲いにかかってきた!
大きな鳥だ!
鳥は巨大なキリのような釘のような物を掴んでいた。それで刺そうとしながら滑空している。
カキン。
私目掛けて進む攻撃は、ハロミトが突き刺した勇者の剣で防がれた。
しかし、依然とその鳥には狙われたままだ。鳥は空を旋回しながら攻撃する隙を窺っている。
【自分自身】【重火器】
再び攻撃を仕掛けてきたが、それを重火器の盾で防ぐ。
「やるねぇ……。」
鳥が言葉を介した。ただ、魔族の中には喋れる種族がいるから不思議でも何でもない。
「なんなんすか、この変な鳥は……。」
近くでよく見ると、本当に変な鳥だった。黒い羽や体毛はふかふかしてそうなのに、頭はつるっつるだ。端的に言えば、禿ている。
「我が鳥名はハゲタカ! 変な鳥じゃない!」
あれ? なんかどっかで聞いた台詞だな……。
ああ……、あれはアシタカだった。こっちはハゲタカだった。ややこしいなっ!
「まあ、いいや。めんどくせぇ。こっちゃあ任務があるんだよ。さっさと跪けや!」
任務……?
確実に言えるのは、この鳥は普通じゃない。この鳥は一体――。
その鳥から放たれる眼孔はとても恐ろしいものがあった。その威圧で体が震える。気を緩めば、殺されかねない。
呼吸を整えた。
未だに殺すのには躊躇いがある自分がいる。けど、そんな中途半端で――。
戦える訳がない。
【春嵐――!】
凄まじい羽ばたきが強烈な風を生み出した。私は山の崖に体を打ち付けた。
こいつ――強い。
この鳥は一体――何なの?




