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死亡=現実でも死のバグ世界、お嬢様と執事の生存・脱出戦略~『詩忍にくちなし』~  作者: ふるなゆ☆


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25.陸道の修羅道

 私は私を責めた――。



 心そこにあらず。

 魂が舌に移り、その魂を得た舌は引きちぎられそうになっている。


 もう何も考えられない。

 カゲトが近づいてくるのが分かる。


 だけど、間に合う訳はない。


 つまり、私の(つい)――。


 ――。


 

破壊(はかい)――!】



 足が崩れ落ちた。地面にペタンと座っている自分がいる。

 地面がひんやりとしている。体が震えている。もう体を動かせない。


 一体全体、何が起きたのか……。


 ハロミトの声がする。


「パルっちのベールに弾かれた勢いをそのままカナちゃんの"加速"に乗せて――一気に距離を詰めたんすよ。見直したっすか?」

「ええ、流石は勇者様でございます。」


 顔を上げた。


 私の前に立つ二人は太陽の光をスポットライトにしながら、輝かしく鋭い武器を構えて立っていた。


 ふと下を向くと、そこにはバラバラに砕け散ったヒエンマの武器がある。さっきのハロミトの技、破壊を受けて壊れたのだろう。



「『修羅(しゅら)道』よ――。退却だ。退治や足止めをしている場合ではない。一度、陣形を整えてから捕らえに行く。」


 修羅道と呼ばれたトラリュウは私達と距離を置く。そして、地面に手を置いた。


「最後に我々の合体必殺を行いましょう。それで勇者を奪えるなら今のうちに奪えばいいんです。」


 彼らがハロミトの方を見た。確実に奪いに来ようとしている目だ。

 

「修羅の道【(とげ)山】」――「【火】の針山地獄の刑!」


 地面から棘が生えていく。棘は一瞬で地面を覆い尽くし、逃げ場を奪うように迫ってくる。その棘は火を纏っている。


「勇者様、こちらも同時に技を使いましょう。頼みますよ。」


【カーペット】――【()ばたけ!】


 カーペットが現れる。そのカーペットに羽が生えて浮いた。

 お陰様で棘には当たらなかった。



飛行(ひこう)――】



 敵二人が浮き始めた。

 そして、二人は私達を見下ろしている。


「撤退ですか……。また、いつかお会いしましょう。カゲト先輩、次に会う時は、ただの村人Aから忘れたくても一生忘れられない(かたき)にさせます。それまではお元気で。」


 トラリュウはそう言い残し、ヒエンマと共に空を飛んでいった。


 彼らの姿は見えなくなった。


 私の心にぽっかり空いた穴。すぐに埋まる訳もなく、ただ茫然自失に陥りかけていくのが分かった。


 なんか……疲れたな。





 隠れ家は木の下に続くように作られている地下の建物。カナリンによって出し入れ可能な便利な家だ。


 立派な家具もあって、しっかりと休める空間になっている。


 はずなのに――。


 心にポカンと空いた穴が埋まらないまま時間だけが過ぎていく。



「お嬢様、ホットレモンティーでございます。」


 命令した訳でもないのに、そっと出される飲み物。ミントの葉がぷかぷか浮いている。


「ありがと。」


 甘酸っぱい液体。だけど、心の中は満たされてくれない。


「なぁ、ジュリちゃんっ。ゲーム買わないっすか? カナリンの能力で好きはゲーム買えるんすよ。」


 相変わらずの元気だ。変わらない雰囲気を見て、羨ましいようなそんな気持ちが現れては消えた。


「はぁ……。勇者様、お嬢様は今そんな状況ではございません。もう少し周りを――」


「いいよ。大丈夫。」


 少しだけ、心の空腹感は和らいだような気がする。


 カナリンの技"買い物"で遠くにいながらもお金を消費することで物が買える。それでバトミントンラケットを購入したみたい。その場に召喚された。パルパルもやって来て、二人で遊んでいた。


 微笑ましい空間が広がっている。その様子が少しだけ埋まらない穴を埋めようとしてくれる。けれども、全く埋まってはくれない。


「少しは落ち着いたみたいですね。では、私から一言よろしいでしょうか?」


 その様子を見ながらも、カゲトの言葉に返事する。


「お嬢様は向き合わなければなりません。逃げることは簡単です。しかし、このまま逃げていては欲しい結果は結局手にすることはなく緩やかに()ちていくだけでございます。」


 突き刺さる現実。

 心の中で前を向いた。真っ暗で先が見えない。


「知ってる。知ってるけど、怖い。」



 パリンッ――。


 持っていたティーコップを落としてしまった。割れて、中身の液体も(こぼ)れる。机から地面に向かってポタポタと落ちていく。


「怖くて当然です。――"加害者"には変わりありませんから。もちろん加害者にはそれ相応の責任が伴います。」


 冷たい視線を感じた。


「お嬢様の覚悟はその程度と言う認識でよろしかったでしょうか。」


 うっ――。胸に鋭い何かが刺さる感覚。

「私はどうすれば……。」

 


 割れた破片を掴んで手に取る彼。私はその様子をじっと見ていた。 


「壊れたコップは元の姿には戻りません。接着剤で継ぎ接ぎのコップにするか、新たなコップに変えるか。そのどちらとも、必要なものがあります。それは割れた事実を受け止め、考え、動くこと。何もしなければ、ただ残骸だけが残るだけですから。」


 割れた破片の下にはレモンティーの水溜まり。徐々に床に染み込んでいく。


「さて、罪を受け入れるのか、はたまた現実逃避に走るのか。もちろん、(いず)れを選ぼうとも責任から逃げ切ることはできませんので悪しからず。そして、それを決めるのはジュリネお嬢様です。」


 最後に「――選ぶ以外の選択肢はございません」と付け加えられた。


 選ばないことは逃げること。それが選択肢に入っているからこそ、私はもう選ぶしかない。

 

 選べないことも――逃げること。

 

 逃げても逃げきれないなら、

「選ぶしかないじゃん。」


「ええ。ですが、言葉だけでは意味がありません。その覚悟があるかが見定められているのです。」



 私は――。


「逃げたくない。」


 だけど――。


「何が正解なのか分かんないの。どうすればいいのかな、あたし。」


「それで結構でございます。本当の正解など人生にございませんから。それでも、正解のために迷いながらも努力してもがいて、ときに間違うのが人間なのです。」



 それで正しいのか分からない。それでも私は前を向いた。


「もし覚悟が決まりましたら、教えて下さい。」


「もう……できたよ。進んでみるよ。」


「分かりました。では、私は近くで支えておりますので、精一杯進んでください。」


 まだ心に(わだかま)りがある。それでも私は進むしかないみたいだから、進んでみることにした。


 割れたコップを固めて捨てた。


 それでも進まなきゃいけないみたいだから。まだ納得なんてできていない。それでも、立ち止まる方が怖かった。





 春風もいつしか梅雨のような湿った風に変わった。ピンクの道も緑に変わる。道には紫陽花(あじさい)が綺麗に咲いている。



「ここからは迷いの森と呼ばれている区域となりますが、標識を見ながら行けば迷うことはありません。」


 進むと分かれ道が現れる。

 肝心の標識は壊されていた。


「あれっすよね。昨日のヤベェ奴らの仕業っすよね……これ。」


「一理ありますね。困りました……。」


「けど、行くしかないじゃん。とりあえず行こっか。」



 ひとまず左の道を進む。

 続いて、右。

 続いて、左。

 続いて、右。


 そして……迷った。


「これは確実に迷子になりましたね……。」


 そう言われても、私は焦っていなかった。なぜなら、私にはとっておきの技があるからだ。


【自分自身】【自撮り】


 高い位置からの写真。しかし、森の中、木のかさが邪魔をして肝心の道が見えない。


「駄目じゃんっ!」


 打つ手なし。迷子だ……。


「まっ、適当にいきゃ、何とかなるっすよ!」



 まるで今の私の心みたいだ。体は先へと進んでいるのに、納得できてない心は迷走している。結局私は迷いながら、空っぽを演じて進んでいる。

 

 

 数十分後……。

 森の中で狼の群れが現れた。


【自分自身】【重火器】【重力】


 重火器を振り回す。そして、トドメに大火力の爆撃を与え、(ほふ)った。狼の魔族は光の粉になって消えた。



 狼遭遇から、さらに一時間……。



 疲れた――。

 まじで疲れた。


 終わりが全く見える気がしない。


 

 どれくらい歩いたのかも分からなくなった頃――。

 


「おや、森の外れに人が来るとは珍しいですね。」


 偶然、遭遇(そうぐう)した二人組。

 一人は眼鏡をかけた真面目そうな男の人。もう一人は少し小さな中性的な白衣を来た子ども。


「初めまして。私は歴史学者のワテルと申します。そして、こちらは助手の――」「ファミです。」


 私達も自己紹介をした。

 そして、迷っていることも伝えた。


「今から研究のためにZプリンセス山に行きますが、その後でなら最寄りの永久の町へとご案内しましょうか?」


 その提案に乗る。

 少しの間、ワテルさんに着いていくことにした。



 森が(ざわ)めいている。

 湿った風が吹いている。


「Zプリンセス山には何しに行くんすか?」


「そこには魔族が、魔族に変わり果てる前の情報が詰まっている……との噂がありましてね。」


「魔族に変わり果てる……前?」


「これは確かな歴史です――」



 その時、風が止んだ。

 彼の言葉がとってもくっきりとはっきりと聞こえるような状況が作られた。


 

「魔族は元来(がんらい)――人間でありましたから。」

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