23.パルパルとヒョッコ
【改造】【絡繰】
「これで、もう空き巣被害に遭うことはないわ!」
カナリンのドヤ顔に眼福する私達。
「あれっ? 早速、絡繰が作動してるわね。そして、もう捕まったみたい。」
私達は誰かが捕まったとされる場所へと向かった。
一階、右手に進むと存在する和室。
天井から飛び出ている縄にぐるぐる巻きに捕えられ、吊るされている若い男の人がいた。全身縛られていて、その姿はみっともない。
「ぱるぅ?」
あまりの情けなさにパルパルも首を傾けていた。
「一体何のつもり?」
「それはこっちの台詞だ。なんでこんなことするんだ?」
「いや、絶対うちらの台詞だから、絶対……。」苦い目で見つめた。
「お前がバイヤーか。それでその低級魔族が、マルマルだな。」
「ぱるぱるぅ!?」名前を間違えられて驚いている。
「パルパルね……。」薄ら笑いで返した。
「それで例のヒョッコはどこにある? 金なら用意したぜ!」
「例のバイヤーなら突き出したよ、国に。」
「何を……言っているんだ?」
「ここは私の家。あいつら不法侵入して勝手に住処にしてたから国に突き出したし、その時、この子以外は国に引渡したよ。」
「な、なんだってぇ!!」
この状況を理解したようだ。
観念したように下を向いた。
「じゃあ、こうしよう。ヒョッコバトルであたいが勝ったらあたいを見逃せ。負けたら言うことを何でも聞くぜ。ひとまずヒョッコバトルのためにこれを外せ!」
「いや、わざわざ戦う意味……。」
【約束!】
体が勝手に動いていく。縄を解いている自分がいた。
「契りを設けた。その約束に則って行動するしかできなくなる。もちろんあたいも約束に縛られる。勝てば官軍負ければ賊軍。勝った方が優先される世界だ。」
「これはそのルールに従うしか無さそうですね。」
私達は外に出た。
【ヤグラ!】平らな庭に現れる膝丈程度の丸みの形の櫓。それが土俵と成り果てる。
【ヤマビコ】ピュー。彼が口笛を吹いた。まるで山にヤッホーと言って跳ね返ってくる声のように遠くまで口笛が響いたような感覚がした。
そこに急いで現れていく犬ぐらいの大きさのヒョッコ達。少なくとも十匹はいそうだ。
「あたいはヒョッコマスター……を目指してるものだ。ヒョッコバトルなら負けはしない! さぁ、行けっ、チョコベ!」
タテガミが逆立つ電気を纏うヒョッコが繰り出された。
「さぁ、お前はどんなヒョッコを出すんだ?」
「ごめん。ヒョッコいない。……ってか、ヒョッコバトルを実はよく知らない。」
「なんだってぇ!?」
彼はうーんと頭を悩ませながら、少し時間を置いてから口を開いた。
「よしっ、今回に限り追加の【約束】――。『ヒョッコがいない場合は代理で他の低級魔族でも良いことにする。』つまり、戦うのはお前だ――パルパル!」
「パルゥ!?」
「その様子だと、どうせいないんだろ? 他の低級魔族。この約束は――絶対だ!」
あまりパルパルにそんな痛いことはさせたくない。けど、彼の設けた約束のせいで戦わせなければならなくなってしまった。
「……大丈夫。無理しなくていい」そう言って上げるしか出来なかった。
けれども、パルパルは少しだけ震えて――それでも前に出た。
こうなったら後は応援しかない。
「一応、ルールだけ再確認な。櫓の上での二匹だけの決闘で、どちらかが戦闘不能になるか、もしくは台から落ちるかで勝敗が決まる。じゃっ、後はやれば分かるよな?」
土俵に立つ二匹。
「バトルスタート!」
始まる戦い。
私達は見守ることしかできない――。
「ヒョッ!」
勢い良くぶつかるヒョッコ。何度も何度も体当たりをされて奥に押しやられるが、何とか耐えているパルパル。あまりの防戦一方で、見ているこちらが痛くなってくる。
バシッ。
バシッ!
「さぁ、トドメだぜ! 必殺技をお見舞いしてやれ!」
ヒョッコは電気を力強く纏っていく。これでもかと言う程、助走を付けての体当たり。パルパルは避け切れる訳もなく、衝突を受けて大きく吹き飛んだ。
「あたいの勝ちだ!」
吹き飛んでいくパルパル。
しかし、その目は死んでいなかった。
「パルゥ!」
空中に現れる透明色の布のようなもの。それがゴムのように伸縮して外側へと飛ぶのを受け止めていた。
ヒュ!
勢いを反動に変えて、そこから弾丸のように飛んでいく。そして、ヒョッコに衝突した。そのままヒョッコは吹き飛ばされ、庭の地面に転げていった。
「チョコベ!!」
急いで駆け寄る彼は、ヒョッコを大事そうに抱えて、無事を確認するとホッとしていた。
「パルパルの住処には不思議なベールが存在し、そのベールの先に進むのは不可能という都市伝説が存在しております。パルパル自体が未知なる存在故に伝説扱いでしたが、今のを見るに、不思議なベールは伝説ではなく現実のようですね。」
これが――パルパルの能力。
戦えない……。単なるマスコットのような存在。だけど、この子にはベールを作り出せる不思議な力がある。
私はそっと微笑んだ。
「ふんっ。お前の勝ちは勝ちだ。約束に基づいて、あたいはその約束を履行しなきゃならない。何でも言うことを聞くと言ったんだ。何でもいいから命令しろ。」
男は負けを認めたくなくてそっぽを向きながらも、しっかりと約束を果たそうとしていた。
「じゃあ、二度と裏のバイヤーとは繋がらないこと。ちゃんと大切にできるんだから、正々堂々と向き合って、誇れるヒョッコマスターを目指しなさい!」
「いいのかよ、それで。」
さらに、横から「お嬢様、良いのですか? 彼は何でも聞くと仰られておられましたし……」とも言われる。
「いいの。ヒョッコに対して愛があるのが分かってさ。それに、なーんか悪い人には見えなくてさ……。だから、これからは悪いことに手を染めずに過ごしてくれれば、それでいいと思ったの。」
だから、今回は不問にしよう。心からそう思っている。
「約束は約束だ。ちゃんと守るよ。だが、覚えておけ。あたいはヒョッコマスターになる男! 次会う時は、パルパルぐらい倒せるトレーナーになってやるっ!」
「ヒョッコマスター、頑張ってね。」
「言われずとも!」
彼は沢山のヒョッコを連れて北に向かって歩きだした。私達はその後ろ姿を見届けた。
◆
鍵も閉めた。よしっ!
絡繰も付いてる。よしっ!
これで完璧……。
よしっ!
私達は屋敷を後にして、中級地域に向けて北へと進んだ。
桜吹雪の町と道路を抜け、そこから続く一本道は桃色も落ち着いてきた。
それなりに歩いた。
その先から声が聞こえる。ちょっと泣き声に近い。
「止めてくれよっ。それはあたいの大事な大事な仲間なんだよっ!」
「知らぬ。本当に大切ならばペットなどと言う窮屈な扱いはせぬ! ハァッ!!」
何だか胸騒ぎがする。急いで声の方へと走る。
走っていると、逆方向へと過ぎ去っていく二匹のヒョッコがいた。その表情は焦燥。
何か重大な事件が起きている予感がする。
――。
道横の森がいつもとは違うざわめき音を奏でている。
さらに進むと……そこにはさっきのヒョッコマスターを目指す男がいた。その男は地べたに倒れ、細長い鉄の武器を持つ悪漢に踏まれていた。
「我は『地獄道』の名を与えられた者。魔族を奴隷にしながら共存を謳うなど笑止千万。その嘘は赦されるものではない。我が特別に審判を下してやる。貴様は地獄の刑に値する!」
「結局、あたいは……。なら【矢文】!」
放たれた弓は軽々と頭を横にすることで避けられた。
鉄のソレが上側へと上げられていく。先端は物を掴むペンチのようなものだった。それは彼の舌を掴んでいた。
【引き抜く!】「ハッ!」
思いっきり頭上高くまで引き上げられる武器。舌が抜かれた。それと同時に、彼の体から目の光が消え、感情が消滅していくみたいだ。
まるで光の粉の塊に変わっていくみたいだ。ヒョッコの男は光の塵芥に変わって消えていく。
「まあ、いっか。あたいのヒョッコはみんな無事に逃げ切れたか――」
そんな最後の言葉が風に揺れる。
光の粉は風に流され消えてしまった。
「どういう状況なんすか。ってか、あいつ、もしや……。」
「残念ながら、お亡くなりになられました。」
さっきまで確かにそこに生きていた、話していた人が消滅したんだ……。
吐き気が……する。
この世界に来て初めて人間の死を目撃した。現実世界とは違って生々しい血で醜い死体を晒す訳ではない。幻想的な光の粉で華々しく死へと至り、死体は消える。
その衝撃的な目撃は、胃を萎縮させる。
体が硬って、寒くなっていくのが分かる。
これが――死。




