21.ジュリネと山賊
そこは一面桃色の地面――。
よく見るとそれは落ちた桜の葉。
年中、春日和の桜吹雪く町――"春町"。
町の外れに大きな屋敷が建てられている。住民も誰が住んでいるのかあまり把握していない屋敷だ。
その正体は私のこの世界における家。
久々の家に少し安堵感が出てき始める。
屋敷の中は庭園になってる。
「ここが私の家よ!」ドヤ顔も認められる凄さだろ!
「まじで凄いっす! 感動っす。」
少し誇れる気持ちになった。
玄関が目の前に。
「少し失礼――。」
ぐいっ。
襟を引っ張られ後ろに倒れかけながら移動する。突然、執事であるはずのカゲトがこんな蛮行に及んだのだ。
ほんとに「何すんのよ?」
「非常に失礼しました。が、よくご覧ください。」
彼が視線誘導する先には窪んだ床がある。そこには小さな石が石畳の床にめり込んでいた。
「何……これ?」
「屋敷の方から飛んできました。何者かが屋敷にいるのだと思われます。」
私の家には今現在、誰もいないはず。
「何者って何よ。」
「空き巣犯でしょう。そして、逃げるのではなく私達を追い払おうと迎撃しかけたので、おそらく山賊のような者と思われます。」
世も末だ。
勝手に入って占領されたと思うと腹が立つ。
「お嬢様、ここは私めが制圧して参ります。ですのでここでお待ちください。」
「いや、私も行くわ。泥棒、許せないしね!」
「……。分かりました。相手は人間。つまり、中級魔族程度以上の戦力はあります。くれぐれも無茶はなさらず。」
「ちょうどいいじゃん! だって、強くならなきゃいけないからさ。」
玄関までやって来た。
そこにカナリンが「ちょっと待って」と足を止めさせる。そして、玄関に触れて、
【感知――】を発動。
「この屋敷の中には四人の人間と三匹の魔族がいるみたい。」
なるほど。合わせて七つの敵がここにいると。
中に入ると巨大な広間とお洒落な階段。
そこに二人の男がいる。彼らがこちらを見た。
「あぁん? 誰だ、おめぇ。」
「それはこっちの台詞よ。私の家に侵入しやがって!」
「ちっ、せっかく拠点にしてたのに、帰ってきちまったんか。」
「大丈夫だ。ここで殺せば、俺らのもんっしょ。」
彼らはたか笑を浮かべていた。
その姿を見れば見るほどに、心の底から怒りがふつふつと沸いてくる。
「俺がやるわ!」
【ヌー】
突進攻撃。しかし、ただの突進じゃない。きっと《変身系》の能力によって凄まじい火力が加えられた突進だ。当たったらきっと吹き飛ぶ以前に、木っ端微塵にバラバラになりそうだ。
とてつもない威力の突進――。
能力が解かれて長さが倍に戻る剣がヌーの行く手を阻む。剣へと衝突すると、勢いはポスッと言う軽い音を出して止まった。
「なっ、俺の自慢の攻撃が……簡単に止められるはずがない。何をしたっ?」
「何もしてないっすよ。」
その剣が振られる。それと同時にヌーはそのスイングによって壁の方へと勢い良く飛ばされた。
圧倒的な威力だ。向こう側の壁の先に大きな穴が空いていった。
「ねぇ、私の家、壊さないでくれる?」
「わざとじゃないんす。ここまでの威力になるとは思いも知れず……。」
「言い訳はいいから謝って。」
「ごめんなさいっす。」
ハロミトはちょっと丸くなっていた。
しかし、どうしてあれほど強そうな攻撃を防いで、ただのスイングでこれほど強い攻撃になったんだ……。
今、気づいた。――あべこべだ。
敵の強攻撃は剣を使えば反転して弱攻撃になる。つまり、強ければ強いほど最強の盾に変わり果ててくれるのか……。
一方で、敵に全くダメージを与えられない攻撃はその真逆、敵にとてつもないダメージを与える攻撃になるのか……。
まぁ、やるじゃん。
【刀】
カキンっ!
カゲトが繰り出す刀から鉄と鉄のぶつかる音がした。
一体何が起きてるの?
突如、姿が現れる男の姿。
その男が手に短刀を持っていた。
男が距離を置く。
「ジュリネお嬢様には指一本触れさせませんよ。」
男の表情が変わっていく。
「あ、アンタがジュリネか。許さぬ。許さぬぞ。アンタだけは許さないっ!」
さらに、階段側にいた男も怒りを露わにする。
何で私に対してキレてるの?
私、アンタ達のこと一ミリも知らないし面識ないんだけど!?
本当に「……意味が分からない。」
「意味が分からぬだと? アンタは我が王子を殺した。怒るにはそれで十分だ!」
「王子は優しい人だった。何度も餓死寸前の俺らに食べ物を恵んでくれた。だが、亡くなった。お前さえっ、いなければっ!」
「いや、王子って誰なのよ……。そんな変な名前の人、知らないんだけど。」
「王子を。王子を侮辱するなぁっ!!」
【モーニングスター】
階段側の男が鎖の付いたトゲトゲの鉄球を召喚して、ぶんぶんと振り回した。
それを投げ入れられる。
【自分自身】【重火器】
鉄球は重火器の盾で軽く防がれた。
舌打ちのような音が聞こえたような気がした。
【鉤爪】
【透明化】【投擲】
今度は透明だった男の攻撃。透明になった短刀を豪速球で投げてきたが、カゲトがいつの間にか付けた鉤爪で防ぐ。
カラン。
短刀が床に落ちた。
「幾ら目で見えずとも、音や気配で気づけますよ。一流の忍者にとっては朝飯前です。」
ひとまず私はそれを拾った。
それを握った――。
「ねぇ、カゲト。この透明人間になれる男、私が倒していい?」
「承知しました。では、私はモーニングスターを所持する賊を倒しましょう。」
私はナイフを適当に投げた。彼の足元へと転がる。
「これは返すわ。」
彼がそれを拾う間に、重火器の引き金に手を触れる。
「ラストウエスタン風の決闘かよ。乗ってやるぜ!」
ごめん。ラストウェスタン風の決闘って何? 私、知らないんだけど……。
まあ、いいや。ひとまず攻撃することだけを考えよう!
彼は短刀を拾うと同時に技を発動する。
【透明化】
男が消えた。
そして、私は引き金を引いた。
バァァァン!【磁力】
「はっ、残念だな。外れちまったなぁ!」
「これ、外れるとかないから。」
「は……?」
爆風と共に放たれる爆弾は突然軌道を曲げて、男に向かって進み、直撃する。
理由は簡単。磁力"S"が付与された短刀に向かって、磁力"N"が付与された爆弾が吸い寄せられるように移動しただけ。
爆発が彼を襲い、彼は大きく吹き飛ばされた。
ひとまず私の勝利だ。
「忍具【金物】クナイ」
金属のクナイが階段側にいる男に突き刺さる。男は階段から転げ落ちていった。
「くそっ。王子の仇も取れないのかよ……。」
死にかけの体で声を放っていた。
まだ言っている……。
「王子、王子って、誰なのよ、一体……。」
「王子は俺らの希望だった。ならず者や働きたくても働けない者は、都にはいられずに常に雪の降る土島に追いやられて凍え死ぬ生活を強いられた。そんな俺らに王子は優しくしてくれたんだっ。そこにいる死にかけの俺らに食べ物や布を無償でくれた。山賊のイロハを教えてくれたっ。そんな優しい王子の名はゴンディさん。知らぬとは言わせんぞ。」
一人語り。
そこで出てきたゴンディという男。トドメは桃太郎だったけど、倒したのは私と言っても過言ではないのかも知れない……。
「アンタはそんな優しい人間を殺したんだぞっ。これで飢えちまう奴がまだ出てきちまう。全部アンタらのせいだっ!」
そんな優しい一面があったんだ……。心に少しだけ後ろめたさが現れてくる。
「無法者でも人は人、心があります。優しくする心も持ち合わせているのも当然です。……ただし、彼は、一部の人だけ、手段は山賊と言う犯罪行為。優しいかどうかは関係ないのです。犯罪に手を染め、一部の人以外の人間に被害を及ぼす行為を行った。その事実だけが問題点なのでございます。」
彼の言葉でハッと気付かされた。
優しいかどうかは関係ない。これは悪いことをやったかどうかの問題だ。私の心は平常心に戻っていく。
ガッ! 刀の鍔で峰打ち。男は気絶した。
「さて、残りは一人。魔族が三体でございますね。油断せずに行きましょう。」




