20.中級地域の地図
待合室に戻ると、そこにはみんなが待っていた。
「くっそぅ。勝てると思ったのにぃ。」
悔しそうな彼を見ると、嬉しさでニヤけてしまいそうな自分がいる。そんな気持ち悪い表情は見せられない……危ない危ない。
「お疲れ様でした。お陰様でいいデータを手に入れることができました。では、お二方、こちらをご覧ください。」
視線がカナリンの方へと誘導される。
「カナリンね。"解析"を使って、その剣の秘密を解き明かしたのよ。」
「勇者の剣の……秘密?」
「じゃあ、よく見てて。【解析――開示】。」
そこに電子のシートが現れて、剣の情報がそのシートにずらっと書かれている。電子のせいか、ちょっと見にくい。
秘宝、勇者の剣。別名『あべこべ』の聖剣。効果が反転する特殊な剣。
「例えば、致命傷の攻撃は無害な攻撃に変わり、逆に無害な攻撃は致命傷の攻撃に変わるのです。」
あー、なるほど。そういうことだったのか。
腑に落ちた。
スライムや私に直接剣が刺さっても何とも無かったのは、それが死に直結するような致命傷のダメージだったから。剣の効果で真逆の無傷に変わった。
逆に、スライムの攻撃を剣で守った時や重火器を斬った時は、スライムの弱攻撃は強攻撃に変換され、斬れるはずのない重火器すら斬れる一撃に変わった。
つまり、全部――逆になるんだ。
「さらに、使用者が当てようと思えば、当たらなくなるという使いずらい効果もあります。が、私の仮説なのですが、昔の勇者は敢えて長すぎる剣を使うことで当たらないと思い込んでいたのではないのでしょうか。そのように思い込めば、剣の効果で逆に当たるようになりますからね。」
当てようと考えるのもあべこべの対象なのか。
あんなに長かったのは当てられないと思い込むため。そう思い込むことで逆に攻撃を当てられる。
敵が弱ければ弱い程に弱体化する剣。
逆に、
敵が強ければ強い程に効果が高まる剣。
「ドヤッ! これが勇者ハロミトの力っす。」
いや、勇者の剣のお陰でしょ。
まあ、使い方次第では化けそうだ。
そう言えば――。
この剣を抜くコツは押すことって彼は言っていた。それってあべこべの影響を受けていたからなのかも。
引くの逆は押す。だから、みんな引こうとして知らず知らずに押していた。
押すの逆は引く。だから、私はある程度まで抜けた。彼はそれに加えて【半分】で剣先を短くしたから抜けた。
なるほど。こんなにも理にかなった結果だったとは。
感心。感心……。
「お嬢様の戦い方も最低限の基礎は抑えられていますので、実践を積み重ねる方が良いかと思いました。逆に、西大山での基礎の修行は、勇者様が足手まといになり、修行が捗らない気がします。」
「足手まといって言わないでよぉ~。」
仕方ない。彼は弱い地域程、足手まといになるのだから。それは事実だ。受け止めろ!
「さて、中級地域に行く前に、一度、中級地域の地図を確認して貰いたいと考えているのですが……よろしいでしょうか?」
「うん。いいわ!」
「では、一度、図書館に向かいましょう。」
◆
あの異変以降、新たな本は増えていないと言うが、この先増えなくても一生を満足できるだけの本がこの中に眠っている。
書籍からネット小説、漫画本、図鑑まで何でも揃ってるこの図書館は少し神ってる。
基本的にはタブレットから操作して、選んだ作品が本となって出力される。タブレットの中には昔の回転寿司みたいにまだ見ぬ本が流れていくように紹介されるモードもある。
静かな空間で、のんびりと本を探――
「いやぁ、種類豊富っすねぇ。まじで何読もうか迷うっすよ!」
「ねぇ、静かにしなさいよ。」
「えー。せっかく楽しそうなんすから、ワイワイやりません?」
「勇者様、図書館では周りの迷惑になることをしてはいけません。大声での会話は図書館ではアンチマナー。常識を身につけて下さい。」
「えー。なんなんすか、その常識。つまらなくなるじゃないっすかー。」
「カゲト――。」「はい。」たったそれだけの掛け言葉。
【影分身の術】
分身したカゲトによってハロミトは外につまみ出された。
「もし借りるの決まったら。カナリンの力で"借りる""返す"が遠距離で使えるけど、使うかしら?」
「そうですね。このまま勇者様を放っておくにもいきませんからね。」
私達は借りる本を探した。
カゲトは地図。私は暇つぶしに読む本。
「これで借りる本にはマーキングつけたから、遠距離から借りれるわ。」
私達は図書館を出た。
そして、ホテルへと向かう。
――――――。
今日はホテルで一旦休み。中級地域についての説明は明日されるらしい。
午後、暇な時間。
優雅な二人部屋のスイートルーム。カナリンは小さいので殆どのスペースを私が扱える。とってもゆったりとできそうだ。
【借りる――】
せっかく借りた本を読んでいく。
〇大口兄様に恋をした~私にとっては禁断の恋(※私なんかが恋なんかしちゃ駄目駄目)~
――主人公の愛南が大口兄弟の兄に恋をする恋愛物語……と思いきや、三話まで読んだらいきなり恐怖型の作品、そして悲哀な恋愛となって精神的ダメージを喰らってしまった。ぐはっ。魔法少女まどか〇ギカじゃないんだし、恋愛ものでそれは心にダメージが……。
〇コハのアロ&ピー
――叔母に引き取られた主人公のコハが来たのはフィリップという鬼が出る不思議な街だった。そこで動いて喋る謎の電子レンジ、ピーちゃんと出会って様々な事に巻き込まれていくファンタジー。仲間と共に冒険したり戦ったり、とってもワクワクするような作品。ハッピーエンドで予後もいい。
――裏の作品があったようなので読みました。さっきの感想は前言撤回。全然ハッピーエンドじゃありませんでした。めちゃくちゃ心にダメージ喰らったんですけど……。ぐはぁ。
よくよく見たら、さっき読んだ本どちらとも同じ作者だった。その作者の他の作品のまとめを軽くだけ見て思ったことがある。
この『ふるなゆ☆』という人、ハッピーエンドの作品もあるはあるけど、必ずどこかで心を抉りにこようとしてるよね……。この人の作品に出演したら、絶対、どっかで不幸になりそう。……なんて思った。
もう夜遅くだ。
また明日のために寝よう。
――――――。
カゲトとハロミトの部屋にお邪魔する。
机の上には大きな地図が描かれた本が開かれていた。いよいよ、本格的に先へ進む準備が始まるんだ。
カゲトがある町を指さした。
「ここが"春町"でございます。そして、その北に"中級地域"が広がっております。」
私がお嬢様生活をするために暮らしていた屋敷がある町――春町。そこから北に進むだけで中級地域に入るらしい。
「"中級地域"の特徴は何と言っても一本道と言う所です。」
「一本道……?」
「北側に巨大な山が聳え、土地の至る所に魔境のような土地が点在しております。魔境の地は魔族の群れに遭遇する他、厳しい環境による自然のトラップもあり、そこを通るのは非現実的。そのため、人工的に整備された一本の道を進むしか先へは進めません。」
北東方面に山の麓が見える。そこから東側には平地があり、そこからなら先――北側へと進めるみたいだった。
地図を見るからに、そこまでが"中級地域"ということらしい。
「さて、この一本道の途中には五つの町及び村が存在しております。一つ一つ確認して行きましょう。まず春町から北へと進んでいきますと――」
春町から真っ直ぐ北に進んでいくと一つの町に到着する。山と接した町のようだ。
「最初に辿り着くのは《永久の町》でございます。この町の北には果てしなく続く山がございますが、その中は終わりなきダンジョンとなっています。そこは自らの限界に挑む屈指の豪傑達のみ挑むことを認められた"無限回廊"と呼ばれるダンジョンでございます。」
まるでゲームの物語が終わり、クリア後のやり尽くし要素みたいなダンジョンだ。まぁ、私達には関係ないな。
「ちなみに、この町に水忍の石像があるとのことです。」
早速そこに石像があるのか。カゲトらが倒した土忍は相当強かったらしいが、きっと水忍も同様に相当強いんだろうなって思う。
「続いて辿り着くのは《シャドウ》でございます。ここは現在、主忍の一任で"闇夜に塗れる漆黒の町"というのが公式紹介文となっております。その名の通り、町全体黒っぽく染められた町でございます。」
永久の町を南東方面に進む道は途中で北東方向に迂回するように進んで、永久の町よりも少し北東側に位置しているのが"シャドウ"だった。
「続けて、辿り着くのが《砦》でございます。昔に、対魔族の前衛拠点として造られたと言われている小さな城です。砦の下には小さな集落が存在しています。」
南東に下りながら湾曲する荒野の道を進む場所に位置していた。その道以外は果てしない整備されていない進むには過酷な荒野が広がっているみたいだ。
「その次に着くのが《ラストウェスタン》でございます。ガンマンの村落と呼ばれております。荒くれ者が流れ着く村として有名ですね。また、ここで採れる抹茶は非常に価値が高いですので、試飲できると良いですね。」
そこから東に向かって砂漠地帯に整備された道を抜けるとあるのがその村だ。
「最後に、辿り着くのが《岡山大河町》でございます。その町に流れる大きな川からごく稀に大きな大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れることで有名な町となっております。」
ラストウェスタンから北に進み、途中で北西へと迂回すると現れる町だった。
「そこまでが中級地域となっております。そして、この地域はより魔王城に近づいているために魔族の強さも相対的に高くなっております。そこで魔族等の人類に敵対する存在から"村及び町を守る事"と"下級地域に被害を及ばさないための防波堤"として各村各町に一人ずつ『主忍』と呼ばれるリーダーが配置されているのです。」
主忍の肩書きの名前は知っていたが、それが何を意味しているのが、今ようやく知った。中級地域の村町を守る代表だったんだ……。
「ちなみに、主忍の五名は国の重要な役人であり、緊急時には"都に呼ばれて必要任務に当たる"こともしばしば。彼らはいわば国の代表と言おうとも、言い得て妙でしょう。」
つまり、まとめると――
《中級地域》
下級地域"春町"側から順に――
〇永久の町「無限回廊のある町」
↓
〇シャドウ「闇夜に塗れる漆黒の町」
↓
〇砦「昔、対魔族の前衛拠点だった場所」
↓
〇ラストウエスタン「ガンマンらの村落」
↓
〇岡山大河町「桃の流れる川がある町」
各地区にそれぞれ一名の『主忍』――国の代表が配置されている。
「以上にて、説明を終えますが、如何でしょう。」
「ありがとう。何となくは理解したわ。」
「では、ひとまず"春町"に戻りましょうか。」
「そうね。久しぶりにうちの屋敷に戻れるのね。ちょっと安心かも。」
それを聞いたハロミトが、
「今からジュリちゃんの家に行くんすか? めっちゃ楽しみなんすけど」と浮かれていた。
私達は一度、春町の屋敷に戻ることにした。
北門を抜けると今や懐かしい草原が広がる。まさかり担いだ魔法使いが襲ってきたり、カナリンが倒れてたりしていた所だ。振り返ると微笑みが落ちそうだ。
それなりに進むとついに目的地に着く。
一年中、桜がひらひらと舞うピンク色に満ちた町――春町だ。




