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死亡=現実でも死のバグ世界、お嬢様と執事の生存・脱出戦略~『詩忍にくちなし』~  作者: ふるなゆ☆


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18.ハロミトと勇者の剣

 岬に圧倒的存在感を放つ剣の先が埋まっている。持ち手も刃先も全て金ピカの剣だった。

 

 近くには椅子などが用意されていて、そこに座る中年や老人の人達が楽しそうにビールを片手に駄弁(だべ)っている。


「秘宝"勇者の剣"は今は昔、魔王を退けたとされる勇者が使用していた剣でございます。しかし、ここに奉納されてから一度も抜かれておりません。」


「えっ、そんな凄い剣を私なんかが抜いていいの?」


「抜かれていないのは、選ばれた人しか抜けない剣だからでございます。今に至るまで抜こうとした者は露知らず。しかし、誰も抜くことが叶わず、未だにここに埋まっているのでございます。」


 剣の柄は光り輝いていた。


「もちろん国王や命じられた人達も挑戦しましたが抜くことはできず。痺れを切らした国王は抜いた者を勇者(・・)とし、この剣の所有者とする、と広く知らしめております。」 


 あるおじさんが抜こうと手をかけるもビクともしない。諦めて椅子に向かって進んでいった。そして、笑いながらビールを手に持っていた。

 なんだろう、このふんわり感は……。

 

「ってか、この人達は、何なの?」


外野(ガヤ)っすね~。最近、変な出来事が色々とあったじゃないっすか。空が赤くなったり、変な音が響いたり、凄い衝突音がしたり、何より魔王復活の噂が広まったり……。」


 確かに空は紅く染まってたし、カゲトは鏑矢を響かせた。私はゴンディを倒す時に凄い衝突音を響かせた。

 それに加えて魔王の噂もあったとは……。


「それでこれは勇者の登場の前触れだって噂が広まり、我こそが、という人とか勇者の誕生を直でみたいって言う人とかが集まってんすよ。」



 人に見られながら引き抜くのは少し恥ずかしさもあるけど、やるからには本気でやるしかない。

 私は剣の前に行き、柄を掴む。


 思いっきり抜――けない。


 ビクともしない。

 私なんかじゃ抜けないのかも知れない。


「カゲト、やってみて。」

「承知しました。」


 今度はカゲトの番。しかし、剣は抜ける気配がしない。


「カゲトでも無理なのかぁ。やっぱりそんな甘くないね。」


 諦めの気持ちが(まさ)っていった。


「諦めるのは早いっすよ。抜くにはコツがあるんす。」


 ハロミトが剣の前に立って柄を握った。


「よく見るっす。みんなは引き抜こうとするから駄目なんす。」


 ん? 引き抜くのが駄目?

「じゃあ、どうやって剣を抜くのよ。」彼の言葉は破綻している。


「引き抜こうとすると逆に押し沈ませることになるんすよ。」


 剣が沈んだ。さっきまで見えてた銀色の刃先が台の中に沈んでしまった。


 が、すぐに元の位置に押し出されるように戻った。若干さっきよりも見えてる刃先が長くなったようにも見える。

 

「引いて駄目なら押してみろっす。それでやってみて欲しいっす。」


 私は剣の前に立って、押してみた。

 どうしてか剣は上に上がっていく。


 が、伸ばした手の長さぐらいの刃先を見せた所で剣は止まってしまった。それ以上押しても揺らしてもビクともしない。


 それを見たガヤが今はチャンスだと並びはじめた。次の人に代わると、その人は剣を再び沈めてしまった。


「振り出しだ……。せっかく頑張ったのに、これ以上は駄目かも。」


「諦めちゃ駄目っすよ。勢いよくやればきっといけるっすから。」


「ごめん。どうやってやればいいの? ちょっと手本見せてよ。」


 再び剣の前に立つハロミト。

 柄を握って、「こうやるっす」と私を見ながら剣を引き抜いた。


 台から外れた伝説級の剣。

「あっ」と言った彼は急いで台の中に戻そうとするが戻せない。


 

 すぐさま周りにいる人が彼の近くに集まっていく。


「凄いぞ。」「よくやったハロミト。お前はイーストブルーの誇りだ。」「ついに、勇者様が!」などと言う言葉が駆け巡っている。



 そこに忍びらしい格好をした忍がパッと現れる。彼は国の遣いの者だ。

 

「ハロミト様。"勇者の剣"に選ばれたことお祝い申し上げます。これより貴方様を秘宝"勇者の剣"所持者として認定し、国指定の勇者と位置付けし、魔王及び魔族討伐の旅の命を言い渡します。最後に注意事項として、剣の譲渡は最も重い刑に罰せられますのでご注意下さい。では、これにて失礼します。」


 シュッ。遣いの者は消えた。


 この一報がこの場をさらに盛り上げた。

 みんなが万歳(ばんざい)しているので私も万歳した。勇者ハロミトの誕生を何となく祝った。


「さぁ、イーストブルーで盛大な門出の祝いだ。」


 周りの人が次々と村へと戻っていく。

 いつしかそこには私達と彼だけが取り残されてしまった。



「終わったっす……。俺、村から追い出される――。」


「通常、とても喜ばしいことだと思われますが、旅に出たくない彼にとっては、強制的に魔王討伐の使命は最悪な出来事だったみたいですね……。」


 ひゅぅ。悲哀なる風が吹いた。


「ねぇ。私達、実は魔王討伐の旅をしてるんだよね。一緒に旅する?」


「え、本当に言ってる? え? 魔王討伐の旅?」


「ええ。お嬢様は元の世界に戻るために魔王討伐の旅に乗り出ておられるのです。」


 彼の私達に対する目が変わった。


「マジで言ってるんすね。じゃあ、旅に着いてっていいんすか?」


「ええ、いいわよ。」


「マジで神っす。このまま一人道中で野垂れ死ぬところだったっす!」泣きながら感謝を伝えてきた。もう涙がアニメのそれ。



「ただし、条件があります」とカゲトはにこやかに口を開き、


「もしお嬢様に手を出すようなことがあれば、この私めが許しませんので、記憶に留めておいて下さいね」と圧をかけていた。


 私達の仲間にハロミトが加わった。





 勇者ハロミトの仲間である私は、ブラックリストを解除されることになり、普通に民宿に泊まっていた。


 昨日は盛大なパーティだった。

 村全体で行う送別会は、まるで祭りみたいで賑やかで見てる方も楽しくなった。


 そして、今日、旅立ちの日だ。


 自宅から出てきたハロミトと合流した。

 村人達が大勢集まって手を振っている。

「行ってくるっす!」と彼は大きく手を振る。



 村を出てすぐに林。

 そこに魔族が現れた。


 

 スライムだ!



「早速、俺の出番っすね。門出の戦いを華々(はなばな)しく決めるっすよ。」


 剣が取り出された。黄金で覆われたソレが眩く光を放っているように見える。

 

 剣が振られた。


 が、攻撃は当たらない。


 再び剣を振るが当たらない。

 スライムの攻撃。溝に入って「おっず」と(うず)き声を出していた。


 村人がみんなその様子を見ている。

 彼の初戦、邪魔する訳には行かない。私達もしっかりと見届ける。


「何にも考えるな。考えるな。感じろ。()らえっ!」


 剣が太陽の光を反射してか、眩く力強く光出していく。

 剣が縦に振るわれた。



 ザンッ!



 スライムの一言……「ポヨッ?」



「えっ――?」

 スライムの体内に入る剣。何事もないようにそこでぷるぷると体を揺らしていた。


 まるで攻撃が効いていない。体から引き抜かれた剣。再び臨戦態勢に入っている。


 スライムの攻撃。――体当たり。

 それを剣で受け止める!


「お……。重っ!」


 バギバギバガガガ……ダガンッ!


 大きく背後に吹き飛ばされるハロミト。地面に数回打ち付けられてから、高く上空側へと吹き飛び見送る人達の頭上を超えて、その先にあった建物に直撃する。


 家が……衝突でぶつかった家が、勢いに耐えきれず崩壊した。


 家主っぽい人が足をついて項垂(うなだ)れている。……可哀想に。



 ものすごく死にかけになった彼がゆっくりと戻ってくる。もう体もボロボロで動くだけで一苦労に見える。


【回復】――。カナリンのサポートで何とか戦えるだけの余力を手にする。


「ここで逃げてちゃ駄目っすもんね。」


 傷だらけになりながらも、剣を構えた。


 

「下級魔族しかいないような村にこんな激強のスライムが現れるなんて。」「これは試練だ。魔王が上級魔族を送り込んできたんだ。」「ハロミト君はきっと、最強の敵と戦っていらっしゃるのよ! きっと子どもでも倒せる普通のスライムなんかじゃないの!」



 家の被害や彼のダメージを見れば一目瞭然。相手がどれ程強いか見て分かる。

 ゴクリ、唾を飲む。


 

「わー、スライムだー!」

 林の方から村に戻ってきたと思われる少年二人。年齢的には小学生低学年か中学年ぐらいの二人組だった。そんな何にも知らない二人がスライムの背後にいた。


「駄目ー。そのスライムは普通じゃないの。激強なの。逃げてぇ!」


 人々の中から聞こえる声。

 そんな悲痛の叫びは聞こえない。


「やっちゃおうぜ!」


 やんちゃな笑みを浮かべた男の子が棍棒(こんぼう)を振り上げた。

 何も知らないから、スライムに勝負をしようとしている。誰も止めるには間に合わない。


 ボコ! ボコッ!


 

 スライムは……倒れた。

 スライムは……消えた。



 え? えー……。


 男の子達が村に戻っていった。


「どう見る?」「どう見るっておめぇ、やっぱあのハロミトじゃあなぁ。」「小っちゃな子どもでも倒せるスライムに、あんなにボロボロになって、さらには倒せないなんて……。」


 村人から「はぁ……」というでかいため息が聞こえた。



「ハロミト……死ぬなよ。」

「お気の毒に。……頑張れよ。」


 悲壮(ひそう)感で埋め尽くされた門出の声。


「もう嫌っす」なんて戯言(ざれごと)を吐きながらも私達と共に進む。


 これ程かと言うほど、(あわ)れみのこもった勇者の旅立ちを背に、都へと進んでいく。



 まじか、こいつ……。

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