13.『土忍』壱
「石像の正体はやはり"土忍"でしたか……。」
私達は都へと戻り、その状況を確認した。今は都を囲む壁の上へと登り、そこから南側の土地を見下ろしている。
遠くに見える土島という村は冬の寒空の下、不穏な空気に晒されている。
その村から都に向かって来る夥しい数の軍隊。よく見ると、その軍は全て死霊人でできていた。
「つまり、まとめますと――」
カゲトが国家の人から聞いた情報を繋ぎ合わせてまとめてくれる。
「以前より石像が動き出してはいましたが、村や都及びその人に損害を与えるようなことはなかった。ですが、アンチギルドにより盗まれた秘宝"勾玉"の効果により――対象である石像の攻撃対象を都の中の人間に移し、石像の攻撃を都に向けさせた。現在はその石像が繰り出した軍隊が都へと襲いに来ている……で良いでしょうか。」
やはりあの嫌な予感が的中していた。盗まれた勾玉を悪用していた。しかし、まさか多大な被害を与える厄災と化しているとは思いもしなかった。
「その通りです。また、多くの兵を投じて一次進行は何とか退けましたが被害は甚大。現状、二次進行が行われましたので、兵を避難させ、門を閉鎖しました。現在、主忍への特別出動命令が発布されております。」
向かってくる数多なる軍隊に対抗すべく二匹の怪物。
獰猛なる巨大なドラゴンが口から火を吐き、雷を放ち、翼から旋風を繰り広げる。近づく死霊人を大きな尻尾で薙ぎ倒す。
神聖なる巨大なる火の鳥――フェニックスが死霊人の真上に陣取る。イモータル【フレア】――。爆炎が広がり死霊人を焼き尽くす。その炎がゆらゆらとその場に残り続ける。
主忍の一角――森羅万象の力を纏うドラゴンが空を裂き――。
もう一人の主忍――自然の力を纏う炎の鳥フェニックスが戦場を焼き尽くす。
「そちらのお二方のみが向かってくる軍隊に対応しております。他の主忍におかれましては、桃太郎氏は都にてアンチギルドへの探索及び警備を担っており、残る二名は手薄となった地域の警備に当たっております。」
「それが最前手だろうな……。ひとまずその石像とか何やらは『五忍の土忍』だろ。こりゃ、少数精鋭でやるしかなさそうだ。」
「そうですね。下手に人員を導入する方が危険までありますからね。だからと言って、一対一では勝てません。なので、ここは先発の二人の支援を受けつつ、私とボーニーの二人で討伐しましょう。」
凛々しい瞳が冬の村を強く見つめているのが見えた。
「カナリンも着いてくわ。元々、石像の封印を解いたのはあたしだし。こうなることを予測できなかったあたしにも非があるし。こうなったら全力でサポートするわ!」
「それはありがたい」と呟かれる。
「私も一緒に行くわ」と私は胸を張る。
「いえ、お嬢様はここでお待ちください。あまりにも危険過ぎますから。」
少しムッとした。「何でよ。私だって、修行でそれなりに――」
そこにボーニーが、
「今回ばかりは仕方がない。諦めるんだな、ジュリネ。敵が敵だ。足手まといが最も困る相手なんだ」と横入りして会話を止めた。
私達は巨大な壁の階段から地上へと降りていく。風が頬に当たる。
「そんなに石像ってやばいの?」
「そりゃあ『五忍』だからな。」
と言われてもその"五忍"の強さがちっとも分からない。
「五忍とは人類最強の五人の忍のことです。我々よりも断然強いです。ですが、魔王との戦いの後に行方を晦ましました。そして、今、その内の一人『土忍』が石像に変わり果てた姿で我々人類に襲いかかってきております。」
カゲト達よりも強いって一体どれ程の猛者なのだろうか。想像がつかない。
石像になって勾玉の効果を受けたということは、その人物はもう人間ではないことだけは想像が着いた。
「『土忍』は死霊人を生み出し操るネクロマンサーでございます。操る死霊人の数は露知れず、他人の命を守れるような隙はなく、死ねば死霊人にされ仲間を惑わす敵となる。故に彼女との戦いは選りすぐりの精鋭数人で戦うのがベストなのでございます。」
突き放すような厳しい眼と、だけど死なないで欲しいと希うような瞳で私を見ている。
「お嬢様、大変申しにくいのですが、今回ばかりは足手まとい、つまり邪魔なのです。絶対に来てはいけません。」
階段で止まる。
カゲトとボーニーとカナリンが振り向いた。先に進む三人に置いてかれて寂しくて、悔しくて、言い返したくても、この状況を飲み込むしかない状況。これ以上、心配はかけられないし、引き下がるしかなかった。
「分かった――。だけど、約束して。」
強い風が一時的に止まった。
それに伴い音が止まった。
「絶対に死なないでね。死んだら、絶対に許さないから!」
「当たり前でござるよ!」「死にに行くわけないじゃない。」「もちろんでございます。」
温かな眼差しが向けられた。
「石像はまだあるんでしょ。私、修行を頑張るから、次は私も連れてって。――約束して。」
「もちろんでございます。」
そのまま階段を降りていく。
壁の中で、家の二階か三階ぐらいの高さに秘密の抜け道が存在していた。門の檻を上げられない今、そこから出るしかないとのこと。
「では、桃太郎様、お嬢様の事をよろしくお願いいたします。」
「でーれー任せー。」
私はカゲトの代わりに桃太郎が護衛につくことになった。
「約束は守ってね。」
「そんな心配しないでいいでござるよ。」
三人の後ろ姿を眺めるしかできない。
「安心せぃ。アイツら死にゃあせん。だって、もんげー奴じゃけぇ!」
彼らがそこから降りた。
「ほんとに、もんげーから、なぁ!」と隣で強かに呟かれていた。その言葉は軽いのに、不思議と重かった。
だから私も信じて、そんな瞳で彼らの後ろ姿を眺めた。
◆
物寂しく置かれたティーコップ。
少しだけ口に入れるも、あんまり味がしない。ゆっくりと飲んだはずなのに落ち着かない。
取り残された私。気が気でない私。
【モニタリング――】
桃太郎は少し怪訝そうな表情をしていた。話しかけづらい。
「悪い予感がする――。」
彼はそう言うと、喫茶店の店内で身を構え、鞘に手を置いた。
【展示――】
近くのどこからか発動されたっぽい技。
喫茶店に並び始める小さな爆弾の展覧物。喫茶店が爆弾の展覧会に早変わりだ。
「わやや! マジでわや!」
何とか私はその場から逃げられた。さっきいた場所では爆発が襲っていた。
走りながらさっきの喫茶店から遠ざかっていく。
トンッ。
誰かにぶつかった。少しだけぶつけた人を転ばした。「ごめんなさい」と言ってぶつかってしまった人に手を差し伸べた。
その人が私の手を掴んで立ち上がる。「ありがとうございます。」
とても地味な感じの女性だ。ただ、その人を以前、見たことがある。
赤茶色の地味な色のローブを羽織りのように着て、首には楽しそうな仮面、赤色の丸眼鏡。
私はその女に唐突に抱きつかれた。
「ごめんね。あの人がどうしてもあなたと会いたがっていてね。駄々をこねるのよ。――付き合ってあげて。」
あっ、しまった――。
【テレポート】
――――――。
ここは壁の外の林だろうか。
分かるのはここが都の中ではなく外ということ。
そして、目の前には先程の女とゴンディがそこにいた。
「じゃあ、私は帰るよ。これ以上、あなたのわがままに付き合う義理なんてないでしょ?」
「悪かったなぁ。手土産にこいつの死に晒し体を持ってくから、それで許してくれや。こいつぁ、金になるぜ。」
「はいはい。好きにして。」
【テレポート】
彼女はその場から消えてしまった。
つまり、この場に取り残されたのは私とゴンディだけ。周りに人はいなさそうだ。虚しい木々のさざめきが聞こえる。
「久しぶりだなぁ、嬢ちゃん。俺をコケにしただけに終わらず、よくも大切なゴブリン達をボッコボコのボッコボコにしてくれたなぁ。腸が煮えくり返るってこいうことかぁ? あぁん?」
相当ブチ切れてるよ、この人。
「けど、いいさ。てめぇを売りゃあ相当な金になりそうだ。なんせあんな強ぇ奴らが護衛するぐらいなんだもんなぁ。きっと身代金は相当だ。んー、その前に俺様の玩具にしてもいいなぁ。」
灰色のローブが揺れる。横に被る怒りの仮面がチラリと見える。
「まっ、今日はどんなに叫ぼうが待とうが、ご自慢の護衛さんとやらは来ねぇんだろ?」
悪い笑みが浮かばれる。逃げた所で逃げ切れる予感もしなかった。助けに来る気もしなかった。虚しく吹く風がそう教えてくれた。
ここはもう逃げられない。
「俺のスタンスだ。悪ぃことは言わねぇ。抵抗せずに捕えられてくれりゃぁ、俺、様、は、痛い目には合わせねぇ。どうする?」
「断る!」
「いいぜ。この『曇天怒面』山賊王子のゴンディ様が相手してやんよ。雑魚を痛ぶんのはよぉ、俺様の得意分野なんだ。少しは楽しませてくれよ!」
ピリリと辛い雰囲気となった。
戦いの火蓋がこんな所でも切って落とされていた。
戦うしかない。今までみたいに誰かの助けがある訳じゃない。だけど、戦わなきゃならないんだ。
私とゴンディはお互い睨むように鋭い目を向けあった。




