12.執事と棒人間
ボーニーに襲いかかるゴブリン。私のことなど眼中にない。
【木刀】
手に現れる線の刀。
ザンッ!
ゴブリンをぶった斬る。
突撃してくるゴブリンを、斬って斬って斬り伏せる。
夕暮れ気味の空の下、紅葉と相まって赤色の景色と化す。沢山消えていくゴブリン。それでもまだまだ数がある。
数の暴力。ゴブリンが彼を覆い被さった。
【暴発――】
覆い被さるゴブリンの山。しかし、それらが思いっきり吹き飛ばされる。
ボーニーが追い討ちをかける。
まだまだ躍進劇が止まらない。
弓矢が襲ってくるが、棒の体には当たらずすり抜けていく。
【ボウガン】
空中でアクロバティックに放たれる弓矢がゴブリンを襲う。
弓と刀の多彩な攻撃が圧倒する。
彼はその場で高く飛び上がった。
【ボム】
手には線で描いた丸とピョンと跳ねたような導線の爆弾を持って落とした。
ジジジジジ……。
大爆発。
やばい、私も巻き込ま……。
……。
危なかった。完全に巻き込まれる所だった。普通に死ぬところだったし、これは許されないわ……まじで。
敵の数も残り僅か。不気味にもその敵は一定の場所に集まっているように見える。
「トドメを指してみるか?」
その言葉で確信した。ボーニーが敢えてゴブリンをその場所に集らせていたのだ。
【自分自身】
【重火器】
大砲の先がそこに向かう。
一瞬だけ、呼吸を整える。
バズーカ砲をお見舞いした。高い攻撃力。近くにあった木諸共吹き飛ばして、その集団も吹き飛ばした。
もう周りにゴブリンは見当たらない。
つまり、私達の――
「勝利でござるな!」「うん!」
なんか胸の内がホッとした気分だ。
そう言えば、何か忘れてるような……。まあ、いいや、相当疲れてしまった。一旦頭を休ませよう。
◆
高い山から見る朝焼けはとても荘厳だった。目を奪われる程に美しい。
西大山の村は小さな村だった。
魔族との戦いに疲れた体を簡易的に休ませることができるぐらいはできる。しかし、それ以上は見込めないぐらいの規模。
そんな村にちょっと動揺が広がっていた。
「昨晩、何者かによって村の秘宝――勾玉が盗まれたようです。」
ふと思い出すゴンディの姿。そういや何か回収するとか言ってたな……。もしかしてその勾玉のことか。
「勾玉なんて盗んでどうするんだ? 足がつくから売ることもままならない。持っていても何も役に立たない。秘宝スキルが弱いからな。全く分からんでござるな。」
「秘宝スキル……?」
私が首を傾げているとカゲトが優しく小さく言葉を発した。
「この世には自らが発動できる能力とは別に、その道具が発動するスキルを持った武器があります。それが秘宝です。秘宝は限られた数しか存在せず、所有者は厳しく管理されています。そのため、裏で売買しても結局は足がつくので取引は難しいでしょうね。」
「なんか能力が二つ使えるってチートね……。」
「えぇ。ただし、秘宝は文字ではなく決められた一つの言葉しか使用できませんので、扱い次第とも言えますね。」
まあ一長一短の武器。ただ、プラスにはなる強力な武器だと思う。
カゲトはボーニーに、
「勾玉の秘宝スキルはどのような効果なのでしょう?」と聞いた。
「言葉は『スポットライト』――。対象の一体の攻撃対象を自分に移す。ただし、人間には効果がない。」
つまり、ボーニーがゴブリン戦で使っていた"僕を見ろ"の効果を使えるのか。ただし、一体だけだし、人間にも使えない。「強いの? ……それ。」
「戦局を変える力はないんだから、弱いでござるよ。それに村の人たちを見るでござる。一応村に保管されていたけど、祀られていた訳でもなく、持っていかれた所で世界を揺るがす自体にはならない弱い武器。ほら、みんな唖然としているだけで、一切パニックになっていないのがこの状況を示しているのでござる。」
村人達もボーニーも全く問題なさそうに平然としている。ちょっと噂立っているぐらい。
だけど、嫌な予感がするのは何故だろう……。
今回の犯人はゴンディな気がする。彼は私達を見過ごしてまで回収を優先させた。意味無く回収したりしないはずだ。
やっぱり嫌な予感がする。だからと言って、何かできる訳でもない。嫌な予感だけが、胸の奥に残った。
◆
はぁ、はぁ、はぁ。
息が切れる。それでもまだ山を登る。
そして、何とかゴールまで登りきる。
修行を初めて二週間は経った。体力作りの修行として過酷な山降り、山登りを毎日ほとんど行っていた。
【回復】
ありがたいはずのカナリンの回復が今はとっても嫌になる。
ギブアップする時に回復して、無理やり続けさせられる。まあ、お陰様で一日で一往復することができるようになってはいる。
「凄いな。最初は登りきるのにも丸一日かかったのにな。」
「それもカナリンのサポートも使い過ぎだったのに。今では回数もだいぶ減ったものね。」
「次は能力の練習に行くか。」
私とボーニーは少しだけ開けた林の中に降りた。
――――――。
今日の修行はこれにて終わり。もう疲れすぎてへとへとだ。
「まさか僅か二週間でここまで物にできるとはな。あんたは天才タイプだな。」
「ありがと。褒めてくれて。」
嬉しいものは嬉しい。けど――。
私が自立型AIではなく本物の人間だから、という理由で運良くそうなっているだけという可能性を否定できず、どこかもどかしい。
例えば、この世界に初めての異変が起きた時に運営から貰った謎の光――その影響なのかも知れない。ただ奇跡的にそう思わされているだけで、実際はただの凡人かも知れないと思ってしまう自分がいる。
せっかく褒めて貰ったのに、ため息が出る。
「凡人タイプの拙者やカゲトとは大違いだ……。」
偶々漏らしたその言葉を聴き逃しはしなかった。
「あれ? カゲトも……?」
カゲトはどうからどう見ても天才タイプな気がする。そう思った事を見透かされる。
「驚きか? 面白い事を教えてやろう。驚くなよ。子ども時代に遡るが、俺……いや、拙者とカゲトは同じぐらいの実力だった……。」
言い戻さなくていいよ。わざわざ拙者って言わなくても、俺で全然いいよ。そもそもござる調を忘れてるんだし……。
「平凡だと気づいたのは、俺らの所に天才が現れたからだ。ヘイムは天性の才能を持ってた。拙者もカゲトも奴には勝てなかった。どんなに頑張っても勝てる気はしなかった。」
アンチギルドのヘイムの名前が出てきた。彼が天才と言われるのは、納得ではある。
「まっ、俺はそんな才能の差に……理不尽な世界に不貞腐れ、努力を諦めてしまった。その間にもカゲトは努力をやめなかったよ。俺が拗ねてる間に、ただひたすらに努力を積み重ねていたんだよ。」
そうか。天才ではない。だからこそ、努力で埋めたんだ。ある意味、努力の天才なのかも知れない。
「気づけば、アイツはヘイムと互角を張るぐらいの実力を得ていたんだ。俺は置いていかれてしまった――。」
哀愁漂う秋の紅葉。夕暮れ時なのが相まって余計に淋しい雰囲気がある。
「ボーニーさんも、とっても強いですよ。」
そんな慰めの言葉をかける。
「そりゃそうだ。」
思ってた反応と違った。
「アイツらとの実力差を目の前で見せつけられた日から、俺はもう置いてかれるものかと必死に努力を重ねたんだ。ヘイムと違い俺は不器用だし、カゲトと違い本気になるのが遅すぎた。だから、色々な事に手を出すよりも一つの事をとことん極めることにした。今日この日もずっと棒人間を突き詰めている。簡単には負けないさ。」
彼が立ち上がった。
ふと棒人間だった彼が人間の姿に戻った。全身を覆うような服を着た長身の男。そこには努力の結晶とも思える傷や筋肉が見え隠れしていた。
◆
さらに二日経った。
戦えるだけの実力は手に入れた。しかし、それ以上の力はまだまだ先が存在する。最初の大きなパワーアップが奇跡的で、これからのパワーアップは地道な物になりそうだ。
贅沢は言えない。
ボーニーだって、何しろカゲトだって努力をしたからこそ、あんなに強くなったんだ。高望みなんてできないし、しようと思わない。
そんな時、明らかに忍の格好をした全身布で身を隠した忍者がそこにやって来た。
「これは……王宮の遣いの方。どうかされましたか。」
なるほど、都にある唯一国家の遣わした忍なのか。
「ちょうど良い所にカゲト様がいらっしゃいました。ボーニー様、カゲト様、緊急招集です。現在、都が緊急事態に陥っております。」
以前感じた嫌な予感が今になって再発した。
不穏な風が通り過ぎていった。




