11.お嬢様と棒人間
秋の山の中――。
棒人間のボーニーがシュッと立っていた。
「《変身系》の真骨頂は、変身するだけではなく、特殊な力をも持つことだ。……あ、だ、ござる。」
ござる口調のキャラ作りをしているのだろうが、時々ござるが外れている。完全にキャラ作りに失敗してるなー、という横目で見ていた。
「拙者は、壁や物などに密着をすれば、同化が可能。」
木に密着した。まるで木に落書きされた絵にしか見えない。薄闇とかだったら絶対に気づかないだろうなと思う。
しかし、その能力が弱ければ戦いには使えない。その時にはどうすればいいのだろうか。
「変身後、その生物に合った《具現化系》や《言霊系》が使えるんでござる。それもその生物の生態に合わせて。」
ちょうどそこに熊の魔族が現れた。白い息が漂っている。
「ちょうど良い所に来たでござるな。よく見るでござるよ。」
【木刀――】
そこに現れたのは……木刀ではなくて単なる刀っぽい黒い線。
「木刀じゃないじゃんっ!」
「これが木刀なんだな。棒人間にとっての木刀はこれなんでござる。」
熊に向かって走り出す。圧倒的な剣戟に熊は大きなダメージを受ける。そのまま後ろに吹き飛んでいた。
「棒人間の生態における木刀は、棒の刀になるだけではなく、鉄の刀と同様の殺傷力を手にするんでござるよ。」
【ボウガン】
左手の線に現れる、これまた線でできた弓矢。まるで手にくっついている。
追い討ちをかけるようにそこから弓矢が放たれた。矢に刺さった熊はその場に倒れて動かなくなった。
「変身して、元から備わってる能力や変身に対応して変わり果てる技を駆使して戦う。これが《変身系》の戦い方でござるよ。」
彼から武器が消えた。
とっても作画コストが低そうな体で身振り手振り教えている。
「戦いにはまず自身に何ができるのか確認することから始まる。変身してから沢山技を使ってみせるでござる。」
それじゃあ、ジュゴ――。
ふと思考を止めた。
思い出されるのはヘイムの姿。彼は人間に化けていた。
目の前にいるボーニーは棒の人間に変身している。
「ねぇ、試してもいい?」
「逆に、色々と試して欲しいでござるな。」
じ、から始まる言葉。
頭の中で排除されていた選択肢。
【自分自身――】
……。
なんか……変わった?
何の実感もない。
とりあえず別の技でも使って見よう。
【銃】
現れたのは銃弾が入った銃。
試しに撃つと……。
バァン!
軽く木にめり込む銃弾。そして、落下した。
今までは銃弾は別で用意し、放ってもゴム弾レベルだった。なのに、今は全く違う威力だ。
今までの“玩具みたいな音”じゃない。明確に、命を奪える音だった。
「一度、その状態で例のジュゴンに変身して見てくれ。」
はい!
ジュゴンに変身。――できなかった。
「あれ、変身できない。」
「なるほどな。それがアンタの変身した姿か。変身中に別の変身はできない。一度元の姿に戻る必要がある。それを考えれば、アンタは"自分自身"に変身したんだってことになる。」
試してみたことが成功した。
「ひとまずその状態で、色々な技を試してみろ。そこから使えそうな物をピックアップするぞ。……あ、でござる。」
何だか楽しくなってきた。
今までずっとカゲトやカナリンに頼りっぱなしで、何もできなかった。まるで蚊帳の外だった私だけど、ここからみんなと一緒に足を並べられるかも知れない。
少し諦めかけてた火が、薪を巻き込んで大きく炎になるみたいな感覚だ。
【辞書】
辞書が登場する。単なる紙でできた辞典。それ以上でもそれ以下でもない。そこから使えそうな技を片っ端から使っていく。
――――――。
――――――。
【時空】
目の前の一定エリアの時空を歪めた。
殺傷力はなく、発動も数秒だけ。歪ませた空間よりも大きい攻撃だと発動しないことを突き止めた。
多分、回避のために使えそうだ。ただ、複数回使ったり長く使ったりすると体力の消耗が激しく、何度も使える技ではなさそうだ。
【ジェット】
迅速、迅雷の速度で移動。ただし、一直線のみ。
これ使って木にぶつかって小一時間は頭を抑えてうずくまっていた。――まじで、痛かったぁ。
【磁力】
磁力操作ができた。近くの物や人に磁力を付与できる。磁石のSとNのようにくっつけたり離したりできる。……が、その距離は意外と短い。両手を広げた私が二人、三人分ぐらいの距離でしか発動できないっぽい。――絶妙に使えそう。
【重力】
めっちゃ最高。この技だけで二種類の技が使える。ボーニー曰く"文字の綾"というやつで《具現化系》と《言霊系》で別の効果が存在している。私はどちらも扱えた。
具現化系は敵を重力で動けなくすることができる。多分、鍛えればヘイムみたいに押し潰すこともできそうだ。もちろん私は、今はそこまで使えない。
言霊系は人や物の重力を変えられる。今のところ私は自分自身及びその物しか変えられない。まあ、私や私の武器を軽くできる時点で優秀な技だ。
【重火器】
重く重く改良された砲台バズーカ。通常のバズーカとは違って、大きさは三倍近く。付属の土台を組み立てて、敵に向けて放つ。じゃなければ重くて持ち上げられない。砲台よりかはバズーカっぽい形で、使い方は砲台みたいに置いて扱う。そんな武器だった。
正直に言うと、この武器めっちゃ気に入った。
この武器を基本的な武器にしようと思う。
その他、時間、ジェット、地雷、などなども試した。
――――――。
――――――。
「ここから実戦に使えるようにする修行に入るでござるな。」
やはり、強ければ強い程制約や反動が強い。だからと言って、汎用性を高めて戦いに役に立てなければ意味がない。
実践的に使えるかどうか、ここからが大事なフレーズだ。
「まあ、今日は一時的に休みでござるな。」
疲れも半端ない。その言葉を飲み込んだ。
ガサガサガサ。
ガサガサガサ。
草が揺れる。
そこから現れた一人の男。灰のローブと怒りの仮面。強面の面立ち。彼は――ゴンディだ。
「おめぇは……。ちっ。」
睨みつけながら舌打ちをされた。
「今日は"回収"の用事があんだよ。てめぇらに構ってる余裕がねぇ。……が、何もせず見過ごすってのも癪に障る。あー、うぜぇ。」
「勝手にうざいとか言われても、知ったこっちゃないんだけど!」
「まぁ、いいや。じゃあ、こうしよう。」
【ゴブリン!】
彼はゴブリンに変身した。右手には棍棒、左手には法螺貝を持っている。
彼は法螺貝を吹いた。その音が山の中に響く。
「知り合いでござるか?」私の耳元で囁かれる。
「アンチギルドの奴。……敵よ。」
「確か……ヘイムの仲間か。じゃあ、徹底的に倒さなきゃいけないな。」
沢山のゴブリンが現れては私達を囲んだ。
以前、彼と戦った時の様子が思い浮かばれる。あの時よりもゴブリンの数が断然多い。数が多すぎて、逃げ道がどこにもない。
「てめぇらの相手はこいつらがやる。一匹一匹は弱ぇが、ここまで束になると超厄介だぜ。討伐難易度も跳ね上がる。」
深い緑色の体が秋の景色の中、違和感を抱かせていく。
「安心しろ。ゴブリンは習性から人を殺さねぇ。だが、死ぬより酷いことはするがなぁ。やるべき事終わったら見に来てやんよ。その時の絶望する面を眺めになぁ!」
ゴブリンは臨戦態勢だ。
私も構えなきゃ。
――。疲れが残ってる。ここで戦うにしてもすぐに体力が切れて、戦闘中に動けなくなりそうだ。
「ここは拙者にお任せください。」
棒人間のグッドサイン。
ゴンディは法螺貝を吹いて、どこかへと去っていった。
ゴブリン達が一斉に飛び出してくる。
【僕を見ろ!】
みんなの視線がボーニーに集まった。
なんかカッコつけてる。何のポーズだ……それ。




