10.占い師と棒人間
桃太郎将軍にアンチギルド関連の全てを委ねていたが、彼らを逃してしまったとのこと。これ以上は追っても無駄だ。
昨日の戦いが、まだ体に残っている気がした。 だけど――
アンチギルドのことは一旦、頭の隅に追いやることにして、都を歩いていた。
都の壁際にある一区画。そこに紫色の垂れ幕で囲まれたスペースがある。その中には水晶を持った中年女性がそこに座っていた。
その女性が私達を無理やりそこへと連れてきた。「初回無料だから金銭はいらない」と連呼して。さらには「オマケもあるわよ」と怪しい言葉も添えて。
「あなた達が来るのは分かってたよ。」
来たんじゃなくて、無理やり連れて来られたんですが……。ツッコミたかったけど止めて置いた。
「ぬ。あなた、とってもイカすね。占いで見た未来だとこんなにもいい男に見えなかったから驚きだわ。」
「占いで見た未来……?」
「そうよ。あなた達が来ることは水晶を通して見通していた。しかし、その水晶を通して見たあなたの隣にいる男の人は――」
何故か彼女は訝しい目で彼を見ていた。
「もっとおっちょこちょいで頼りない感じで、髪も色めいてて少しチャラそうな……。まー、あなたみたいな男前に見えなかったのよ。だから、少し驚いちゃった。」
「それ、絶対に人違いでは?」
今度は私が訝しい目を向けた。
「気を取り直して、あたしは占い師。次、どこに行けば分からなくなった時はあたしの所へ来なさい。神の思し召しのまま、行くべき所を示してあげるよ。今回は無料でやってあげる。」
そんなことを言っていた。
【占い――】
水晶が水色や紫色の光を放っていく。暗闇の中で光るサイリウムのような輝きだ。
「見えたわ。あなた、次は『西大山』に行くといいわ。そうすれば、非常に強い仲間ができ、そして、戦闘における開花が見込まれるわ。」
その言葉をカゲトが「つまり、新たな仲間とジュリネお嬢様の戦闘力アップに繋がると言うことですね」とまとめていた。
「では、オマケの飴ちゃんよ。舐めればいい事に遭遇する確率が高まる……わよぉ~。」
「オマケって飴なの!?」
飴の袋を開く。中の飴は何と絵が描かれている飴だった。その絵とは占い師の顔だった。
いらなっ! 開けてしまったものは仕方ない。仕方なく口の中に入れた。
私達はその場を後にして、彼女の言う"西大山"へと向かって進む。
「占いの意味必要なかったね。だって、元々"西大山"に行くつもりだったじゃん。その理由もカゲトの知り合いに《変身系》の修行をつけて貰うためじゃん。」
これは占いで決めた訳じゃない。元々、行こうとしてた道だ。
檻の上がっていく。西門を通って次の場所へと向かっていく。
◆
都から離れていく。
そこへと近づくに連れて、木々は紅葉に変わっていく。地面に枯葉が増えていく。
「年中、秋の山ですからね、景色はとても壮観でございますよ。」
山を登っていく。階段の道を進んでいたが、いつからか獣道に変わっていた。緩い傾斜から激しい傾斜まで幅広い斜面を登っていく。
落ちている枯葉がサクサクと音を鳴らす。
木々は赤や黄色で目に優しい。
少しだけ平らな場所に出れた。
「一時的に休みを取りましょう。」
【家具】――。椅子などが現れる。
足が棒になりそうだ。これ以上歩いたら手も体も棒になって棒人間になってしまいそうな気がする。
「本日の昼ごはんは【カレーライス】でございます。」
山の中で食べるカレーライスは何だか小学生の頃の林間学校を思い出させてくれる。
ちょっとだけピリリとした辛味がちょうどいい。濃厚な味がご飯とよく絡む。じゃがいものコロコロ感とニンジンの甘みもいいアクセントになっている。口の中で踊ってる。
「やっぱりカゲトのご飯は最高ね。」
「私はただ召喚しているだけですけどね……。」
頭文字に『か』がつく料理なら、屋敷にいなくても何でも用意できる。まじでカゲト最高だわ。
紅葉の中で食べるカレーライスはなんと言っても美味しくて、幸せに思える。
「ねぇ、カゲト。そのカゲトの知り合いっていう《変身系》のエクスパートってどんな人なの?」
「不器用な人でございますね。ただ、人知れずに暗躍することが得意で、凡ゆる任務を密かに達成することから巷では"工作員"のボーニーと呼ばれています。戦闘も負けず劣らずです。私が保証します。」
ボーニーと呼ばれたその人は隠密系の人物なのだろうと予想した。
「ちなみに見た目は棒人間です。」
棒人間っ!?
どういう揶揄……? けど、長身痩躯な体型の人を揶揄して呼ぶこともあるのか。特に、カゲトとそのボーニーっていう人は知り合いだし。そういうあだ名同士で呼び合う関係でもおかしくはない。
とりあえず想像だけ膨らませていった。
再び道を進んで行く。
「はー、疲れたー。もう動けない。」
「お嬢様、先程休憩したばかりですよ。」
「疲れたんだから仕方ないでしょ!」
「これも戦闘能力の向上と思い頑張って下さい。負荷なくして成長は見込めません。負荷を負荷と思わなくなるまで頑張れば、後は楽になりますから、頑張りましょう。」
はぁ……。「はぁい」と言って、山を登る。
枯葉を踏みしめる。
もう動けない……。
けど、動かす……を繰り返す。
「何でこんなに大変……なの。」
「本来なら、魔族も襲ってきますから、もっと疲れますけどね。」
「嘘でしょ。これより大変ってどれだけ……。あれ? それなら何で魔族を見かけないの?」
「考えられることは……ボーニーの暗躍ですかね。」
カゲトが立ち止まる。
紅葉が風で飛ばされていく。
飛ばされた葉が地面に向かって進み、その周りに集まっていく。落ちている枯葉も巻き込み目前を隠す。
「久しぶりだな。カゲト。」
葉が吹き飛んだ。
そこに現れたのは――
太い一本線の胴体。そこから繋がっている手足も線! 顔は綺麗な丸。その丸は特徴的な造形がされているものの、真ん丸の顔には違いない。
――棒人間だ!
二次元なら分かるが、三次元で見る彼の姿はとっても違和感が凄い。本当に見た目が棒人間だった。影も、一本線だった。
「アンタらが来るのを麓から見ていたぜ。先回りして魔族も倒しといたでござる。」
「あの……。先回りして魔族を倒すより、麓で合った方が早かったのでは――。」
「……。それもそうだな。まっ、手遅れだが。」
なんじゃそりゃ!
この登る時の時間を返して!
「それで、何のようだ? 用があるから来たんだろ?」
「二点あります。一点目、これが一番の目的です。私は現在、ここにいるジュリネお嬢様に仕えておりますが――」
カゲトが私を目立たせる。
「お嬢様は魔王討伐の使命を承っております。しかし、戦闘においては新米者。系統は《変身系》でございます。」
「なーるほどっ。それで《変身系》のイロハについて教えて欲しいと。」
「ええ。あわよくば即戦力並に強くして頂けると……。」
「オーケー。任せときな。で、二つ目は?」
カゲトは少しトーンを落とした。
「ヘイムが仲間を連れて動き出しました。ひとまず警戒を。」
「待て。そっちの方が大事っぽくねっ。……で、ござる。」
丸い頭を線の手で掻いている。
「まっ、警戒した所で何もできないもんな。じゃあ、この女の子に《変身系》を教えりゃいいんだな。」
彼に「名前は?」と問われ返答する。
そのまま、さらに山奥を指して「じゃあ、ジュリネ、着いてこいっ!」と言った。
「ちょっと待って。休憩させて下さいっ!」
ひとまず休憩してから、修行を開始することにして貰った。
占い師が言った私の戦闘力の開花。
私はどこまで強くなれるのか。
秋風が紅葉と枯葉を巻き込みながら吹いていった。




