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死亡=現実でも死のバグ世界、お嬢様と執事の生存・脱出戦略~『詩忍にくちなし』~  作者: ふるなゆ☆


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9.暗殺者と桃太郎

「ボクはね、君達に危害を加えるつもりはないんだ。」


「何を企んでいる……。」


 怪訝そうな目が彼へと向けられる。

 張り詰めた空気感に背筋も伸びてくる。


「さっき言ったよ。――勧誘だって。特に、お嬢さんに用があってね。」


 今度はカゲトから私へと視線が変わった。少しだけ身構える。


「私?」

「そうそう。アンチギルドに入らない?」


 勧誘される私。だけど、まだ何も心は揺れ動いていない。逆に体が身構えていく。


「アンチギルドは魔王の復活や魔族の権威上昇、それに伴う現体制の崩壊を目論む組合なんだ。今言った理由以外にも選民思想の民族主義的イデオロギーから逃亡生活からの脱却など様々な理由で加入してるんだよ。」


 理由は様々でも魔族のための反人民的組織と見て間違いなさそうだ。


「君は特別な人なんだ。そうは思わない? あの『忍刀』を仕えているなんて普通じゃありえないからね。だから――」


「だから……?」


「君達を監視させて貰ったんだ。それで分かったこともある。ボク自身もあまりよく分からないんだけど、君はこの世界の人間じゃないんだよね?」


 まさか監視されてたとは。少しゾッとする。しかし、彼の言ってることは図星だった。「だから、何なの?」


「それで元の世界に戻るために仕方なーく魔王討伐をしようとしている。違う?」


 またもや図星だった。「そうだけど……何?」


「魔王が復活したら、魔王にお願いして元の世界に戻して貰えば良いとは思わない? ボク達と一緒に活動すれば魔王は必ず認めてくれる。現に魔王の幹部――魔族四天王唯一の生き残りと繋がりもあるしね。」


 言いたいことは分かった。魔王討伐をするのは魔王が戻れなくなった要因の主犯格AIだからだ。それを逆手に取って、主犯格AIに直接戻して貰う。そうすれば魔王討伐の旅も必要なくなる。


 受け入れる条件は揃っている。


 ただ――


「この世界に残された人達はどうなるの?」


「我々に選ばれた人達のみ魔族と対等の立場を与えますが、それ以外は奴隷か……死ですかね。」


「選ばれた人達……?」


「はい。我々の味方になる人達のことです。」


 完全に悪役の思考だ。

 だけど――。

 私はこのバグ世界にとっては部外者の人間。そして、私の立場からしたらこの世界への認識はゲーム世界。だからこそ、こんな馬鹿げたような提案も受け入れられる立場にいる。


 もし提案に乗ることが帰るための近道だったら? だからって――この提案に乗りたいと思えない。


 少しだけ迷ってる自分がいる。


「カゲトは……どう思う?」


「わたくしはお嬢様の選んだ道を尊重し――」


「違う。カゲトならどうするか聞いてるの。」


「私なら当然、お誘いはお断りしますね。」


「良かった。だよね――。」


 少しホッとしている自分がいた。

 少し肩の力を抜いて「さっきの件だけど……」と言葉を届ける。


 そして、


「お断りするわ!」と力強く言い切る。


「後悔するかも知れませんよ。本当に断ります? 二度と同じ条件は出さないけど?」

「えぇ、断る。」


 その瞬間、空気が変わった。

 さっきまでの“会話”が、全部“敵対”に塗り替わる。


「交渉……決裂だね。」


 張り詰めた息。緊張が走る。


「カナリンさん。お嬢様を頼みました。」


【刀】――【変形】

 

 刀が召喚される。一方で、敵は刀を蛇行(だこう)(けん)へと変えた。


「忍法【影分身の術】」


 五人へと分身したカゲトはそれぞれ一人ずつを抑えに行く。

 が、一人は斧で斬られ、一人は手槍で突き刺され、一人は不思議なオーラに包まれ、一人はゴリラのスイングパンチを受けて、その分身が消滅した。


 カゲトとヘイムが刀を交わせる。

 鉄の音が全く聞こえない。


 ヘイムの刀がぐにゃっと曲がり、曲がった先がカゲトを襲う。体を反ることで攻撃を避けていた。

 ぐにゃぐにゃと曲がる刀は相手の刀を受け止めるのに、自身の刃は受け止めた位置以外が変形するため、攻撃が長く届く。さらに、動きを読みづらい。


「忍術のカゲト……。ご自慢の忍術は使わないのかな?」

「"返却(へんきゃく)"で跳ね返されることを分かっていて、わざわざ技を放つ馬鹿がどこにいる?」


「火遁【火炎】烈火――。」


 火をまとう一振を避けて、一時的に距離を置いていた。


「逆に聞くが、暗殺(・・)のヘイム。ご自慢の暗殺はどうしたんだ?」

「変装からの辻斬(つじき)りがメインなのに、それができないこと分かってて聞くんだ。意地悪だね。」


「ええ。すみませんね。意地悪で。」


「意地悪が過ぎると嫌われるよ。」


変速(へんそく)――】


 彼の動きが一段と速くなった。急接近して刀を上側へと振るう。その攻撃は後ろに移動することで避けた。


 そのまま手から刀が離されて(くう)を切りながら回転していく。


 床に落ちて突き刺さる。


「【魔法陣(まほうじん)】・召喚」

「【転移(てんい)】――。」


 いつの間にか魔法陣が私やカゲト達の足元に存在していた。その中には突き刺さった刀もある。


「【ヘヴィー!】――。これで君達は動けない。」


 体が凄く重い。肺が押し潰されるみたいに息が苦しい。指一本、動かせない。カゲトもまた動けないのが見てわかる。


 

「もう一度確認しようか。ボク達のアンチギルドに入る気はないかい? もちろん、断ればどうなるかなんて一目瞭然だけど……。」


 絶望的な状況がそこにはあった。

 死と隣り合わせの状況で、選択を迫られる。


「あんたさ……死にたくなければ仲間になれって言われて、心から仲間になれると思う? まっ、口先だけでいいんなら、言ってあげるけど?」


「そりゃ残念。口先の奴はいらないもんね。」


 あまりの重量に立ち上がれずに床に這いつくばっている私達を見下ろすように見てくる。そこに幹部四人もやって来た。


「今日は珍しくアンチギルドの重役全員が揃った日だったから、この交渉も成立するんだと思い込んでたけど、違ったみたいだ。本当は新たな仲間を(さかな)にして乾杯しようと思っていたけど仕方がないね、代わりに君達の死を酒のつまみにするとしよう。」


 五人の姿がもうそこまで来ていた。


 ザッ――。


 天井が綺麗に割れて落下する。そこから太陽の日差しが射し込んできた。


 屋上から誰かがここに降りてきた。その場に落ちていた瓦礫を、軽く踏み砕いた。

 その人は腰に刀をさしていた。反対側の腰には団子袋がぶら下がっていた


桃太郎(ももたろう)将軍(しょうぐん)、たでーま参上っ。こっから先はワシが相手をしよう。」


 雰囲気(ふんいき)で、すぐに助っ人だと分かった。



「これ以上は野暮ですね。ここは一旦引き上げましょう。」


 喜びの仮面をつけた子が「えーっ、僕は全然やれるよ」と楽しそうに言い放つ。

 

「彼が来たと言うことは、順を追って主忍(しゅにん)達も来るでしょう。今は彼らとの全面戦争を望んでいない。ここは賢明(けんめい)退避(たいひ)しかないんですよ。」


 今度は私達の方を向いて「またどこかでお会いしましょう」と笑顔で言い放っていた。


 あまり納得が言ってなさそうな喜びの仮面と怒りの仮面。それでも……「はぁーい」と文句ありげな言い方をしてから、


【魔法陣・召喚】――【テレポート】


 二人の技が発動された。

 彼ら五人の姿はそこからパッと消えてしまった。


「逃げられたか。こっから先はわしら主忍が引き受けよう。疲れたじゃろう。今君達に必要なこたぁゆっくりと休むこと……。じゃけぇこそ――」


 どこか独特な言い方。しかし、その言葉には善意がこもっているのが分かった。

 とりあえず、自分達が後始末をする、私達に疲れを取るために休むことを進めてることがしっかりと聞き取れた。


「いんどかれー!」


 インドカレー!?


 どういうこと?

「彼の言葉で『帰っておきなさい』という意味らしいです。」


 その補足を聞いて、意味を無理やり飲み込んだ。


「ひとまずここから先は彼にお任せしましょう。彼は私が知る中で最も探知(たんち)探索(たんさく)を得意とするお方です。彼は複数のペット――」「ペットじゃねぇ、家来じゃ!」「――家来を用いて、嗅覚(きゅうかく)探知、張り込み、飛行探索を同時に行うことができますから。」


 その場は痛ましい残骸だけが残されていた。

 カゲト特権で泊まれるホテルへと向かうことにした。


「せっかく出会うたんじゃ。お近づきの印に桃をそ。」


【桃】きびだんご……ではなく、つるんとした桃を手渡された。


 ……桃?


「互いに無事でいよう。」


 私達は彼を残してその場を後にした。

 (きじ)の鳴き声が聞こえたような気がした。



 ホテルまでの道中。



「私も久々に熱くなってしまいましたね。」


「そう言えば、カゲトとあのヘイムって男とはどんな関係なの?」


 彼の顔は偶然、太陽の光と重なってよく見えなくなっていた。


「同じ師の元で修行をした友であり、友を殺した最も憎い敵でございますね。」


 その言葉は少し淡々としていたような気がした。

 裏道を出ると、午前中に入店した店の前に出た。人混みが相変わらずの活気を放っていた。

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