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めいど・いん・みっしょん  作者: 阿月 結希


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22/26

♥22 みっしょん・いん・ちょこれ~と

 阿良々木《あららぎ》 愛彩《めい》は獅子堂《ししどう》 彰《あきら》に手を引かれてコンテナの間を駆けている。


 「くそっ。また行き止まりかよ」


 そこら中に積まれたコンテナは、規則正しく並べられているわけではないため、愛彩たちはこうした行き止まりやUターンを繰り返していた。


 「先輩、いそいで引き返さないと」


 「あぁ。そうだな。さっきのところを右に曲がろう……」


 先ほどよりも銃声や怒号が近い。


 はじまりの倉庫から徐々に戦闘の場所が、外側に移動してきているのかもしれない。


 (見つかったら、ヤバい……よね。絶対)


 愛彩の不安は手の震えとして表れていたらしい。


 愛彩は自身の左手を包む力が、少し強くなったことを感じ取る。

 

 前を向いて走る獅子堂の背中を、愛彩は見つめる。


 彼の無言の優しさが、愛彩には心地よかった。


 ここからは見えないが、数個先のコンテナの向こうで、誰かが戦ってくれているらしいことを感じ取る。


 逃げているだけの自分。


 守られているだけの自分。


 この状況に置かれてから、その無力感を幾度となく感じていた。


 その弱気を、目の前を走る人は晴らしてくれる。


 (この時間がもう少し……)


 不謹慎かもしれない。


 空気が読めた発言ではないのかもしれない。

 

 しかし、愛彩は小さく、静かに、そう願った。


 ダンッ。


 不意に、獅子堂の体が左へ流れる。


 手をつないだ愛彩もそれにつられて側面のコンテナにぶつかった。


 「んん~? オイオイ、本命が向こうから転がってきてんじゃねぇか! へへ、ラッキー!」


 あぁ。何てことを自分は考えていたんだろう。


 愛彩の後悔はきっと顔に出ていたと思う。


 彼に見られなくてよかった。


 獅子堂は、愛彩を庇うようにヘラヘラと笑う男と対峙する。


 「てめぇ。こいつに触ったら、殺すぞ」


 「オー! よく聞こえませんでしたぁ。ユーが私をコロスと? まさか、そう言いましたかぁ?」


 相変わらず、口調は軽薄だったが、男の目の奥は暗く濁っている。


 獅子堂は、こぶしを顔の高さまで上げ、構える。


 「――愛彩」


 獅子堂が背中越しで愛彩に語り掛ける。


 「俺が時間を稼ぐから、お前ひとりで逃げろ」


 ――待ってほしい。


 愛彩がその言葉を出す前に、獅子堂は男に向かってとびかかった。


 その腰に腕を回し、抱き着くような姿勢で男の動きを封じる。


 「むぅ。煩いガキだ。さっさと話しやがれ」


 「愛彩! 早く行け! こいつ倒して追いかけるから!」


 ――嘘だ。


 体格が違う。

 

 筋力違う。


 身長も違う。


 多分、暴力の経験も……。


 目の前の現実と予想される未来に、愛彩は泣きそうになる。


 しかし、涙は流さない。


 「はい! 先輩……お気を付けて!」


 情けない、と愛彩自身が一番よくわかっていた。


 でも、ここで自分にできることは何もないのだ。

 

 自分がいることが、今は獅子堂の足枷なのだ。


 そう、理解してしまったから、愛彩は現実からも未来からも目を背けた。


 足がもつれそうになりながらも、懸命に走る。


 堪えていた涙があふれてきても、その足は止めない。


 隠れることを忘れ、闇雲に走っていた愛彩を、たくさんの敵がマークする。


 彼女は、その事態に気づかない。


 ただ、彼女は叫んだ――力いっぱい、叫んだ。


 「來夢《らいむ》! エイザ ! ――先輩を、助けて!」


 ♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥


 夜風に吹きっ晒しになる船上は、春先のこの時期、とても寒く、侘しく見えるものだ。


 敵傭兵のジェームズに変装した小伏《こふく》 天音《あまね》は、敵が根城にしているらしい船に潜入している。


 カンカンカン、と甲高い鉄の音を小さく立てながら、彼女はマストの下へと続く梯子を上っていた。


 「ん? なんだ、ジェームズか。どうしたんだい?」


 自分たちが対峙している傭兵たちのリーダー。


 彼女は、ゆっくりとタバコの煙を吐きながら、天音に尋ねる。


 「いや。ちょっと夜風に当たりたくって。すみません、いらっしゃるとは……」


 「何を言ってるんだい。ここはいつも私の特等席じゃないか。まさか、知らなかったのかい?」


 「いや、すんませんリーダー。酒が入ってるんでそこまで気が回らず……」


 ふーん、と言いながら、女は煙草の吸殻を床に擦りつける。


 「……で?」


 「……で、とは?」


 「あはは。とぼけないでよ」

 

 月明かりに、女の表情が照らし出される。


 眼鏡をかけ、やせた風体に黒く濁った眼。


 ボサボサに伸びきった赤毛を無理やり一つに束ねている。


 到底、戦闘要員には数えられない彼女の細腕。


 しかし、天音は目の前の女に言いしれぬ狂気を感じ取った。


 「とぼけるとは、何のことでしょう、リーダー」

 

 「ほら、それ」


 からかうように、女は天音を指さして薄く笑う。


 「私が聞きたいのは、あなたがここに来た本当の目的」


 ――それと、と女の顔に一層深い闇が刻まれる。


 天音の背に、悪寒が走った。


 「ジェームズに変装しているあなたは誰なのか、ってこと」

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