♥21 みっしょん・いん・ちょこれ~と
「獅子堂先輩。大丈夫ですかっ!?」
激しく息を切らして立ち止まる獅子堂 彰を、阿良々木 愛彩は心配そうに見つめる。
「はぁはぁ……。悪ぃ、ちょっと疲れた。離れるなよ、愛彩」
「は、はい。ここに居ます……。けど、これからどうしたら……」
銃声と崩落の音が遠くから聞こえる。
稲光のような青白い光が断続的に輝くのが見える。
恐怖と不安に震える愛彩の手が、温かな感覚に包まれた。
「大丈夫だ、愛彩。心配すんな!」
汗だくで、いくつかの掠り傷もついている顔一杯の笑顔が、愛彩の目に映り込む。
「……先輩って、歯、すごく白いんですね」
「おう! 何せ、ウチで独自に配合しているスペシャル歯磨き粉を使っているからな!」
「ふふ。それ、無事に帰れたら見せてください。パパに紹介してウチでも売りたいです」
「バカ言え。まだ特許も申請中だ。阿良々木には渡せねぇよ」
「えー。ケチぃ~」
そんな軽口を叩きあいながら、獅子堂と愛彩は激戦地から遠ざかる道を模索しながら進む。
その手は、二人が意識するまでもなく自然と固く結ばれていた。
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鉄でできた甲板の上を小伏 天音は堂々と歩く。
溶接にガタが来ているのか、歩くたびに足元の合金が沈み、大きな音を立てた。
(まぁ、侵入者を発見するには都合がよいのでしょうけど……)
歩きづらい、と内心で天音は口をとがらせる。
「ヘイ、ジェームズ。あのガキどもはどうなってるよ?」
「あぁ。手間取ってる見てぇだが、まぁ、時間の問題だろうよ」
突然振られた会話を、天音はごく自然に投げ返した。
コンテナに引きずり込んだ男の名は、ジェームズ・コーナー。
その男の姿を借りて、天音は敵が根城とする船に乗り込んでいた。
「ん? お前、少し声変じゃないか?」
「そうか? まぁ、最近は冷えるし、酒もちょっと……な」
「お前、仕事中に飲んでんのかよ。リーダーにまたどやされるぜ?」
リーダー、という言葉に、天音はピクリと(表情には一切出さずに)反応する。
「そりゃあ、いけねぇ。今会うのはマズいな。リーダーはどこにいる?」
「あー? そんなん決まってんだろ。いつもんとこだよ、どうせ。一人で風に当たるのが好きな人だからな」
「あー、いつものところか」
そう言って、天音は少しの間沈黙した。
「ん? おいジェームズ、どうし――」
「ありがとよ、マストの下には近づかないどくわ」
「あ、あぁ。それがいいぜ。リーダー、きっと怒るだろうからよ」
天音は至極自然な足取りでその男と会話した場所を離れる。
ザザーー「こちら天音。さっきはありがとう、唯優」
ザザーー「――問題ない。――サーモスキャンで単一の反応があった場所を、――伝えただけ」
ザザーー「それが重要なのよ。またサポートよろしくね」
短い会話の後、天音は歩を進める。
マストの下。
この組織のリーダーの下へ。
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「どっせーーーい!!」
掛け声とともに振り下ろされた2メートルほどの材木が男の顔面を強打し、地面にたたきつけた。
平利 エイザはその材木を軽々と捌きながら次々と男たちを伸していく。
「ほらほら~! もっともっとかかってこい、デス」
方々から放たれる電撃を躱し、大立ち回りを繰り広げるエイザの視界の端に、見知った影が映った。
(――! あれは!)
一瞬、エイザの動きが鈍る。
電気銃の一撃が、彼女の左腕を僅かに掠めた。
「うぁ!」
激痛ではない。
だが、一瞬で力が入らなくなった左手から材木が滑り落ちる。
(――くそっ! どうする)
左腕のダメージはどうでもいい。
あの銃さえなければ、もともと右手一本で制圧できる自信がある。
しかし、視界に写ったあの影――獅子堂と愛彩への対応にエイザは逡巡していた。
(私の役割は、敵戦力を減らしつつの陽動。天音と唯優が動けるように、そして――、)
ブンッと、エイザは足元の材木を今まさに電気銃を向ける男へ投擲する。
材木み突き飛ばされ、その男は後方のコンテナに激突して止まった。
(――そして、お嬢様たちの退路を切り開くために!)
それが、どうしてこんな近くに彼らがいるのか。
作戦のルートからは外れていない。
イレギュラーがあったのは、愛彩たちの方であることは明らか。
エイザは、自分に向かってくる五人の男たちを見る。
(どうする。こいつらを引き連れてここを離れるか、それとも――)
エイザは、イヤな胸騒ぎを感じ取る。
(ここを離れてはいけない。いや、むしろ――)
青白い光が、エイザの視界を包む。
その光は、彼女の思考を両断した。




