♥19 みっしょん・いん・ちょこれ~と
「おい! 大丈夫かよお前ら」
獅子堂 彰が崩壊した倉庫の入り口から飛び込んできた。
「え? 獅子堂先輩……。どうして?」
阿良々木 愛彩は目を見開きながら声を上げる。
「どうしてって、お前が攫われたから追ってきたんだよ。まぁ、助けたのはそっちのメイドさんたちだけど」
「いえ――」
獅子堂の言葉を、平利 エイザは短く否定する。
「獅子堂様があの場で私を諫めていただいていなければ、私は単独でこちらに乗り込んでいたことでしょう。お嬢様の身に危害が及ぶ可能性が高かったと思います」
そこまで言うと、エイザは直立の姿勢のまま、深々と頭を下げた。
社交挨拶としてではない。
「獅子堂様、本当にありがとうございました。あなたのおかげで、お嬢様は今、こうしておられます」
それは、エイザという一人の人間として、獅子堂に向けられた謝辞と謝罪の表れであった。
「いや、だから俺は何も……」
「――! みんな、伏せろ!」
戦場 來夢が、叫ぶ。
エイザは愛彩に覆いかぶさるように倒れ込み、來夢は獅子堂を抱えて瓦礫の後ろへと身を隠した。
先ほどまで彼女たちがいた場所を、数本の青白い光が通過する。
バチッと剥き出しの鉄筋が突如として帯電し、それに触れていた小伏 天音は急いでその手を引く。
「痛っ! 何なの、あれ」
「――おそらく、最近発表された――新型兵器。――高電圧の塊を飛ばすタイプ」
佐繰 唯優の頓狂な発言に、一同は半信半疑に顔を見合わせる。
「はっはぁー! 見たかよ。僕たちの新型兵器の威力! 観念して出てきたらどうだぁ!? 全員まとめて黒焦げにしてやるぜぇ」
愛彩たちが身を隠す瓦礫の向こうで、酒々井 幸一は興奮気味に叫んだ。
「どうやら、答え合わせは済んだようだが……。どうするよ、メイドさ……ん……」
言いながら振り向く獅子堂の語尾が、か細く消える。
彼の目の前には、殺気をみなぎらせる獅子が四体。
「ほう。お嬢様を黒焦げに……ですか」
「うふふ。これはこれは……」
「マジで、あいつもう一回ぶん殴ってやるデス」
「――死刑」
メイドたちに気圧される獅子堂が視線をずらす。
その線は同じく小刻みに震える愛彩と重なった。
パンパンパン!
突然響いた音の正体は、來夢が手を叩いた音。
瞬間、四人のメイドらは激しくアイコンタクトを走らせる。
――手拍子三回は、「作戦立案、実行の合図」
広い倉庫内に広がった手拍子の残響が消えるよりも早く。
彼女たちは意図を理解し、行動に移した。
「獅子堂様。どうやら敵は危険な武器を装備しているようです」
「あ、あぁ。そうだな」
急に來夢から話しかけられた獅子堂は、何とか薄い返事を返す。
「――私たち、――対応で精一杯」
「でも、お嬢様も守らないといけなくってぇ」
「獅子堂さま、ここはひとつ、お力をお貸し願いたいデス」
メイドたちは矢継ぎ早に言葉をつなぎ、最速で話を結論へ持っていく。
「「「「お嬢様を、どうかよろしくお願いしますっ!!!!」」」」
ブンッ、と。
先ほどの青白い光が再び放たれる。
「お嬢様! 失礼いたします」
「へ? え? きゃっ!」
來夢は愛彩の体を抱き起すと、獅子堂の下へ軽く背中を押した。
咄嗟に、獅子堂は愛彩の体をその胸に収める。
「獅子堂様! ――走って!」
「お、おう! 任せとけ。お前らも気ぃつけろよな」
來夢の有無を言わさぬ号令に、獅子堂は腹を括る。
愛彩の手を握り、倉庫から全力で外に出た。
「ちっ! 逃げやがった。おい、外の奴らにも連絡しろ。必ず、阿良々木 愛彩を僕の下に連れて来いと」
「生死は?」
「アライブ オンリーだよバカ!」
狼狽する酒々井の言葉を背景に、來夢は静かに告げる。
「さて――。それでは、オシオキを始めましょう」
きらり、と。
八つの眼光が炎を宿すように美しく輝いた。




