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めいど・いん・みっしょん  作者: 阿月 結希


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18/26

♥18 みっしょん・いん・ちょこれ~と

――海鳴りが聞こえる。


 校庭の柔らかな土の感触とは違う、無機質なコンクリートの感触が足裏から突き上げてくる。


 手足は拘束されていない。


 しかし、私はほとんど無抵抗のままこの場所までやってきた。


 ――この人たちは、誰?


 椅子に座る自分の周りを囲うように、屈強な男が3人。


 暴力を振るおうともせず、静かにたたずんでいた。


 その手に持つ銃器さえなければ、もう少し安心できたのに、と呑気に考える。


 不意に、重く閉じていた目の前の扉が開く。


 錆びた鉄が擦れる、独特の金切り音が響いた。


 ――どうして……。


 学園から連れ出されてからここまで、何度も浮かんできた言葉。


 「愛彩《めい》さん。気分はどう?」


 扉の向こうから入ってきた男は、人懐っこい笑顔を貼り付けながら問いかける。


 「……どうして、こんなことをするんですか?」


 私は精一杯、気丈にふるまった、つもりだ。


 「どうして、か。まぁ、そうだよね。そう思うよね」


 細く畳まれていた双眸が、少し開く。


 彼は、私の目を見た。


 「君と僕が、許嫁になるため、だよ」


 彼が何を言っているのか、分からなかった。


 コロン、と私のポケットに入れていたものが落ち、彼の足元に転がっていく。


 「ん? これはこれは、可愛らしいチョコレートだね。手作りかな」

 

 彼はそれを拾い上げて、青いリボンをするりと解き、中のチョコレートを口へ運んだ。


 ――バレンタインに合わせて、私がメイドのみんなと作ったチョコレート。


 「うん。美味しいね、これ」

 

 酒々井《しすい》 幸一《こういち》は、そう言ってまた、笑った。


 ♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥


 「……あいつ、大丈夫なんだろうな」


 獅子堂《ししどう》 彰《あきら》は、数多く並ぶコンテナの一つによじ登り、愛彩が連れ込まれた倉庫の入り口を凝視する。


 コンテナの下には、ボロボロになったロードバイクが役目を終えたように転がっていた。


 獅子堂は、端末を操作し、エイザに渡した携帯へ電話をする。


 「はい。こちらエイザ。獅子堂様、今――」


 「おう、メイサ……じゃねぇか。えーっと、今、大黒埠頭にいる。第三倉庫ってところに、愛彩は連れてかれた」


 「……」


 「それで、とりあえず入り口見張ってる感じなんだけど……って、おい。聞いてんの?」


 「はい。確認しました」


 「ん? 確認って――」


 唐突に、獅子堂の周りを強烈な光と風が包む。

 

 ヒュンヒュン、と高い静穏性を感じさせるヘリの風切り音が獅子堂の耳をついた。

 

 獅子堂は振り返り、頭上を見上げる。

 

 運転席の窓越しに、平利《ひょうり》 エイザが恭しく頭を下げていた。

 

 端末越しに、エイザの声が届く。

 

 「獅子堂様、お手間を取らせてしまい、申し訳ございませんでした。それと――『今、到着いたしました』」


 獅子堂の口から、乾いた笑いが漏れる。


 「……マジかよ」


 獅子堂は倉庫へ近づくヘリの行く末を追う。


 彼の視線の先。


 ヘリは第三倉庫の入り口へ、勢いそのままに突っ込んでいった。


 ♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥


 大量の粉塵が、倉庫内に充満する。


 倉庫内の人間が理解するより早く、飛ばされたのは二つの人影と三発の弾丸だった。


 平利 エイザは突然の衝撃に蹲る酒々井の腹部を力いっぱい蹴り上げる。


 「っぐふぁ」


 十メートル近く吹き飛んだ酒々井のうめき声と、愛彩の周りにいた三人の男のうめき声が重なる。


 粉塵で視界が遮られる中、正確無比な軌跡を描く弾丸は、銃器を持つ男たちの腕を貫いた。


 一瞬の間隙を縫うように、小伏《こふく》 天音《あまね》が素早く愛彩を抱え込み、銃口を構える戦場《いくさば》 來夢《らいむ》の下へと帰還する。


 目まぐるしく変わる視点と視界にのせいで固まった愛彩を天音は優しく下ろす。


 愛彩の視界に写るのは、いつもの服装の、見慣れた四人のメイドたち。


 彼女たちは一様に、優雅にスカートの裾を持ち上げ、恭しく首を垂れる。


 「お嬢様。お迎えに上がりました」


 「……あ、はい」


 処理落ちした愛彩は、情けなく、かろうじて応えた。

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