Episode2:それぞれの想い
2388年6月27日(月) 6:45 P.M. オレイオス魔法学校 第4学寮・223号室
「着替えに歯ブラシ――地上じゃ手に入らない薬や道具、魔導書も入れた。これで十分かな。」
魔法学校の自室に戻った光は、地上に持っていくものを選別してリュックサックに詰め込み終え、今から再びアネモニア城に向かおうとしているところであった。
光の持参品には、購買部で売っている特殊な軟膏や飲み薬、フィリアによるお手製の魔除けやトラップなど、《ヘスペリディア》でしか入手できないものが多い。いずれも地上では入手や製造が不可能、ないし困難なものばかりだ。あとは替えの下着や衣服、歯磨きセット、ティッシュやハンカチといったまるで修学旅行のようなラインナップである。
「旅行じゃない。もしかしたら、帰って来れなくなる可能性だってある――かもなんだよね。」
光は机の上に書き残した一通の置手紙に目をやる。
これは光の遺書だ。万が一自分が死んだ時のために、フェルタやエルクたちに宛てて自分の"願い"を書き記したものである。
――もっとも、自分が本当に"死ぬ"ことがあるのかどうか、光にはまだ分からないのだが。
「フェルタさんやラーギブから聴いた話では、僕は一度生き返ったことがあるらしいけど、過信は禁物だ。生き返りにルールや条件があって、それがまだ判明しない限りは、この習慣を継続しよう。」
光はリュックを背負い、《撃出の大鎚》を杖のように持って歩きながら、223号室の鍵を閉めて行った。
2388年6月27日(月) 6:50 P.M. オレイオス魔法学校 正面玄関
「――よっ!ハニー!」
光が正面玄関ホールに出ると、地上へと旅立つ彼を見送るために、ヴェステ・ケルネ・フィリア・テルクシアの4人が正面玄関で待ち構えていた。この1ヶ月間毎日のように出会ってきた4人だが、今日から暫くの間、彼らとはお別れすることになる。
「みんな揃って……見送りに来てくれたのかい?」
「うん。もちづき、しばらく、あうできない。だからケルネたち、おわかれ、いうしにくるした。」
「地上のおみやげ、期待して待ってるし☆」
フィリアは満面の笑みでそんなことを言い放つ。状況は知っているはずなのだが、と光は呆れながら反論を返す。
「フィリア……僕が地上に行く理由は、観光旅行じゃないんだぞ?」
「わかってるし!それくらい!ひかりんにはゼッタイ、またここに戻ってきてほしいって思って言ったんだし!」
「そうですよ望月光君。《ヘスペリディア》魔法騎士団の命令なので仕方ないですけど、任務が終わったら、望月光君とまた一緒に授業を受けたいと、テルクシア・カンティオス・シレーナもそう願っているのですよ。
ですから……絶対に――絶対に死んだりしたら、ダメですよ……望月……光君……!」
「テルクシア?」
突然俯いて顔を隠したテルクシアから、大粒の涙が零れ落ちていくのが光の眼に映った。
その涙の量からして、ただ別れが悲しくて泣いているようではないことはすぐに分かった。
「すみません……ぐすっ……ご両親のことを……思い出してしまい……」
「両親?」
「言ってなかったっけか。」
泣き止まないテルクシアの代わりに、ヴェステが彼女の泣く理由を話す。
「テルクシアはな、親父さんを戦争で亡くしてるんだよ。《エデン大戦》で志願兵として騎士団に従軍して、戦地で"地雷"ってのに触れて爆死したって聞いている。テルクシアとの再会もできないままに――。そんでテルクシアの母さんも、避難の途中ではぐれたきり、行方が分からないままなんだそうだ……。」
「そうだったんだ――。」
「テルクシアだけじゃねぇ。《へスペリディア》で暮らしてる奴の大半は、《エデン大戦》で家族を失ったり、行方不明の家族の消息を探したりしてる。俺の母さんと姉さんも行方不明だし、フィリアの家族も全員散り散りになっちまってる。ケルネに至っては騎士団にいる姉ちゃん以外、家族全員殺されてる――。」
「知らなかった……。」
光にとってそれは初耳だった。興味がなかった訳では勿論なく、デリケートな部分だと思ってあえて聞かなかったからだ。光自身、父親が遠い場所に行ったきり音信不通であるという境遇にあるため、「家族」に関する話題は自他ともにしないよう避けて生きてきたのだ。
「この魔法学校に通ってる皆の目標は、だいたい同じだ。『残された家族や仲間をUGEから護りたい』――その一心で、皆日々の勉強や訓練を頑張っている。俺たちもそうだし、ハニーもそうであるはずだ。
そしてできるなら、地上に残した家族や仲間の行方を捜して、生きてるならすぐにでも逢いに行って、温かく迎えてやりたい……。今は地上部隊の人らに任せっきりだけど、いずれは俺たちも……!」
ヴェステが強く拳を握ると、フィリアとケルネが深く頷いた。少し遅れて、漸く泣き止んだテルクシアもうんうんと小刻みに首を縦に振って答える。
「だからハニー……。良かったらでいい。まだ地上に行けねぇ俺たちの代わりに……俺たちの家族を探してきてくれないか……?骨になってたとしてもいい。着てた服の切れ端みたいなモンでもいい。どんな姿でもいいから……ここに連れてきてくれねぇかな……?」
振り絞った声でその"願い"を唱えた時、ヴェステは堪えていた涙を床に垂らした。
大切な人を失った痛み。会いたい人に会えない苦しみ。
今の光には、それが十分すぎる程に理解できた。
「分かった。任務もあるけど、同時に皆の家族の足取りとか探してみるよ。」
光は手袋を外した左手で、ヴェステの手を握った。
互いの手が触れ合った時、光の《希望の痣》が青く、強く輝いた。
その輝きを見たヴェステは、深く頭を下げて。
「――頼んだ。」
震える声で、そう光を送り出した。
2388年6月27日(月) 8:00 P.M. アネモニア城・第一訓練場
その夜。集合時刻となり、フェルティオス遊撃団の面々は再びアネモニア城の第一訓練場に集結する。
それぞれが一週間分程度の着替えや、砥石・銃の弾丸の予備・PC等、各々が必要な道具を鞄に詰め込み持参してきている。彼らの他にフェルタやヴィシュヴァカルマン、《へスペリディア》魔法騎士団の兵士たちが彼らを見送るために集まってきてくれている。
オレイエは一人ひとりの顔を指差し、遊撃団メンバー17名全員の集結が完了していることを改めて確認する。そして定刻通り、モードス=ハロモグへの出征式が執り行われる。
「――よし、全員揃ったな。
では此れより!我々は第19居住区・モードス=ハロモグへと向かう!
初めて地上に下りる者も居るので簡単に説明して置くと、モードス=ハロモグへの移動は、《旅の隧道》と言う《魔法》で行う。前に諸君達の高校から《へスペリディア》に逃げる時に使ったのと同じ物だ。
一つ違う点を挙げるとするなら、以前皇女が使った物は緊急用の簡易的な物で、到着地点の設定のブレが大きくなってしまう物であったが、今回は発着点其々で同じ《魔法陣》を用意する事で、同じ《魔法陣》のある2地点間を確実に移動できるようになっている。その上移動時間も短く、何より落下しない。到着地点であるモードス=ハロモグ側では、既に地上に居る我々の仲間が《魔法陣》を用意して我々の到着を待っている事だろう。」
「団長。《魔法陣》の用意完了しました。」
「ご苦労。」
オレイエの解説の合間に、兵士たちの手により大きな木綿の一枚布が、純白の城壁の上に張り出される。その布にでかでかと描かれた複雑な図形は、《旅の隧道》の《魔法陣》である。
オレイエは早速その《魔法陣》に手を翳し、《旅の隧道》発動の呪文を唱える。
「Desie teskios 《taksidie》, Mio odige via het 《Modos Harromog》.――(訳:《旅》を司る神よ、《モードス=ハロモグ》への道を示せ。)」
〔ブォォォォン……〕
南星宮で光たちが見た時と同じ、先の見えない暗闇が続く横穴が、《魔法陣》の中心から展開して最外縁まで拡大する。今回は壁に《魔法陣》があるためか、暗闇の底には歩けそうな固い地面があるように見える。
「此れで道は拓かれた。此処を潜ればモードス=ハロモグへと行ける。」
オレイエは地面に突き刺していた愛用の斧を掴み、えんや、と肩に担ぐ。出発の合図だ。
「――皇女。行って参ります。」
「お気を付けて、皆様。地上は今やどこで闘争が起こるか判らぬ程の緊迫した状況にあります。皆様が誰一人欠けることなく、此処に戻ってくることを、願います。」
フェルタの言葉を頂戴したオレイエは、一度跪いて深い敬意を彼女に払い、そして再び立ち上がる。
「では参ろう!!戦乱渦巻くモードス=ハロモグに巣食う、"《塩》の殺人鬼"を確保する為に!!」
かくして、オレイエ率いるフェルティオス遊撃団の面々は、城壁に作られたモードス=ハロモグへ繋がる横穴の中へと入っていった。
光が入口側の穴を振り向くと、フェルタが大きく手を振っているのが見えた。
「光様ぁ〜〜!!ご活躍、期待しております〜〜〜〜!!!!」
ぶんぶんと手を振り続けるフェルタの他にも、彼女の隣で微笑むヴィシュヴァカルマンの姿や、両手を挙げたままじっとこちらを見つめるベルガ校長の姿もあった。全員、遊撃団の活躍と無事を祈っているようであった。
その期待に応えるべく、光も彼女たちに向けて手を振り返す。入口側の穴が閉じられ、その姿が見えなくなるまで、ずっと振り続けた。
2388年6月27日(月) 8:04 P.M. 《旅の隧道》内部
「――光くん、すごい期待されてるね。」
そう声をかけたのはテレシアだった。気付けば2人を除いた他の団員は、穴のずっと奥の方を進んでいた。テレシアは遅れている光を気にかけ、待ってくれていたのだ。
「ああ、ごめん。待たせちゃったね。」
光は急いでテレシアの方に駆け寄る。《撃出の大鎚》を担いでいる上に背中のリュックサックもかなりの容量を入れたため、体調は良いのだが足取りは重い。
「大丈夫。わたしは気にしてないから。さ、行こっ。」
テレシアは淡い水色の小さなキャリーケースを引いて、光を先導する。彼女の背中に貼り付いた茶色いブリーフケースを追い越して、光は彼女の隣についていく。
穴の中は一本道で、暗闇以外の視界や行く手を遮る物は何もない。真っ直ぐ伸びた道の先には先行しているオレイエたちの姿と、そのさらに向こうに出口と思しき輝きが見える。
2人はオレイエたちよりもずっと後ろを歩いている。この空間内には距離の目安になるようなものがないので、どれ位離れているかを計ることはできないが、恐らく10mも離れてはいないだろうと光は推測する。
前の集団は、何やら賑やかにお喋りを楽しんでいる。主に聞こえてくるのはエルクと福希と市姫の声。また市姫が過去にやらかしたトラブルについてあーだこーだ愚痴をこぼしたり言い訳したりしているようだ。時折オレイエなどのレリギオス団員の話し声も聞こえるが、アリティア語の会話が多く、内容は殆ど判らない。
そんな楽しげな光景を見たからだ。光もテレシアと何か会話をしようと思ったのは。思えば約1ヶ月間、同じクラスだった友人たちと光が会話した回数は、片手で数えるくらいしかない。光は先程の結成式で思ったことを質問してみようと、彼女に――
「あのさ――」「あのっ!!」
光が声を掛けた瞬間、同時に光はテレシアから声を掛けられた。どうやら考えていたことは一緒だったらしい。
「ああ、ごめん!」
「ううん!こっちこそ……!さ、先どうぞ…!」
「いいよいいよ、テレシア先に言いなよ。」
「そ、そう……?じゃあ――」
譲り合いのラリーは割と早く終わり、光はまずテレシアに話を譲ることにした。
テレシアが聞いてきたのは、光とフェルタとの関係だった。
「光くん、フェルタさんと仲良いんだね……。」
「まぁね。割と会う機会も多いし。主に向こうからわざわざ来てくれる方が多いから、申し訳ないなぁと思うけど。」
「そうなんだ――」
それを聞いたテレシアは、何かを確かめるように一拍沈黙を置いた。
その直後、彼女は思い切ってこう質問した。
「あのっ!――フェルタさんと"結婚"するってホント?」
「はぁっ!?!?」
思いもよらない質問に、光は素っ頓狂な声を出して慌てふためく。
「どっ……どどどうしてそんな噂を――!?」
「たまにフェルタさんが言ってるんだもん。光くんのことを『旦那様』――って。」
「あ……ああ、そうか……。」
光は頭を少し抱えた。まさかテレシアの耳にもその噂が届いていたとは思わなかったからだ。さてなんと返答しようかと、光は考えあぐねる。
「えっと、実際のとこ、どうなの……かな?」
テレシアはそわそわして光の返答を待っていた。いつの世も恋バナが女性たちの胸をときめかせるものであることを、光はこの日初めて学習した。
そして光は、言葉を選びながら、その噂に対する悩みをテレシアに打ち明ける。
「……確かに、フェルタさんから結婚のアプローチを受けていることは事実だよ。けど、まだ承諾はしてないよ。」
「そうなの?」テレシアは意外そうなリアクションをした。
「うん……。だって身分が違いすぎるし、フェルタさんのこととか、レリギオスの文化とか?――まだ知らないことだらけだし――するにしても早すぎるかなって。」
「ふぅん……そうなんだ。」
納得したのか、テレシアはそれ以上その理由を深掘りすることはなかった。だが――
「でも、フェルタさんのことは好きなんだよね?」
「えっ――?」
テレシアは、まるで光の心を見透かしたような言葉を放った。
「――どうしてそう思うの?」
「だって、光くんの性格的に、好きでもないならキッパリ結婚の申し出を断るはずなのに、それを『しない』ってことは、少なくともフェルタさんと付き合いたいくらいの好意がある――ってことだよね?」
「…………そうかな?」
「そうだよ!」テレシアは強く肯定する。「光くんは、人を傷つけるようなウソや隠し事はしない人だって、――知ってるから……」
「??」
台詞が後ろになるにつれ、テレシアの語気が弱くなっていくように感じた。テレシアの急なテンションの変化に、光は気になった。
「どうしたの?急にしおらしくなって?」
「――ううん、なんでもない。」テレシアは大きく首を横に振った。「そんなことより、光くんは何を話そうとしたの?」
テレシアはお茶を濁すように話題を光に譲った。あまり突っ込まれたくないことなのだろうと気遣った光は、先程テレシアにしようとしていた質問を投げかける。
「――ああ。どうしてテレシアがこの団に入ったのか、知りたいと思って。」
「入団の理由?そうだね…………『光くんへの恩返し』――のためかな?」
「――『恩返し』?」
「そ。『恩返し』。光くんの能力がなかったら、今の私はいないから。」
「??」
テレシアはそう言ったが、光には何のことだか判らなかった。テレシアは光と中学時代からの知り合いであり、光の能力のことについても知っている仲ではあるが、光はテレシアに自らの能力を使った記憶はない。いくらか落とし物を拾ったり、彼女が忘れた教科書などを貸したりした小さな善行の記憶はあるのだが……。
「そこまで言われるほどのこと、僕したっけ?」
「したよ?……でも、今の光くんは覚えていないかも。」
「……どういうこと?」
「いいの。誰も覚えていなくても、思い出さなくても、私だけが覚えていれば、それでいいの。」
テレシアはそう言ったきり、他は何も教えてくれなかった。光はもやもやとした疑問を抱えたまま、先の出口の方を向いた。
すると、遅れていた自分たちを気にかけてくれていたのか、エリオが立ち止まって待ってくれていた。
「やぁ、お二人さん。仲良く何を話してたんだい?」
「あ、エリオくん。光くんに遊撃団に入った理由を聞かれて、答えてたの。ねぇ、ついでだしエリオくんの入団理由も教えてあげてよ。」
光が後でエリオにも聞こうとしていたことを、テレシアは心で読んでいたのか、スムーズな流れでそれをエリオに投げかけてくれた。エリオは二人と歩調を合わせながらその質問に答える。
「入団の理由かい?――――実はぼくには小学生の妹がいるんだ。セレーネっていう、少し変わった妹だけど、彼女を地上に残したまま《ヘスペリディア》に来てしまってね……。」
「その妹さんを迎えに行こうと?」
「そう。前に地上部隊の人に探してはもらったんだけど、家にもその周辺にもいなかったらしくてさ……。ぼくを探しに外を出たのか、あるいは――って思って、居ても立っても居られなくなったから、ぼくも騎士団の一スタッフになった訳だよ。」
「エリオくんに妹いるなんて知らなかった……。」テレシアが言う。
「聞かれなかったからね。ぼくもあまり言わないようにしていたんだけど――状況的にそうもいかなくなってきたから――」
「――エリオ?」
一瞬、エリオの表情に曇りが表れたように光は感じた。エリオは普段暗い表情を見せないために、思い詰めたようなその顔は光とテレシアの心を不安にさせた。
「――あ、ごめん。気遣わせたかい?」心配されていると感じたのか、エリオはまた元のにこやかな笑顔に戻る。「ぼくのことは心配しなくていいよ。きっとすぐ見つかるだろうしさ。」
「ならいいんだけど――」
エリオはそう言うが、その笑みが、なんとなく無理をして作ったような顔のように光には見えた。
それに、エリオの本心から伝わってくる"願い"も――内容に相違はないが――どこか焦燥感を拭えないような不安定な気持ちであるように光は感じていた。
(……――――……)
「――――!!」
ふと、光の胸に、エリオではないもう一人の"願い"が届く。
女性の声で聞こえてきたその"願い"に、光は一抹の不安を感じ取った。
「……光くん、どうかしたの?」
当然だが、テレシアやエリオら他の人物には、その"願い"は聞こえていない。だから光が何に驚いたのかを知らない。
光は言うべきか迷った。そして暫く考えた後で、
「――なんでもないよ。気のせいだったみたい。」
と、嘘をついた。
本当は二人にも話すべきだったのだろう。それをしなかったのは、彼らが適任ではないと思ったからだ、というのが後の光の談である。
「ほら〜アンナちゃん、スマイルスマイルやで〜♪」
「な、なんですの……?ワタクシそういう気分では……」
「この機構は天才であるこのヴァジュラ様と、弟子の"ビルケンシュトック"が共同して作ったモノなんだぞ!」
「へーそうなんですね!あと博士の名前間違ってますぅー!」
「エルクくん、どうするしたの?何かお困り?」
「ああ、いや……何でもないっす、エキドナ先輩。」
「早く任務終わらせて、新曲練習したいっす。」
団員たちはがやがやと談笑しながら暗闇の中を真っ直ぐに突き進む。その賑やかな雰囲気とは裏腹に、その中の一人を、光は鬼胎を抱いて見つめていた。
「間もなく出口だ。」オレイエがそう声をかけると、漏れ出ている輝きが更に大きく強くなり、光たちの眼を焦がす。
軈てその輝きは、光たちの全身をも覆い隠し、目的の場所へと彼らを誘う――――。
2388年6月27日(月) 8:15 P.M. 第19居住区・モードス=ハロモグ
「――ここが、モードス=ハロモグ?」
「そうだ。此処がモードス=ハロモグに在る、我々の仲間のアジトだ。」
「え……でも、ここって――??」
「いらっしゃいませええええ!!!!」「ハイィィ!!3番さんオーダー!!」「お待たせしました、『海鮮塩焼きそば』です!」「オーダー!もも・皮・ハツ入りまーす!!」「「「ありがとおおうございまああす!!」」」
空間内に立ちこもる木炭の煙。
それに焼かれて広がる、焼き鳥タレの焦げた臭い。
混沌とした老若男女たちの喧騒と、リズミカルな冷えたグラスの衝突音。
入ったことがなくとも分かる。そこは光たちにとって、何となく見知った、だが実際には初めて見た光景であった。
「此処が、《ヘスペリディア》魔法騎士団地上部隊・モードス=ハロモグ支部の本拠地――並びに、『和風居酒屋ばっかす』。
我々が今居るのは、其の宴会室だ。」




