表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EDENERー《楽園》に住まう者たちー  作者: Caries10
Chapter2:《サピエンス》と《レリギオス》
34/63

Episode16:《砂》を司る者・前編

 2388年5月30日(月) 16:20P.M. オレイオス魔法学校演習場・森林エリア


 〔ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!〕

 その巨大な砂の塊は突如として現れた。通り過ぎる木々を根元から吹き飛ばしながら、高速で!

 この森の地形はほぼ平地。近くに山はあるが、ここ最近雨など降っていないため、自然発生の土砂崩れではない。とすれば――

 「なんだし!?あの砂嵐!?」

 「決まってる!”ヤツ”の技だ!!」

 「”ラーギブ”――!!」

 光の口から出たその名前は、明らかにレリギオスの名前ではない。地球人類――それもアラブ系の男性に使われる名前の一つだ。

 「皆!僕の後ろに隠れて!!」光は咄嗟に指示を出す。それにヴェステらチームメイトたちは即座に従う。

 「光様っ!?どっ……どうするのですか!?」フェルタは光が何をしようとしているのか判らなかった。

 「皆を護ります!!僕の能力チカラで!!」

 「――!!」

 この距離、あの速度では、砂の塊から逃げ切ることは不可能。また打ち消せる程の強力な《魔法》も、今の光たちは覚えていない。ならば防ぎ切るしかない。《希望の痣》で、クラスメイトを電磁式自動小銃レールライフルから護った時のように!

 「フェルタさん!僕を、信じていてください!!強く!!」

 「――はい!!」

 力強い光の言葉に、フェルタは握る力を一層強くする。そして間もなく、砂の塊が光たちに襲い掛かる――!!

 「もちづき、ふせぐして!!」

 ケルネの叫びに合わせて、光は右手を前方に翳す!

 「Si, Hemitieヘミティエ teskiosテスキオスEsperiosエスペリオス》!!」


 〔〔〔ボオオオオオオオオオオオオ!!〕〕〕


 光たちの周囲に半球状の障壁が展開され、砂嵐から彼らを防御する。皆を護りたいという光の強い想いからか、レリギオスであるフェルタの信じる力が強いからか、障壁は以前よりも強固となり、砂塵一つ通さない鉄壁の護りを見せる。だが砂の塊の衝撃は凄まじく、障壁内の空間を激しく揺さぶる程であった。

 「く――――っ!!」

 光の右手は、その衝撃をもろに受けていた。筋肉は軋み、今にも骨が砕かれそうな勢いだ――!だがチームの仲間――なによりフェルタを護るためにも、ここで屈する訳には行かない!光は障壁の維持に全神経を集中させる!

 「ぐっ……ぐぅおおおおおおおお!!!!」




 〔ボフウゥゥゥゥ……!!〕 

 およそ2分が経過して、砂の塊は通り過ぎた。周囲の木々の大半は倒れて砂に埋もれ、緑豊かな森は瞬く間にその一部を荒涼とした砂漠と化した。一帯の地形を丸ごと変える程の高威力《魔法》――しかし光は、その破壊力に耐え抜き、フェルタたちを護り抜くことに成功した。

 「ふぅ……。皆、大丈夫?」

 「――みんな、もんだい、ない!だいじょーぶ!」

 「私も無事です、光様!」

 仲間の無事を確認し、光はひとまず障壁を解除する。もっとも、危機はまだ去った訳ではない。

 「それよりラーギブだ!きっとこの近くにいるはずだ!」

 「ああ、そうだね……。」

 光は安堵の微笑から一転、険しい表情を浮かべて辺りを警戒し始める。ヴェステたちも周囲を見回して、その”ラーギブ”という人物の気配を探す。実は少し前から光たちは何度もその名を口にしているのだが、フェルタはそれがどのような人物であるかを未だ知らないでいた。

 「今の砂嵐は、そのラーギブという者が?」

 「はい。」光は頷いた。「彼は、僕と同じ――」




 「やはり無事じゃったか。望月光。」

 「――!!」

 砂を踏みしめる音とともに、突如として一人の男子生徒が、そこに現れた。頭にクーフィーヤを被り、ノルディック柄のマフラーで口元を隠し、白いローブにサンダルという異様な出で立ち。僅かに覗かせる隼の如き眼光は、殺意を込めたように鋭く冷たく、光たちの身体に突き刺さる。

 「ひぃ、ふぅ、みぃ……。おやおや。まさか全員お揃いじゃったとは……!これはちと骨が折れるのぅ……。」

 彼は眼の前にいる光たちの人数を数えると、自らの数的劣勢を悟り頭を掻く。無論彼にフェルタの姿は見えていない。テレモーテを頭数に入れれば、実質6対1の構図である。

 「やはり君の仕業か――”ラーギブ”!!」

 光は彼を睨みつけながら、その名を口にした。この者がラーギブ……そう理解したフェルタが彼の顔を注視すると、あることに気付く。

 (――この者、()()()()!?)

 それはフェルタのような変装ではない、本物の地球人類の耳であるということが彼女には判った。そして先程感じていた黄土色のアストラル流体は、彼の身体から溢れ出ていた。つまり――

 「このラーギブという者……まさか光様と同じ――!?」

 「そうです、フェルタさん。彼、ラーギブ・アル=アハカーフ・アブドゥルラザクの首筋には、僕の左手と同じような《痣》が刻まれている!そして僕と同じように、《魔法》みたいな能力を持っている!能力自体は僕のとは違うけど、大量の《砂》を自在に操作して、相手を攻撃したり束縛したりできる凄い能力の持ち主なんです――!!」

 光は小声で、ラーギブに関する情報を彼女に解説した。

 「フェルタさん……これ以上の会話は彼に気付かれる恐れがあります。彼は危険です!フェルタさんの姿は見えなくても、声は聞こえてしまうので、少しの間黙っていてください――!」

 「……解りました!」

 フェルタはしばらくの間、声を出さないことを約束した。確かにラーギブから溢れ出ているアストラルの量は、地球人のそれより遥かに多い。光と同程度、あるいはそれ以上だろうか。光が護ってくれるとは言え、先程の力の消費もありどうなるかは分からない。光のためにも存在を隠すことをフェルタは誓った。

 「おいラーギブ!いきなりあんなのぶっ飛ばしてくんな!!死んだらどうすんだ!?」

 一方でヴェステはラーギブに向けて怒りを露わにする。

 「『死んだら』じゃと?――知る訳がなかろう。」

 「なっ――!?」

 ラーギブはあまりにも冷血な口調で言い返す。ヴェステが驚いて反論できないでいると、ラーギブは更に持論を展開する。

 「戦場というもんは、常に生か死かの狭間にある。いつ誰が死んでもおかしくない場所じゃ。訓練じゃろうとそれは変わらぬ。戦場に立つ兵士の最重要事項とは、自らが生き延びることにあらず。”自らに与えられた任務の遂行”じゃ。その目的のためあらば、儂は如何様な犠牲でも払うつもりじゃ。例えそれが、”自分の命”でもじゃ……。」

 「――ッ!!」

 あまりにも鋭く乾いた視線が、光たちを石のようにより硬く縛り付ける。光は何故か、UGEが高校を襲った時のことを思い出していた。ラーギブのあの眼――あれはあの時の女上官の眼と、とてもよく似ていた。

 「それはそうと、望月光よ。先の儂の一撃を防いだこと、褒めてやろう。本当はお前さんだけ残ってくれればそれで良かったんじゃが、まさか仲間全員を覆える程の障壁を展開できるとは――。その《希望の痣》の力、やはり侮れぬな。じゃが、見よ。儂が撒いた《砂》はお前さんたちの周りにもうこんなに積もっておる。先の儂の攻撃を防ぐのではなく吹き飛ばしておれば、幾分かお前さんたちの有利に働いたものを――」

 「どういうことだ!?」光はラーギブの言葉の意味を問うた。

 「こういうことじゃ。《砂漠の(ブルジュ・)高塔(アル=サハラ)》!!」


 ラーギブは何やら技名のような物を叫んだ。直後、光たちの足元の地面が、音を立てて揺れ始める!!

 〔ドドドドドドドド……〕

 「な……なんだこの揺れ!?」

 揺れは次第に強くなり、最早立っていられるのもやっとという状態になった、その時――!!

 〔〔〔ドゴオオオオオオオオン!!〕〕〕

 「うわあっ!?」「きゃあっ!?」「ぬおあっ!?」

 突然足元の地面の砂が激しく隆起し、バランスを崩した光たちの身体を空中へ高く放り投げた!光たちはそのまま地面に叩きつけられるが、唯一人……テルクシアだけが隆起した砂に捕らえられて、そのまま上空に連れ去られる!!

 「きゃああああああああああああ!!!!」

 「テルクシアアアアア!!」

 砂の隆起は細く、長く、天に向かって勢いよく伸び続ける。森の中のどの木よりも高くなったそれは、正に砂でできたタワーとなった。テルクシアはそのタワーの天辺で四肢を拘束され、動けなくされている。テルクシアは必死に足掻くも、手足の砂が緩んでくれる様子は、ない。

 「ぐ……うぅ……!」

 「ククク……どうじゃ?これではお前さんたちの任務遂行は不可能じゃ!その塔は生半可な攻撃では決して壊れたり倒れたりはせぬ!傷ついた場所から自動で修復するよう命令プログラムされておるからじゃ。そして儂はその気になれば、いつでも《砂》でその小娘の王冠を奪うことができるという訳じゃ!」

 ラーギブは自ら作った砂のタワーを誇らしく見上げながら哄笑こうしょうする。が、何故かすぐに真顔に戻った。

 「――じゃが、つまらん。このまますぐに王冠を奪って勝っても、儂は満足せぬ。儂の()()()()()()()の達成がまだじゃからな。そうじゃのぅ……。」

 ラーギブはひと呼吸おいて、光たちにある提案を持ちかける。


 「――儂と戦わんか?」


 ラーギブは平然とそう言い放った。数の差など全く気にしていないかのように。

 「悪い話ではないぞ?お前さんたちが儂を倒すことができれば、《砂漠の(ブルジュ・)高塔(アル=サハラ)》は崩れ、その小娘の束縛は解かれる。お前さんたちの任務も達成できるようになる。一石二鳥――いや、一石三鳥くらいの良い話じゃぞ?無論、まとめてかかって来てもらって構わん。どうじゃ?この話、乗る他ないじゃろう?」

 ラーギブは本気で光たち全員を相手にするつもりのようだ。恐らく何か策略があるに違いない。だが――


 「ヴェステ!」

 「ああ!その話、乗ってやるぜ!!」

 光の呼びかけに頷くとヴェステは背中の大剣を引き抜き、ラーギブに向けて構える!光とフィリア、ケルネとテレモーテも了解して戦闘態勢を整える!

 「ほぅ……割と乗り気じゃな。」

 「気をつけて下さい!テルクシア・カンティオス・シレーナは今こんな状態ですから、回復魔法は使えないですよ!?もし()()()()()()()()()()――」

 「分かってるし!大丈夫!!」

 「もちづき、ちゃんと、()()()してくれる!!だから、ケルネたち、がんばる!!」

 フィリアとケルネは親指を立てて答える。2人の目配せに光はこくりと頷いた。一方、ラーギブはそのやり取りを妙な感じで聴いていた。

 (――"護る"じゃと?あの状態の小娘をどう護ると――?)

 「よそ見してるヒマないぜ!!うおりゃああああ!!」


 〔ドオオオオオオン!!〕


 ヴェステは大剣を地面に擦りながら振り上げ、地を這う炎の斬撃を前方に発射する!ラーギブはすかさず左に回避する!

 「――っ!!」

 「隙あり!!」

 ラーギブの避けた先に向けて、フィリアが銃を乱射する!


 〔〔ダダダダダダダダダダダダ!!〕〕


 フィリアの弾丸は全弾命中した――かのように見えたが、ラーギブは咄嗟に砂でできた防護壁で全ての弾を受け止めていた!

 「ちっ――!」

 「こっちの番じゃ!《砂塵の(カブダ・ア)拳骨(ッ=ラムール)》!!」

 ラーギブは砂の防護壁をそのまま巨大な拳状の塊に形成。それをヴェステとフィリア目掛けて発射する!!

 「砕けよ!!」


 〔ゴゴゴゴゴゴゴゴ……〕


 「テレモーテ!」「グルァ!!」

 ケルネの合図に合わせて、テレモーテは勢いよくジャンプする!そしてラーギブの《砂塵の(カブダ・ア)拳骨(ッ=ラムール)》を上から押し潰し、攻撃を塞ぐ!


 〔ドスゥゥゥゥン!!〕

 「ナイス、ケルネっち!!」

 「いいや、まだじゃ!!」

 間髪入れずにラーギブは巻き上げた少量の砂を手の平で円盤型に形成。それを3枚、ヴェステたちに向かって投げる!


 〔フォンン!フォンフォンン!!〕


 不気味な音を上げて飛ぶ円盤を、ヴェステたちはするりと交わしていく。同時にフィリアとテレモーテは反撃を繰り出すも、銃弾も火炎弾も、ラーギブの身体を掠めることはなかった。

 一方で外れたラーギブの円盤は倒れずに残っていた木の幹をすり抜け、忽ちその幹や枝は綺麗な断面を露にして砂の上に落ちていく――!その威力を目の当たりにして、フィリアは戦慄を覚える。

 「ひぃぃ!?めっちゃ硬いアカシオスの木が!?当たったらマジで死ぬし!!」

 「交わすか……。ならば――!」ラーギブもフィリアたちの攻撃を避けつつ、再び砂の円盤で攻撃しようとする――。だが!

 「させねぇ!!」

 「!!」


 〔ズバァアアッ!!〕


 フィリアとテレモーテが作った一瞬の隙を見て間合いを詰めたヴェステが、炎を纏った横薙ぎの一発を繰り出す。ラーギブは間一髪のところで交わすも、服やクーフィーヤの一部が少し燃えてしまった。

 「くっ――!!」

 「まだまだぁああああ!!」


 〔〔ブォンブォンブォンブォンブォンブォン……!!〕〕


 更にヴェステは炎を纏った大剣で素早い連撃を繰り出す!交わしきれないと悟ったラーギブは砂の防護壁で身を護るも、矢継ぎ早に来る重い一撃は、徐々に防護壁の砂を砕き落としていく!

 「ぐぬぬ――!!」

 「これでとどめだ!!」


 〔〔〔ドッカアアアアアアアアン!!〕〕〕

 

 「ぐおわぁっ!?!?」

 大剣を一直線に振り落ろし、ヴェステは目の前に強烈な大爆発をお見舞いした!ラーギブは爆風で後方に大きく吹き飛ばされるも、同時に舞い上がった砂を操って体勢を元に戻し、着地の衝撃を和らげた。

 「ちっ、あんまし食らってねぇか……!器用なマネしやがる!」

 だがラーギブの目に、さっきまでの余裕は感じられなかった。思っていたよりもヴェステたちに苦戦していることに、彼は焦っているようだった。

 (まずいのぅ……!望月と差しでやり合うつもりじゃったのに、この3人……意外とやりおる!!こやつらの為に無駄に体力を消費する訳にはいかぬ……!一旦煙に巻いて、望月だけを――!!)


 その時。ラーギブの両眼は、ある異変を感知した。

 目の前に映るのはヴェステ、フィリア、ケルネとテレモーテ、そして拘束されたテルクシアの4人と1匹"だけ"。そこにさっきまでいたはずの――


 「望月が……いない!?」


 ラーギブは思わず目を泳がせる。そして、見つけてしまった。

 自分の傍らにある、更に後方のゴールに向かって伸びる、2()()()の足跡を!!

 「まさか!!」

 ラーギブが振り向いたその100m程先――。望月光はフェルタを連れてゴールへとひた走っていた!!


 (ありがとう、皆!作戦通り、上手くいきそうだ――!!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ