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EDENERー《楽園》に住まう者たちー  作者: Caries10
Chapter2:《サピエンス》と《レリギオス》
33/63

Episode15:《要人》を護衛せよ・その3

 2388年5月30日(月) 16:11P.M. オレイオス魔法学校演習場・森林エリア


 「――いたぞぉ!!」

 「「「「――!!?」」」」

 その呼びかけは、光のチームの中の誰かから発せられたものではない。相手チームの声。即ち敵襲。光たちは瞬時に判断できた。

 声の主は右前方の木の上、弓を持ったレリギオスの男。纏っているローブの色は白。この訓練における光たちの対戦相手の一人である。

 「まずい!!よりにもよってこんな状況で敵襲なんて!!」

 「くっ――!」

 光たちは冷や汗をかいた。何も方針が定まらない中で、相手と遭遇してしまった。幸いまだ一人だけだが、増援が来るのも時間の問題だ。その状況の中、どうやって《魔法》が使えなくなったフェルタを無事に森から脱出させるか。向こうが仕掛けてくるまでの僅かすぎる時間、光たちは解決策の模索に全神経を集中させた。

 「ククク……皆さん、お揃いだな?ヴェステ、転校生、ケルネにフィリア、そしてテルクシ――ん??」

 光チームの人数を確認していたその時、男は彼らに起こっているある違和感に気付く。

 黄緑色の髪の少女、フィリア・フォレスティオス・アルセイスと、水色の髪の少女、テルクシア・カンティオス・シレーナ。その間にいる、明らかに生徒ではない格好の、一人の黒髪の少女。男はそれを、見つけてしまった。

 「だっ――誰だ、お前ぇええええ!?」

 「マズい!?」「フィリア!!」

 「りょーかいっ!!」

 呼びかけに応じたフィリアは、すぐさま背中に背負った杖状のものを手に取る。植物の蔓や色とりどりの花で彩られた杖。そのグリップ部分にはフックのような部品がついていた。彼女は杖の先端を男に向けると、グリップ部分のフックに指をかけ、それを手前に倒す――!

 〔カチッ!〕


 〔〔〔バァァァァン!!〕〕〕


 「ぐわぁああっ!?!?」

 爆発音が轟くのと同時に、杖の――いや、()()の先からは煙が立ち込め、男の額には弾頭のような形の硬い植物の種がめり込んだ。頭蓋骨を貫通するまでには至らなかったが、その衝撃で、男は弓を構える間もなく、真っ逆さまに地面へと落下した。男が泡を吹いて気絶しているを確認したフィリアは、小さくガッツポーズをする。

 「うっし!ひとまず、コイツは大丈夫っしょ!」

 「ああ。だが今ので相手に位置が完全にバレた。……しゃあねぇ!」

 フェルタ皇女を連れたまま、このままここに留まる訳には行かない。赤髪の少年――ヴェステ・エスプローゼ・ヘパイスティオスは決断した。


 「すぐにここを移動するぞ!!フェルタ皇女を囲みながら……全員で護りながら森を抜ける!!いいな!?」

 「「「「了解!!」」」」

 「ケルネ!テレモーテを”解放”して、フィリアと一緒に後方を護れ!!テルクシアは念のため、フェルタ皇女の姿を隠せ!!フィリアは今のうちに、罠をありったけ仕掛けとけ!!」

 「わかるした!」「りょーかい!!」「分かったですよ!!」

 ヴェステはメンバー一人ひとりに指示を送る。各人、その指示に従って速やかに行動を起こす。


 ケルネ・クリュサオリナはテレモーテを連れ、皆から充分な距離をとった。ケルネは代々ドラゴンと通じ合い、その力の加護を賜る資格を持つ"竜騎士ドラゴニスタ"の家系。パートナーであるテレモーテの今の姿は、本来の姿ではない。今の手の平サイズ程の小さな身体には、レリギオス以上の膨大な力が封じられている。そしてケルネが短刀の柄でテレモーテの背中を叩いた時、それは解放される!

 「《竜力リベルテ・解放ドラゴヌィオス》!!」

 「キュルゥゥゥゥウウウウヴヴヴヴッ!!!!」

 瞬間、テレモーテの身体から強大なアストラルが渦を巻いて溢れ出す。その渦は見る見る内に大きくなり、そしてテレモーテの身体そのものも同様に大きくなっていく。ケルネの腰、胸、頭を超えて、テレモーテは更に巨大な姿へと変貌していく!!

 〔グルルゥアアアアアアアアアアアアアアア!!!!〕

 体長5m。大きく発達した背中の半透明の刺を輝かせ、逞しくなった2本の後肢で猛々しく立ち上がるその怪獣は、咆哮だけで周囲の大地を激しく震わせる。まさに「地響きテレモーテ」の名に恥じない大迫力だ。

 「――あれは!?」「しまった!!」「ケルネのテレモーテだ!!既に”解放”されているっ!?」

 新たにやって来た相手が3人、光たちの遥か後方でその姿を目撃した。3人はテレモーテを見るや否や、すぐさま近くの木や茂みに身を隠した。だが遅い。ケルネとテレモーテは、既に彼らを捉えていた。

 「てき!やっつけるして!」

 「グルゥゥ……グアアッ!!!!」

 ケルネの指示に合わせて、テレモーテは顎を持ち上げる。腹部から込み上げるアストラルを火炎弾に変えて喉へと送り、それを前方の大木目がけて勢いよく発射する!

 「まずい!」「避けろぉぉぉぉぉ!!」


 〔〔〔ドッカアアアアアン!!〕〕〕

 「「「うわああああああああああ!!!!!!」」」

 テレモーテの火炎弾は相手の間近で爆発し、周囲の木々を焼き倒した。相手は更に後方へと吹き飛ばされた上、暫くの間爆煙のせいで視界と呼吸を妨げられた。

 「――すこし、じかん、かせぐした。テルクシア、まだ?」


 〔♪~♪♪~♪~♪~♪~♪~♪♪♪♪~〕

 ケルネとテレモーテが相手を迎撃している最中、水色の髪の少女――テルクシア・カンティオス・シレーナはフェルタの姿を透明にする《魔法》発動のため、透明な縦笛を取り出して独特なメロディーを奏でていた。彼女が得意とするのは、音楽を奏でることで発動する《魔曲モフィトゥーノ》という魔法体系。今、彼女が一つの《魔曲》を演奏し終えると、彼女のリコディネッタの先から、シャボン玉のような球体が現れ、空中に漂い始める。

 「フェルタ・エオルシア・フルトニオス皇女!これに触れて下さいなのですよ!!」

 「わ、判りました!」

 テルクシアに言われるままフェルタはその球体に指を近づける。指が球体に触れた瞬間、球体は吸い込まれるようにフェルタの手や腕を伝って、彼女の全身を包み込む。そして数秒後、フェルタの身体は手足の側から、すうぅ……と透明になっていく。

 「《魔曲:庇護するメロディア・デ・泡の旋律グァルディ・アブコ》は、触れた人の姿を透明にする結界を発生させるのですよ!テルクシア・カンティオス・シレーナが掛けているこの眼鏡がなければ、その姿を見ることはできないのですよ!!」

 「成程……。」自慢げに語るテルクシアだが、フェルタは一つの疑問を呈した。「しかしそれでは、他の皆様にも見えなくなってしまうのではありませんか?」

 「いっ!?言われて見ればそうですよね!?この眼鏡、一つしかありませんし、これがないとテルクシア・カンティオス・シレーナは全く目が見えなくなるのですよ!?どうしましょう!?」

 

 「大丈夫だよ、テルクシア。」

 「――!?」「光様?」

 狼狽えるテルクシアとフェルタの元に光が歩み寄る。左手の手袋を外しながら。

 光もヴェステから個別の指示を受けていたのである。その内容は――

 「フェルタさん、僕の手を握って下さい!絶対に離さないように!!」

 「――!!」

 フェルタは差し出された光の左手を、キラキラした眼差しで見つめていた。白く細いが、僅かに大きなその手を、もの珍しく眺めていた。

 「い……いいんですか!?その御手にお触れしても……??」

 「はい……。ちょっと、照れくさいですけど……。」

 「ははぁっ♡♡では、お言葉に甘えてっ♡♡♡♡」


 ぎゅっ!!


 直後、フェルタはしっかりと光の左手を握っ――??いや、それどころか、光の左腕全体を両腕で強く抱き締めた……!?

 「あの……フェルタさん??握るのは手だけでいいんですよ??」

 「ですが、これなら絶対に離れませんよ?光様♡♡」

 フェルタは掴んだ光の左腕をぐいっと胸元に寄せてくる。光の二の腕にあの柔らかい感触が伝わり、思わず顔を真っ赤にしてフェルタから目を逸らしてしまう。できれば少し離れて欲しいと思ったが、この状況下、指摘して直させるのも面倒だ。光はそのままにしておくことにした。

 「光様。私からも一つ、お願いがございます……。」

 その声で、再び光はフェルタの顔を見た。彼女の透き通った青い瞳、紅潮した頬を見つめながら、そのお願いを聴納する。


 「何があっても、私をお護り下さいませ……!」

 「――!!」


 フェルタが口にしたお願い――それは光も同じように思っていたことである。彼女はここで暮らすレリギオスたちにとって、そして現在の光たちにとって非常に重要な地位にある人物である。それを抜きにしても、光は彼女のその願いを叶えたいと思っていた。光は左手にあるフェルタの右手を強く握り締め、そして、こう伝える。


 「――その願い、必ず僕が叶えます!」


 〔パアァァァァ……〕

 その瞬間、《希望の痣》が目映い青白い輝きを放った。それで光の決意は、自信へと変わる。光は更に彼女に宣言する。

 「僕がフェルタさんを護ります!何があっても……絶対に!!」

 光の力強く頼もしい言葉に、フェルタは陶酔してしまう。彼女の眼には、光という少年がより一層素敵に見えるようになった。

 「――はい。宜しくお願い致しますね。」

 フェルタはそう言葉を返し、光ににこりと笑顔を見せた。光も彼女に微笑みを返したところで、テルクシアの《魔法》がフェルタの顔に及び、そして忽ち、彼女の姿は全く見えなくなっていった。左腕に感じる、フェルタの柔らかく温かい感触を、光は必ずや忘れないようにと留意する。

 「ヴェステ・エスプローゼ・ヘパイスティオスくん!フェルタ・エオルシア・フルトニオス皇女が完全に透明になったですよ!」

 「分かった!」

 テルクシアは準備完了の合図をヴェステに送る。だがその間に相手チームが再び光たちのところに戻ってきてしまった。

 「待て!絶対に逃さねぇ!」「悪いが勝利は――」「ワタシたちが頂く!!」

 「「「うおおおおおおおお!!!!!!」」」

 3人は一斉にテルクシアの方に向かって走り出す!が、しかし――


 ペキっ!!


 「んっ!?」うち一人が、赤いタンポポのような花をうっかり踏んづけた。

 「かかったし!」

 見れば一面にあるその花は、本来ここには自生しないはずの植物「ダンデマイネ」。フィリアがせっせと植えたその花は、強い衝撃が加わると蓄えていたガスを一気に噴出させ、周囲に爆発を引き起こすのである!!

 「し――しまっ――!!」


 〔〔〔ボボボボボッカアアアアアアン!!!!〕〕〕


 相手の1人が踏んだダンデマイネは、近くに植えられた別のダンデマイネを誘爆させ、巧みに設置えられた配置により、相手チームは瞬く間に火の渦に囲まれる!

 「ぐあぁぁっ!」「あちぃ!あちぃ!」「いやぁああ!!髪が燃えるぅううう!!」

 「――さ!今のうちに早く逃げるし!!」

 「ああ!行くぞ皆!!」

 「「「「おーーっ!!」」」」



―――――――――――――――――――――――――――――

2388年5月30日(月) 16:15P.M. オレイオス魔法学校演習場・森林エリア


 乱立する木々の間を縫うように、光たちは隊列を乱さずに颯爽と森林を駆けていく。

 前列中央にフェルタを置き、彼女を挟むように光が右側、ヴェステが左側を警護する。ヴェステは2人よりも1歩半ほど前を走り、相手側の待ち伏せやトラップの有無を確認する。光は左腕を掴むフェルタに時折声を掛け、彼女の体調を気遣いながら走る。

 フェルタのすぐ後方には、チームのヒーラー役であるテルクシアがついている。本来なら光たちが護衛すべき人間は彼女であり、頭のティアラはその証だ。だが今となってはフェルタから攻撃の狙いを逸らさせるためのおとりとしての役割を、彼女は担うこととなった。フェルタを透明化させたのも、あくまで今回の訓練が予定通りに進行していると相手に思わせるためのカモフラージュである。

 そしてフィリアとケルネは最後列で、巨大化したテレモーテの背中に乗って背後から来る相手を警戒する。巨大化したテレモーテの背中の刺は複雑に発達しているため、乗せて走るのはバランスの問題上2人までが限界。加えてゴディライオス種という種類のドラゴンであるテレモーテの走行は、騎乗者にかなりの衝撃を与えるため慣れが必要。故に光とフェルタではなく、テレモーテを制御できるケルネと、遠距離攻撃が得意でかつケルネの次に長い乗竜歴を持つフィリアの2名が騎乗することとなった。

 「ケルネ、フィリア!!後ろの様子はどうだ!?」

 ケルネ・光の目視では、前方および両サイドに敵影はない。後方担当のケルネとフィリアの眼にも、特に異常はなかった。テレモーテの攻撃が効いたのか、フィリアが仕掛けたトラップの影響か。どちらにせよ光たちにとっては好機であった。

 「大丈夫!追って来てないし!!」

 「よし!戦闘もなくこのままのペースで走れば、15分後にはゴールできる!!気合い入れて行くぞ!!」

 ヴェステはメンバー全員の士気を鼓舞した。ケルネ、フィリア、テルクシアはそれにときの声を上げて応える。一方の光は、自分の腕を抱いたまま走り続けるフェルタの疲労を心配した。

 「フェルタさん、大丈夫ですか?ペース落としましょうか?」

 「――いいえ、構いません!これくらいの運動は慣れていますから!!」フェルタはまだ平気であると断言した。

 「――無理はしないで下さいね!何かあったら、すぐに言って下さい!!」

 「はい!有難うござ――!?」

 その時、フェルタは微かに、ある異変を感じ取った。


 〔ゴゴゴ……ゴゴゴ……〕

 「待って下さい!!前方から、何かが近づいてきます!!」

 「!?」

 光たちは直ちに足を止め、周囲を警戒する。よく耳を澄ませると、何やら不気味な重低音が聴こえてくる。誰かが接近してくる音か。それとも《魔法》か。

 〔ゴゴゴゴ……ゴゴゴゴ……〕

 「遠くの方から、うっすらと黄土色のアストラルが漂ってくるのが見えます!少しザラザラとした、《砂》のような匂いと味の――!!」

 「《砂》!?」

 〔ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!〕

 《砂》という単語を耳にした光たちは、そのアストラルが誰のものかを瞬時に理解した。それは相手チームの中でも、最も強く、そして最も警戒すべき人物――。

 「まさか……先回りしてたのか!?ラーギブの野郎が!?」




 〔バコオオオオオオオオオオン!!!!〕


 「「「「「「!!?」」」」」」

 凄まじい爆音とともに、”それ”は木々を軽々と吹き飛ばしながらこちらに接近してきた。

 雪崩のように高速で迫り来る、巨大な《砂》の塊が――!!


 「漸く来たか。さて……お前さんの決意が本物かどうか、見せて貰うぞ。望月光。」

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