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EDENERー《楽園》に住まう者たちー  作者: Caries10
Chapter2:《サピエンス》と《レリギオス》
31/63

Episode13:《要人》を護衛せよ・その1

 2388年5月30日(月) 15:50P.M. オレイオス魔法学校演習場・森林エリア

 

 茂みの中から飛び出して来た影。それは光たちが予測していた敵でも、野生生物の類でもなかった。

 白いワンピースを着た、黒髪の地球人(?)の少女。

 あまりに斜め上の展開に、光とケルネの身体は思わず硬直してしまう。

 地球人の少女は光の姿を見つけるや否や勢いよくジャンプし、無抵抗となった光の身体をぎゅっっ!と抱き締める。光はその反動でバランスを崩し、背中からドサッ!と地面に叩き落される。

 幸い雑草や落ち葉がクッションになったおかげで、光の背中はそこまでダメージを受けなかった。しかし同時に彼の顔面には、別のク(・)ッ(・)シ(・)ョ(・)ン(・)ら(・)し(・)き(・)2つの膨らみが。しかも丁度、彼の右手がその膨らみの片方を掴んでいた。

 ――むにっ。

 「!!!!!!」

 試しに握ってみると、それは柔らかいが弾力性を持ち、かつ人肌程の温かさを備えていた。光はそれが何なのかを瞬時に理解した。

 ”女性の胸”!――そう判断した途端、光は忽ち顔を真っ赤に染め上げてあがき始める!

 「だっ!?うわぁああああっ!?!?」

 光は急いで手を胸から離し、彼女を振り解きにかかる。しかし少女の抱擁する力は緩まることを知らず、光の顔は、尚も彼女の柔らかい温もりの中にあった。

 「はぁぁっ!やっとお会いできましたね、光様ぁっ♡♡お元気でしたか?」

 少女は胸を揉まれて恥じらったり怒ったりするどころか、光の後頭部を掴んで自ら胸の谷間に押し付けようとする!谷間に沈む直前で首を左に捻ったことで、光はどうにか呼吸と会話に必要な器官の拘束を逃れることができた。

 ところでこの少女は誰?――という光の疑問にはもう既に解答が出ていた。こんな行動をしそうな人物を光は一人しか知らないし、何より聞き覚えのある――

 「その声……」光は確信していた。「”フェルタ”さんですか!?なんでここに?」

 「――!!」

 ハッ!と少女は瞬間的に我に返り、自ら光の身体から離れた。その時の彼女の顔は、「何故バレた!?」とでも言いたげな仰天した表情だった。

 「――ち、違いますっ!?私は五十嵐(いがらし)楓花(ふうか)、地球人ですっ!情報管理局の局員なんですっ!コレが名刺です!本当ですよ!?」

 少女は慌てふためきながら光に名刺一枚を渡した。光は身体を起こしてそれを受け取るも、名刺には見向きもせず、少女の顔ただ一点をじーーーーっと見つめていた。疑念のある光の眼差しに焦りを覚えた少女は、なんとか正体を隠そうとして――

 「い……一応言っておきますが、フェルタ皇女が変装とかした姿では、決して御座いませんからね!」

 うっかり蛇足な説明を口にしてしまった。

 「……それ自分で言っちゃったらダメなんじゃないですか?」

 「はうっ!?」

 フェルタは思わず両手で口を押える。頭を掻きながらすっくと立ち上がり、光は呆れ顔で彼女を問い質す。

 「ところで?どうしてフェルタさんがこんなところにいるんです?しかも地球人の変装までして?」

 「そ、それは……ですね……。」

 フェルタは回答に困った。彼女が光に会いたかった理由――それは”密かに光とデートがしたい”という下心であった。彼女の計算では、光と再会後に二人でデジマの街を散策し、本来の目的である視察とか博士の警告とかそ(・)っ(・)ち(・)の(・)け(・)で光との楽しい一時を過ごそう……という予定であった。

 だが光と会うまでに随分と時間がかかってしまった上に今は授業中。仮にすぐにそれが終わったとしても、デートができる時間はもう殆どない。加えて、本来なら地球人の姿では入ることが許されないこの魔法学校に無理を通して入ってしまった以上、何か正当な理由付けがなければ光は納得してくれないだろう――。

 フェルタが考えあぐねて視線を横に向けた時、彼女の眼に何かが映った。

 「――あら?」

 「何?どうかしたんでs――ああっ!?!?」

 光が彼女の目線の先に気付いた時、彼は事の重大さに気付いてしまった。


 「フェ……フェルタおーじょ??それ、ほんと?もちづき?」

 そこにあったのは、小刻みに身体が震え、目を丸くして2人を見つめるケルネの姿だった。ケルネは眼の前の地球人が本当にフェルタ皇女かという疑惑と、もしそれが本当だったらという恐れと緊張から、身体の震えを抑えることができなくなっていたのである。

 ((――マズい!!?))

 光とフェルタは瞬時に危機を感知した。

 (どうしよう!?ケルネに今の会話聞かれてたかな!?だとすれば訓練どころじゃなくなる!!)

 (いけません!光様だけならまだしも、他の方に正体がバレてしまっては、間違いなく”グレコローマン”博士に叱られてしまいます!!)

 2人は特に言葉を交わさずして、この状況を切り抜けるための知恵を共に巡らせた。そして先に行動に出たのは光だった。

 「えっと……ケルネ!?何を言ってるんだい!?フェルタさんがこんなところに来るわけないじゃないか!?この人は、フェルタさんからの伝言を伝えに来てくれたんだ!だよね、えっと……五十嵐さん!?」

 光は咄嗟の適当な言い訳を口にした。ついでにフェルタの今使用している偽名を用いて、宛も彼女はフェルタ本人ではないことを示そうとした。

 「そっ……そそそそそうでスッ!!私はフェルタ皇女ではごザイませン!!ジョー報かかか管理局の五十嵐楓花です!全くのべべ別人デス!!」

 フェルタも光の口裏に合わせようとした。が、所々声が裏返ってしまい、激しく動揺しているのが誰の目にも明らかである。

 それを見たケルネは、今度は光に対して揺さぶりをかけてきた。

 「でも、もちづき、いうした。このひと、フェルタおーじょ、って。」

 「えっ?僕そんなこと言ってな――!?」

 その時、光は舌の左側に乗っかった小さな球状の物体の存在を思い出した。先程ケルネから貰った飴玉である。

 この飴、舐めた本人の耳に聞こえてくるアリティア語の音声を地球人の言葉に翻訳してくれるが、同時に舐めた本人の発した言葉は、”自動的に””全て”アリティア語の音声に変換してしまう。

 つまり、さっき光がフェルタに話した内容は、ケルネに全部筒抜けになっていた、ということだ。

 (――フェルタさんごめん。僕のせいだ――。)

 「えっ!?ええええっ!?」

 光は小声でフェルタに謝罪を述べる。これで2人には完全に打つ手がなくなってしまった。


 「キュッ――キュルル!!」

 するとケルネの足元から、何かの鳴き声がした。半透明の疣(いぼ)を背中や尻尾に幾つも生やした、手のひらサイズの茶色いトカゲだ。まだ少女の正体に確信を持てないケルネがトカゲの存在に気付くと、彼はある考えを思いつく。

 「あ、テレモーテ!ちょうどいい、ところ、くるした!しらべるして、そのおんなのこ、だれか?」

 「キュッ!」

 テレモーテとは、ずばりケルネの相棒であるこのトカゲの名前。テレモーテはケルネの命令に従い、眼の前の地球人の少女に駆け寄る。そしてテレモーテはミュールを伝って、彼女の白くか細い素足の上を、ぺたぺたと這い上がっていく。そのひんやりとした皮膚の感触にフェルタは思わず艶やかな悲鳴を上げてしまう。

 「ひゃあっ!?や……やめてくださ……あっ!!ああんっ!?」

 フェルタはテレモーテを振り払おうと身体をじたばたさせるが、テレモーテは振り落とされるどころかどんどんフェルタの身体の上部へと這いより始めてしまう。脹脛(ふくらはぎ)から太腿へとテレモーテが移動する度に擽(くすぐ)られるフェルタの神経は、不快を通り越して快楽を覚え始めていた。そしてそれが臀部に達した時、フェルタの快楽は瞬間的に頂点を示した!

 「ひゃうんっっ♡♡♡♡」

 フェルタの身体は地面に転げ落ち、もう自分では顔の綻(ほころ)びを隠せなくなってしまった。今までの清楚な雰囲気が一転、はしたなくもゲラゲラと大きな声で笑い、彼女は身体を捩り始める。

 「アハッ!アハハハハ!!やめ……やめてアハハハハ!!」

 「だっ……大丈夫ですか!?今取ってあげ――!!」

 光がそう言って彼女の身体に触れようした時、テレモーテは既にワンピースの中――それも彼女の下腹部のあたりにいるのを見(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)。テレモーテを簡単には取り払えないこと、そして、純白の生地で腰の部分を紐で結び止めるタイプのそ(・)れ(・)を履いている事を、光は知ってしまった。

 「ごっ、ごめんなさいっ!!今の僕にはムリですっ!?」

 赤面した光は咄嗟に顔を覆い、スカートの中の光景を忘れようと頭を激しく揺さぶった。だが揺さぶる程に、忘れようと念じる程に、かえってそのイメージが強くリフレインされ、光は結局自力でフェルタを助けるのを諦めてしまった。

 そうこうしている間に、テレモーテはフェルタの鎖骨・首筋・顎先へと移動し、自らぴょんと地面に飛び降りた。擽られる快楽から解放されたフェルタは、笑いすぎたせいで過呼吸気味になり暫く動けなくなってしまっていた。

 「テレモーテ!どう?そのこ、どんなアストラル?」

 「キュルッ!」

 ケルネの呼びかけに応じてテレモーテは力を込めた。するとテレモーテの身体中にある透明の疣が、翡翠色へと目映く輝き始めた。ケルネはその輝き方を見て、眼の前の少女の正体を漸く理解した。

 「うんうん。ぜんしん、ぞくせい、”かぜ”……しかも、とても、つよい……。わかるした!やっぱり、このひと、フェルタおーじょ!まちがいない!」

 「キュッ?」

 「そーゆーこと、で…………どーしよう!!??ケルネ、やらかすした!!たいへんなことおおおおっ!!!!」

 それを知るや否や、ケルネは酷く後悔した。本当にフェルタ皇女だと思わず、このような破廉恥まがいな行為をしてしまったことに。テレモーテは不思議そうに首を傾げているが、飼い主の方の心情は、謝罪の言葉を考えることで一杯だった。

 (ま……まずい!ケルネに正体が……!!)

 まだ倒れているフェルタの方を極力見ないように指の間から様子を眺めていた光は、焦燥感に駆られていた。もうすぐ同じチームのメンバーとここで合流することになっている。彼らにまで知られたら、事態を収拾させるのは困難を極めてしまう。

 光は動けないフェルタの身体をえんやと抱え、この場から遠ざかろうとしていた。

 (せめてこれ以上事が大きくならないように、フェルタさんを安全なとこへ――)




 「ハ(・)ニ(・)ー(・)!!」

 (ギクッ!?)

 光の背後から、突然そのような呼びかけがあった。ケルネではない、彼とは別の少年の声だ。

 (ヴェステたち……もう来たのか!?)

 光は振り向いて、3人のレリギオスが並んでこちらに歩み寄るのを確認した。1人は少年、2人は少女で、3人とも光と同じ黒いローブを羽織っている。そして3人とも、光と同じチームのメンバーである。

 「ハ(・)ニ(・)ー(・)!ケルネ!無事か?さっきケルネの口笛が聴こえたんだが…………誰だその娘(こ)!?」

 3人の先頭に立つ赤いボサボサ髪の少年が、光の腕の上のフェルタの存在に気付いてしまった。それにつられて彼の両脇にいる2人の少女も、フェルタの方をじっと注視し始める。まずい。言い訳を考える余裕がない。光はとりあえず何か言葉を発するにした。

 「え、えっと、この娘は、その――」

 たどたどしい光の発言を遮り、黄緑色の髪と褐色の肌を持つ少女が仰天した表情でフェルタを指差す。

 「――あぁっ!!よく見たらその娘……サピエンスじゃね!?ヤバイし!?なんでこんなところにいるし!?まさかその娘――ひかりんの”カノジョ”!?」

 「ち……ちがう!?そういうのじゃないから!!」

 フェルタには申し訳ないが、光は全面否定した。

 「でも、顔赤いし!?お姫様抱っこもしてるし!やっぱカノジョなんじゃね?」

 「だからカノジョじゃないって――」

 「あ、そっか!!」更に水色のボブヘアーの眼鏡少女が、会話に乱入する。「判りましたよ、フィリア・フォレスティオス・アルセイスさん!」

 「”フィリア”でいいし!いちいちフルネームで言わなくていいし!?」

 「カノジョじゃないなら、”お嫁さん”ですよ!?サピエンスの法律では16歳から結婚できるそうですから!ですよね望月光くん?」

 眼鏡の少女はどこかで仕入れた地球人の知識をひけらかしたがそれは間違いだ。UGE民法典第1122条によれば、16歳で結婚ができるのは女子の方。男子は18歳からだ。そして勿論、光とフェルタは夫婦の関係にはない。

 「お……お嫁!?何言ってんのテルクシア!?」

 「そうだぜ、テルクシア!!ハ(・)ニ(・)ー(・)は嫁なんかもらわねぇ!!嫁にも(・)ら(・)わ(・)れ(・)る(・)側(・)なんだからよ!そうだろ?俺の愛しのハ(・)ニ(・)ー(・)??」

 そう言って赤髪の少年は屈託のない笑顔を見せながら、光に向けてウィンクを送った。どうやらハ(・)ニ(・)ー(・)とは、光のことらしい。光は渋い表情をしながら、言った。

 「――ヴェステ。いい加減そのハ(・)ニ(・)ー(・)って呼ぶの、止めてくれないか?それに君と結婚なんてできないよ?僕たち、オ(・)ト(・)コ(・)同(・)士(・)なんだしさ……。」

 「それでも構わねぇ!!」

 「いや、構えよ!?」

 全く言う事を聞かない赤髪の少年に、光はうんざりに感じていた。そこに立ち直ったケルネが彼らの会話に割って入る。

 「みんな、みんな、たいへん!!きくして!!このこ、じつは、フェルタお――」

 「だぁああああああああっ!?」

 光は咄嗟にケルネに飛びかかり、彼の口を両手で塞いだ。だが、遅かった。3人にはしっかり、"フェルタ"という単語が聞き取られていた。

 「――なぁ?ケルネ、今"フェルタ"って言ったよな??」

 「はい!テルクシア・カンティオス・シレーナもそう聞こえました!」

 「フェルタって――まさか、"フェルタ皇女"のこと!?マジ!?」

 「フィリア、バカか?フェルタ様がこんなところに一人で来る訳ねぇだろ?」

 「でも、ひ(・)か(・)り(・)ん(・)のあの慌てようを見るし!アレはなんか『ヤバい!?』って感じの表情だし!!」

 「あ!!2人とも見てください!テレモーテちゃんのイボが全部翡翠色に強く光ってます!!これは望月光くんのでもケルネ・クリュサオリナくんのでも、あるいは相手チームの誰のものでもないアストラルの輝き方です!!全身に風属性……それにこれ程まで強力な輝きを持つ人物は、やはり――!!」

 「え、マジで?じゃあまさか本当に――!?」

 光の願いも空しく、3人は真実に辿り着いてしまった。こうなったら、もう観念する他ない。

 「――そのことについては、僕から話そう。別の場所に移動してから、ね?」

 光はフェルタを抱えたまま、4人を森の奥へと誘導した――

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