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EDENERー《楽園》に住まう者たちー  作者: Caries10
Chapter2:《サピエンス》と《レリギオス》
30/63

Episode12:《光》を尋ねて

 2388年5月30日(月) 15:36P.M. デジマ特別居住区


 「――それは本当か?ハンナ?」

 〔はい。ストリーミング配信された映像をキャプチャしましたので、今からそちらに送ります。〕

 「頼む。」

 自動車の車内。ヴィシュヴァカルマン博士はフロントガラスに映る誰かと通信を取っていた。「映る」と言っても、鏡面のようにガラスに反射して映っているのではない。フロントガラスそのものがディスプレイとしての機能を持ち、離れた場所から送られた信号を元に映像を作り出しているのである。

 ハンナという情報管理局局員とのテレビ通話画面の横に、彼が転送した映像ファイルのデータがフロントガラスに映し出される。ロードが終わり映像が開始されると、ヴィシュヴァカルマンは暫くそれを注視した。映像は、何かの記者会見の模様を映している。背景には三柱の女神に抱かれた《地球》のロゴと、「UGE」という文字。そこにスーツ姿の白髪の男性がフラッシュを浴びながら現れ、()()()()を記者たちに伝えていた。

 動画を見終えたヴィシュヴァカルマンは、動画のウィンドウを指でスワイプして閉じ、ハンナとの通信を再開させる。

 〔――いかがですか?〕

 「やはり……()()()()を実行に移したというのは本当だったのだな。」

 〔はい。レリギオスのことだけならまだしも、ここまで情報を開示するとは思いもよりませんでした……。しかもこれでは、余計に市民の恐怖や不安を助長しかねません。〕

 「だが好都合だ。奴らの組織力と市民からの信頼は脆弱化しつつある。そして偶然にも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。しかも2()()も。」

 〔2人?……一人は判りますが、もう一人は?〕

 「望月光君のことだ。彼が例の事件で起こした《奇跡》、君も聞いただろう?」

 〔あ、はい。確か、”《希望》を司る能力”――他人の願望を具現化させる能力と、報告にありました。――ですが、私がまだU()G()E()()()()()()()()()()には、彼のような()()のデータはありませんでした。〕

 「そうだったのか?……誰かによって意図的に彼の存在が隠されていた、あるいはUGEの管理外で産まれたために登録されていなかった、と見るのが妥当だろう。どちらにせよ2人を獲得できたのは、我々にとって非常に大きな利益だ。」

 〔しかし、()()の何人かは既にUGEの手にあることでしょう。そうなると――〕

 「ああ。いずれは実戦導入してくるだろうな。なので2人には、何としても戦力になってもらわなければならない。そのためにまず、望月光君――彼の能力の解明を急ぐ必要がある。何ができて、何ができないのかを調べるために、現在オレイオス魔法学校で授業を受けてもらっている。無論、彼の同意は得ているし、()()()()の《痣持ち》である彼も、私たちに協力してくれている。」

 〔彼が?――大丈夫でしょうか?〕

 「まぁ性格はだいぶひねくれてはいるが、悪い奴ではないだろう。我々と利害も一致しているしな。」

 〔いえ、そういうことではなくてですね――!〕

 「おっと、そろそろ行かなくては。すまない。切るぞ。」

 〔ま、待って下さい!彼は戦闘の――〕

 プツン……。

 ハンナとの通信を切ると、フロントガラスのディスプレイからテレビ通話画面が自動的にクローズされた。フロントガラスに残された動画の一時停止画面を見つめながら、ヴィシュヴァカルマンはふーっと大きな溜め息をついた。

 「ついに動き出したか。()()()()()()の奴め。待っていろ。私たちも直に、動き始めるぞ――」

 何かを決心したヴィシュヴァカルマンは車のドアを開け、道路に降り立った。




━━━━━━━━━━━━━━━━━

 2388年5月30日(月) 15:36P.M. オレイオス魔法学校・演習訓練準備室


 その頃フェルタ・エルク・福希フーシーの3人は、ベルガ校長に連れられ演習訓練準備室という場所に来ていた。

 「ここは、"えんちゅーくんれんじゅんびちつ"でつ!」

 「ほう!ここが"えんちゅーくんれんじゅんびちつ"でつか!」

 「――ここではじったい(=実際)にモフィアをつかったてんとー(=戦闘)やてーたつとー(=偵察等)のえんちゅー(=演習)をおこなうためのどーぐやぶきをほかんちているのでつ!」

 「なるほど!"てんとー"に"てーたつとー"か!つごいな!」

 「ちょっとッ!わたちのマネちないでくだたい!」

 「えぇ?マネなんかちてまてんよ?俺……じゃなくてワタチ!」

 「フォルス君……キミはフツーに喋っていいんですよ?」

 エルクの悪ふざけはそこまでにしておいて、演習訓練準備室には戦闘訓練に使用する刀剣や斧・槍・弓矢等の武器が所狭しと置かれている。勿論訓練用なので武器は殆どが木製で本物ではないが、身につける鎧や兜は防具は金属製のしっかりとした造りをしている。

 「――ここには"銃"もあるのですか?」

 フェルタはある一画を注目していた。弓矢の棚の横に、ずらりと並べられた銃火器の陳列である。

 「そーでつ!《エデンたいてん(=エデン大戦)》のえいきょーからか、ピツトル(=ピストル)とかツナイパーライフル(=スナイパーライフル)をつかってみたいというてーと(=生徒)がおおいのでつ!じゅーのメカニズムをちる(=知る)うえでもいいきょーざいになるので、こーちてちきゅーのじゅーをたくたん(=沢山)おいているのでつ!ここにあるのはぜんぶくんれんよーのエアガンなのでつが、ホンモノもべつのばちょ(=場所)にちゃんとあるのでつ。」

 「成程。ん?これは――。」

 フェルタは拳銃の棚の中から、ある銃を手に取る。自動拳銃の銃身の下部にナイフサイズの木刀が備え付けられた特徴的なフォルムだ。

 「これ、()が持っているのと同じ――?」

 「はい!とれ(=それ)はFeltaフェルタおーじょがもっているHarpyuiaハルピュイアV-2373をモデルにちていまつ!てーとのなかでもとりあいになるほどにんきがたかいのでつよ?たつがは(=さすがは)おーじょでつね!」

 「いやぁ~、なんだか照れますね。」


 おっほん!


 フェルタが口を滑らせたとき、ベルガは咳払いをしてフェルタに何かを知らせた。フェルタが不思議そうに彼女の目線の先を追うと、眼を細めて不審がるエルクと福希の顔があった。

 「な~んでフェルタ皇女の話でアンタがテレてんだよ?」

 「しかも今、”私が持っているのと同じ”って言ってましたよね?もしかして貴女――」


 「そそそそそんなことより!!望月光さんはどちらにいらっしゃいますか!?ベルガ校長!!」

 あからさまに引きつった表情でフェルタは強引に話をはぐらかす。もうバレるのは時間の問題かもしれないが、ベルガは敢えて泰然自若とした対応を見せる。

 「――あちらのおくのドアのむこー、えんちゅーじょー(=演習場)のどこかにいるはずでつ。」

 「でで、では行きましょう皆様!!()()がお待ちしてますよ!?あはははは!!」

 フェルタはその場から逃げるように奥にあるドアを開き、いの一番に演習場へ足を踏み入れた。その姿を見ていたエルクと福希は悟らずにはいられなかった。

 「――福希。今あの娘、”光様”って言ったな?」

 「ええ、言いましたね。」

 「確定だな。」

 「はい。そうですね。」

 (ああ……やっぱりダメでちたか……。)

 さて、皇女にどう言い訳しようか。いや、敢えて黙っておいた方が自分にとって不利にはならないのでは?などとベルガは頭を抱えつつ、2人を演習場へ導く。




 2388年5月30日(月) 15:39P.M. オレイオス魔法学校・演習場

 

 オレイオス魔法学校演習場――総面積200万㎡の広大な敷地内に、平原・森林・山岳地・砂漠・湖・市街地といった、様々な戦闘シチュエーションを想定して作られた6つのエリアで構成されている。魔法学校の校舎内では攻撃系の《魔法》の発動は厳禁となっているが、この演習場内においては、いかなる攻撃系《魔法》を発動しても良いことになっている。今日もこの演習場では、火を吹いて草木を焼き払う生徒や、湖上を走り回る生徒の姿があった。

 「広ッ!?こん中から望月探すのかよ!?」

 「いまのじかん、えんちゅーじょーをつかうじゅぎょーはあまりおおくありまてん。なのでひとがいるばちょちゅーへん(=場所周辺)をたがてば(=探せば)、つぐにみつかるはずでつ!」

 ベルガの指示を聞き、福希は辺りを見渡して人のいる場所を探す。平原の上に3ヶ所、小規模の人だかりがあるのを彼は見つけた。福希はその中から光の姿を隈なく探したが、彼の身体的特徴に合致する外見の生徒はそこにはいなかった。

 「――平原には出ていないようですね。他のエリアに行って探しましょう。」

 「その必要はねぇぜ。」

 「え?」

 エルクはふと何かを見つけ、それを福希に指し示した。

 「もう見つけたらしいぜ。」

 エルクの目線の先にあったのは、森林エリアの方をずっと見渡すフェルタの姿。頻りにその箇所だけにしか注目しない彼女の行動から、光が森林エリアのどこかにいるであろうことが、エルク・福希の両人にも一目瞭然だった。

 エルクと福希はフェルタに近付き、声をかける。

 「そっちにいるのか?”()()”は?」

 「話しかけないで下さいませ!光様のアストラルの流れが分からなくなってしまいます――!!」

 エルクが光のことを”光様”と呼んだことには一切歯牙にもかけず、フェルタは森林から漂う光のアストラルの流れを必死で追っていた。五十嵐いがらし楓花ふうかという地球人の演技をすることすら忘れて。

 「で、どこですか?望月君は?」

 「――!!いました!あそこです!!」

 フェルタは光の居場所を突き止め、その方向を指差した。エルクと福希も、同じ方向を向いて彼の姿を探す。だがフェルタの指差す先には光はおろか人の姿もない、木々の乱立がただあるだけである。

 「ど、どこだよ!?」

 「全然見えませんよ!?」

 「姿は見えなくとも、私には感じます!光様の放つ甘美で官能的なアストラルの輝きと匂いが……!!ああっ……♡もっと近くで、そのアストラルに包まれたいッ♡♡♡」

 フェルタは急に色っぽい声を出す。エルクが横から彼女の顔を覗くと、彼女は蕩けた瞳で光のいる方向を見つめ、はしたなくもよだれを一筋口元から垂らしていた。

 「ちょっ……アンタ、口からヨダレ出てんぞ?――ってオイ!?」

 エルクが滴りかけた涎を指摘するや否や、フェルタは突然勢いよく森へ向かって走り出した!

 「今そちらに参ります、光様ぁ〜〜〜〜♡♡♡♡」

 「オイ待て!?待てって――んがっ!?」

 エルクは彼女を追いかけようと走り出すも、足元の石に躓き顔面から地面にダイブしてしまう。そしてエルクが再び顔を上げた時には、フェルタの姿はとっくに森の奥深くへと消えてしまっていた。

 「は……早ぇ……。」

 「フォルス君大丈夫ですか!?今手当を――」

 「俺は大丈夫だ!それより追っかけねぇと――!」

 「ダメでつ!」

 再び立ち上がろうとするエルクの前に、ベルガ校長が立ちはだかる。

 「いまこのもりでは、じってんくんれん(=実戦訓練)がおこなわれているのでつ!じってんくんれんでは、てーとたちがほんきのこーげきまほーをつかいまくるのでつ!うかつにはいるとあぶないでつよ!?」

 「だったら尚更だ!いいのかよ!?あの娘をあん中に行かせて!?」

 エルクは黒髪の少女の正体がフェルタと知りながらも、彼女の身を案じた。だがベルガは森の中に入ろうとはしなかった。2人の地球人を森に連れていくのも、ここに置いていくのも危険だと判断したから。フェルタがそれほどやわな人間でないことを知っていたから。それと、もう一つ――

 「――わたちにまかててくだたい(=任せて下さい)。このくんれんをとりちきる(=取り仕切る)とくべつこーち(=特別講師)とはなちをつけてきまつので。ついてきてくだたい。」




━━━━━━━━━━━━━━━━━

 2388年5月30日(月) 15:45P.M. オレイオス魔法学校演習場・森林エリア


 〔こちらヴェステ。フィリアと共に()()を連れて目的地方面へ進行中。そっちの様子はどうだ?()()()()()?〕

 「だからその呼び方止めてよ!?男同士なんだから!?――問題ないよ?周囲に敵はいないし、トラップも仕掛けられていない。テレモーテの方も特に異常はないみたい。」

 〔了解。ではこのまま進行を続ける。指示があるまでそこで待機してくれ。〕

 「分かった。気をつけて進んでくれ。」

 プツン。

 僅かに陽光が差す深い森の中。黒いローブを羽織り木に身体を貼り付けながら、光は”伝令の杯器テレパシ・カリクシオ”というコップ型の通信機器で誰かと会話をしていた。これは底についた鉱石からアストラル流体を糸状に伸ばして他方と接続し、離れた相手と相互に連絡ができる《魔法道具モフィオイテミオス》である。一見糸電話のような見た目だが、弛むことのないアストラルの糸は最大8km程度まで伸び、また電波とは違いあらゆる遮蔽物の影響を受けず、送受信可能圏内ならばどこでもクリアな音声で会話ができるのである。

 "伝令の杯器"の通信が切れると彼はそれを腰のポーチにしまい込み、警戒するように周囲を見回していた。

 「――もちづき、ヴェステ、いうした、なんて?」

 光が寄りかかる木の上から声がした。彼と同じローブを着たレリギオスの少年が、木の上から彼に向かって話しかけてきたのだ。

 「こっちに向かってるって。僕たちは暫くここで待てって。」

 「そう。ケルネ、わかるした!」

 光は通話の相手からの指示をそのままその少年に伝えた。オレンジ色の髪の少年は、にっこり微笑んで光の言う事を聴き入れた。

 「もちづき、そろそろ、しないと、なめる、あめ。」

 「――ああ、そうだね。もうすぐ効果が切れそうだ。」

 「なげる、するね?それ。」

 少年はポケットから包み紙に入った飴玉を取り出し、それを光に目がけて放り投げた。光は左手でそれをキャッチする。

 「ありがとう、ケルネ。」

 光のお礼の言葉を述べる。だが少年は不思議そうな表情を浮かべていた。

 「??……Mi mosattaモサッタ quiクィ ta?(訳:何て言ったの?)」

 「――ああ、そっか。」

 少年の音声は何故か突然にアリティア語になってしまった。光はそれで、たった今飴玉の効果が切れたことを知る。

 「Gratesuグラテス, Kerneケルネ.(訳:ありがとう、ケルネ。)」

 今度はアリティア語で少年にお礼を述べた。少年は漸く光の言葉を理解できたようで、屈託のない満面の笑みを浮かべる。

 「――Pregioプレギオ!(訳:――どういたしまして!)」

 直後、光は少年から受け取った飴を口へ放り込んだ。飴が光の舌に触れた瞬間、飴に込められたまじないが作動し、瞬時に光の全身に作用し始める。この飴には、口にした者を一時的にアリティア語が理解できるようにするまじないがかけられている。光はこの《へスペリディア》に来てから少しずつアリティア語を学習したとは言え、まだ簡単な挨拶や会話しかできないレベルである。光がこのレリギオスの少年や、”伝令の杯器”の向こうのレリギオスと卒なく会話できたのは、この飴のおかげである。

 「――なめる、した、あめ?」

 少年の口からの音声が、再び地球人の言葉に戻る。――というよりは、少年の音声が光の耳元で自動的に地球人の言葉に翻訳されている、という説明の方が正しい。事実今の台詞においての少年の口の動かし方は、アリティア語での発音のそれであった。

 「うん。ちゃんと判るよ。」

 「そう。よい、だった。――!!」

 なお翻訳の精度は、話者の母語における語彙力に比例する仕組みとなっており、このケルネ・クリュサオリナという少年(年齢:33歳)の場合はまだ簡単な言葉しか知らず、故に彼の台詞の翻訳は、アリティア語文章を逐語訳したような片言の文章になってしまう。それはともかくとして、ケルネは光の後方から近付いてくる”何か”を察知した。

 「もちづき!なにか、くる!から、うしろ!」

 「え?」

 光は後ろを振り向いた。奥の茂みの方から、ザッザッ、ザッザッという速いテンポの足音が聴こえてくる。しかもだんだんこちらに近付いてくるようだ。

 「足音が一つだけ……?方向からしてヴェステたちじゃない!!"敵"だ!!」

 光はそう推理し、ケルネに警告する。

 「ケルネ、テレモーテを呼び戻せ!武器も構えるんだ!」

 「わ、わかるした!!」

 ピィィィィ!!

 というケルネの指笛が深緑の樹海に木霊し、森のどこかにいるテレモーテという者の耳に届いた。同時に光は左手の手袋を外し、《希望の痣》を露にする。ケルネも木から飛び降り、腰に差した短刀型の木刀を逆手に構えて臨戦態勢を整える。

 足音はだんだんと大きくなり、その距離、あと5m程と認知した。この分ではテレモーテは間に合わない。光とケルネは2人で敵襲を迎え撃つことを決心した。

 「来るぞ!!」

 「――!!」


 ザシュッ!!ザシュッ!!


 何者かが眼の前の茂みを掻き分ける音が大きく響く。その音で、光とケルネは、一層気を引き締める。

 間もなく、鬱蒼とした茂みの中から、”それ”は現れた!!


 「光様ぁぁぁぁ~~~~っ♡♡♡♡」

 「うわああああああっ!?!?」

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