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EDENERー《楽園》に住まう者たちー  作者: Caries10
Chapter2:《サピエンス》と《レリギオス》
29/63

Episode11:デジマ《視察》その3

 2388年5月30日(月) 15:23P.M. 《ヘスペリディア》第六フルリア・デジマ特別居住区


 「ちょちょ、ちょっと待て!?俺は()()がここにいるって聞いてきたんだ!!一目で良いからアイツに会いたいんだよ!!」

 「えっ――!?」

 フェルタはその言葉に驚いた。この《ヘスペリディア》に移住した地球人の名簿リストに、”望月”というファミリーネームを持つのはただ一人しかいない。まさか望月光の居場所が、この魔法学校の中だとは、フェルタは思いもよらなかった。しかし信憑性に欠ける。光がここにいるという確たる証拠がない。事実エルク自身も、光がこのオレイオス魔法学校にいるという"噂"を聞いただけで、光がここに出入りする所を目撃した訳ではない。

 「だからと言って、ごくフツーの地球人であるボクたちが、こんなところにずかずか入っていい訳ないでしょう!?」

 「俺はアイツに会いたい!なんで黙ってこんなトコに籠ってやがるのか知りたい!それだけは譲れねぇ!!」

 どうにか説得しようとする福希フーシーと、それでも我を押し通すエルク。どちらも譲らぬ言い争いの最中、フェルタの感覚器官があるものを感知した。

 (――!!この感じは!!)

 僅かに開いたドアから漏れ出た雑多なアストラルの流れが、フェルタの身体にまとわりつく。校内にいるレリギオスたちが放つ様々なアストラルの中でも、一際異彩を放つアストラルの感触を、フェルタは微かに感じ取った。地球人には全くもって理解できないことだが、そのアストラルは、お日様のような臭いと絹のような肌触り、柑橘類を思わせる少し甘酸っぱく爽やかな風味であった。そしてそのアストラル流体の色は青みがかった白色をしていた。このような特徴のアストラルの持ち主をフェルタは知っていた。

 (間違いありません!これは光様のアストラル!光様はこの学校の中にいらっしゃるのですね!)

 フェルタはそう確信する。初めて光と出会った頃から感じていた彼のアストラルの臭い・感触・風味・色彩――そのどれもが一致していた。光は確かに、このオレイオス魔法学校にいることが分かった。

 問題はこの学校内にいる光にどうやって会うかだが、フェルタには策があった。だがその前にまずは、この長身の少年を説得しなければならない。フェルタはエルクに問いかける。

 「成程。そこまでして光様……じゃなくて望月さんに会いたいのですね?」

 「そうだよ!だからどいてくれよ、そこを!」

 エルクはフェルタの身体をどかそうと、彼女の小さな両肩を荒々しく掴んだ。

 「実を言うと、私も貴方と同じ目的でここに来たのです。」

 「何!?」

 フェルタの言葉でエルクは思わず両手の力を抜いてしまう。力の抜けたエルクの手を払いのけ、黒髪の少女はこう続ける。

 「ご挨拶が遅れましたね。私は《ヘスペリディア》情報管理局局員・五十嵐いがらし楓花ふうかと申します。南星宮みなみほしのみやの生徒の皆様の近況を調査しにこの街を訪れた者で、その調査中、望月光という生徒さんがこの場所にいると聞き、お話を伺いたく訪れた次第で御座います。」

 フェルタは本名だけは伏せ、それ以外の素性は正直に2人に明かした。ここでフェルタであるとバレたら、街がパニックになって学校内に入るどころではなくなってしまうからだ。そしてフェルタは2人にある提案をする。

 「私が職員の方に話して、入校の許可を頂いて参ります。勿論お二方も入れるように交渉致しますので――」

 「ほ、ホントか!?」エルクは素直に喜んだ。が、隣の福希は彼女の言葉を鵜呑みできなかった。エルクの巨体をどんと押しのけて、福希はフェルタに質問する。

 「ちょっと待って下さい!?貴女も地球人なんですよ!?無理ですよ!第一ここは地球人立ち入り禁止だって言ったの、貴女じゃないですか!?何を根拠に――」

 「まぁまぁ、ヨウ!いいじゃねぇか!」エルクは福希を押し返しながら台詞を遮る。「この人、俺らと違ってレリギオスの言葉喋れるんだし、どうにか話つけてくれるハズだぜ!」 

 「し、しかしですね――うぐっ!?」

 エルクは福希の後ろに回り、大きな右手で彼の口を塞いだ。加えてその長い左腕で彼の身体をがっしりとホールドし、福希の両腕の動きの殆どを封じた。福希は身体を揺らしたり、脚をバタつかせたりして抵抗するが、エルクの馬鹿力相手にはあまり効果がないようだ……。

 「大丈夫だって!望月もこん中入れてんだから、俺たちだって許可貰えればなんとかなるって!そうだろ?アンタ!」

 「はい!」フェルタは即座に答える。「但し、一つだけお願いが御座います。お話が終わるまで、お二方には()()()()()()頂きたいのです。できますか?」

 「ああ、いいぜ!しっかりやってくれよ!」(んーんーんー!!)

 エルクは何の疑いもなく彼女の言葉に従い回れ右をする。福希は何か言いたげだが、その塞がれた口では言葉一つ発生できず、エルクによって強制的に同じ方向を向かせられる。2人が後ろを向いたのを確認して、黒髪の少女は()()()()()()()()()()()、職員との交渉を始めた。




 それからおよそ5分後。

 「お待たせ致しました。」

 交渉を終えたフェルタが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()2人に声をかける。エルクはその間、ずっと福希の口を封じたままちゃんと後ろを向き続けていた。

 「お!どうなった!?」(ごほっ!?げほげほっ……!!はーっ……はーっ……!!)

 彼女の声に気付いたエルクは、やっと福希の拘束を解いて彼女の方に向き直る。解放された福希は咳込みながらも新鮮な空気を急いで肺に取り入れる。

 「はい!事情を話しましたら学校長が直々にいらして下さりまして、快く入校する許可を頂けました!」

 フェルタは右手に持った3枚のカードを2人に見せつける。文字がアリティア語で書かれていて2人には全く読めないが、これが入校許可証らしい。その内の1枚を抜き取り、エルクは礼を述べる。

 「サンキュー!!これで望月に会えるぜ!!」

 「ほ……本当に入れるようになったんですか……??」

 「おう!だから言ったろ、酉?『なんとかなる』って!!許可貰っちゃえば地球人でも何だってできるんだよ!!」

 エルクはそう言ってもう1枚の許可証を抜き取って福希に手渡した。

 「あ……ありがとうございます……。」

 「許可証を持ちましたね?では中に入りましょう!!」

 既にフェルタは入り口の向こうに半身を入れていた。彼女の身体全体がドアの向こうに消えると、エルクと福希も続いてその中へ入っていく。ところでドアの前で立っていた先程の職員は、何故かひざまずいて2人を見送っていた。まるで高貴な人物を迎え入れるかのような所作に、福希は些かの違和感を感じていた。




 2388年5月30日(月) 15:30P.M. オレイオス魔法学校・エントランス


 「よくぞまいられまちたね!ここがOreiosオレイオスまほーがっこーでございまつ!!」

 校内に足を踏み入れたフェルタたちを出迎えたのは、ぶかぶかの白いローブに身を包んだ、緑色の三つ編みをしたレリギオスの幼女だった。周りを見渡せば、ここにいるレリギオスたちは皆、同じデザインの様々な色のローブを纏っている。この学校の制服なのだろう。

 「ほんらいならば、タピエンス(=地球人サピエンス)のみなたんにはとーこー(=当校)へのたちいりをおことわりちているのでつが、こんかいは”とくれい”とゆーことで、おにーたん(=お兄さん)たちをごあんないちてあげまつ!!」

 身長100cmあるかないかという見た目の幼女は短い両手を目一杯広げ、舌ったらずな口調で3人を迎え入れる。少々聞き取りに難があるが、エルクと福希にはしっかり「ご案内」という言葉は聞こえていた。

 ――しかし、こんな幼い子どもに案内させて大丈夫なのだろうか?とエルクと福希は正直思った。それにフェルタの言う"学校長"らしき人物の姿も、2人の眼には見当たらなかった。

 「えっと……この子は何者ですか?」

 目の前の幼女を指差して福希が質問する。

 「ここの”学校長”です!」フェルタは即答する。

 「ハハッ……!ご冗談を……!どう見てもただのお子さまだぜ?あのな?魔法学校の校長っていうのは、大昔のファンタジー小説に登場するような、やたら長ぇ白髪と顎髭生やしたお爺ちゃんって相場は決まってんの!こんな発音もちゃんとできねぇロリっ娘が、校長である訳がないッ!なー、おチビちゃん?」

 エルクはそう鼻で笑ってしゃがみ、幼女の頭をゴシゴシと撫でる。子供扱いされたのがしゃくに障ったのか、幼女はエルクの手をバシッ!と叩きのける。

 「おこたま(=お子様)ではありまてん!!わたちはこのがっこーの”こーちょーてんてー(=校長先生)”なのでつ!!」

 そう。この学内で白いローブを着ている者は皆、生徒ではなく”教員”。そしてそのトップである学校長に位置する者こそ、今彼らの眼の前にいる三つ編みの幼女なのである。この幼女とフェルタは()()()からの親友であり、先程フェルタが入校許可の交渉を成功させたのも、学校長である彼女との旧知の仲があってのことだった。

 フェルタが交渉を始めた時、彼女はエルクたちを後ろに向かせた後でASDを外して変装を解き、その場にいた職員だけに自分がフェルタであることを教えた。そして"望月光という生徒に会いたいので校長から入校許可を頂きたい"、という主旨の言葉を述べ、職員は校長にそれを伝達した。この時、校長は人を使ってあしらうのではなく、自ら出向いて応対するタイプの人間であることを、フェルタは知り尽くしていた。その経験則通りに校長が来ると、フェルタは事情を話し、エルク・福希の分を含めた入校許可を難なく手に入れたのである。

 幼女はふん、と腰に手を当て、高々と名乗りを上げた。

 「わたちのなまえは、Bergaベルガ Zefurosゼフュロス Britomartisブリトマルティス!!てんとーまほー(=戦闘魔法)のえきつぱーと(=エキスパート)にちて、ちょーちんちょーめー(=正真正銘)のOreiosオレイオスまほーがっこーこーちょーなのでつ!!ずがたかい!ひかえおろー!!」

 ベルガという名前の幼女もとい校長は、《魔法モフィア》でどこからともなく身の丈程の大きな諸刃の斧を取り出し、その側面に彫られたアネモニアの花の紋様を見せつける。アネモニアはアリティア帝国のシンボルであり、皇族が使用する日用品や武器、及びその家臣や騎士団への下賜品には必ずアネモニアの花を象った紋様があしらわれる。彼女の家柄――ブリトマルティス家は代々アリティア皇族に仕えた由緒正しき騎士の家系であり、彼女の斧はアリティア帝国最後の皇帝・ゴルディウス帝から、その武勲を讃えられ賜った一級品の斧である。

 ――だが地球人相手にそれを見せたとて、その意味を理解できるはずなどなかった。

 「ほ、ほれ!ひかえおろー!!」

 「はいはい。わかったわかった。カッコいい斧でちゅねー!よかったでちゅねー!」

 ベルガはもう一度斧に刻まれた紋章を強調するも、当然エルクも福希もひれ伏しはしなかった。それどころかエルクに至っては赤ちゃん言葉で以て馬鹿にする始末である。ベルガは目くじらを立ててエルクに叱咤する。

 「ちがう!わたちが『ひかえおろー』といったら、『ははーっ』といっておデコをじめんにつけるのがタピエンスのふーちゅー(=風習)なのでちょ?タピエンスのかたがみててくれた(=見せてくれた)”じだいげき”ってやつでみたのでつ!!」

 「なんでそんな大昔のドラマ、レリギオスのアンタが観てんだよ!?つーかそんな風習、今の地球人の社会にねぇし!!やんねぇよ!!」

 ベルガからの土下座の要求を、エルクは当然に拒否した。校長の言う風習とは、今から400年程前に制作されたあるドラマの中でお決まりとなっている演出のことであり、2388年の時代を生きる若者たちには判るはずもないネタである。そもそもエルクの祖先も福希の祖先も、このドラマが制作された地域の出身者ではない故、なおさらその存在を知る由もない。あまりの冷めたリアクションに、ベルガはショックを受ける。

 「なんと!?わたちのタピエンスにかんつるちちき(=関する知識)は、じだいおくれなのでつか!?とーなんでつか!?”Feltaフェルタおーじょ”!!」


 「あ?」「えっ?」

 ベルガは黒髪の少女を見つめながら確かにそう言った。2人はいるはずのない人名を耳にして驚きを露にする。

 「だああああああああああああああああああああっ!?!?!?」

 ”フェルタ”の名が出た途端、黒髪の少女は慌てて駆け寄りベルガの口を押さえる。まずい!私の正体がバレてしまったのでは?フェルタは咄嗟にその場を誤魔化す!

 「あぁあぁあぁあぁあぁ!!いいですよねぇ!"エルトン・ジョン"!!ベルガ校長お好きですもんね〜エルトン・ジョン!エルトンの音楽ってカッコよくてサイコーですものね!今度一緒にエルトン・ジョン聴きましょう!ね?校長♪」

 フェルタは校長の小さな身体をギュッと抱き締め、背中をポンポンと何度も叩く。あまりに脈絡のない話題転換。校長は何かマズかったのか、急に出てきたエルトン・ジョンって誰だとポカン顔である。フェルタは校長の耳元に顔を近づけ、超小声で囁いた。

 (Skoloduksa Berga!? Si cugelatta situatios olim ta? Mi tesu manukeos ta?(訳:ベルガ様!?先程私の状況お伝えしましたよね!?何をやっているんですか!?))

 (O……Skusäte, Skusäte. Si henatta doziri. Dunke, Zio tesu "Elton John"?(訳:あ、ごめんごめん。ついうっかりちてまちた。ところで”エルトン・ジョン”ってだれでつか?))

 (Mi atomase Zat! Comunke guide Sios ot

Amore Hikari hanios domano!!(訳:それはどうでもいいのです!とにかく光様のいるところへ案内して下さい!!))

 アリティア語での2人の会話を、エルクと福希は怪訝そうに眺めていた。そう言えば五十嵐とかいうこの少女、どことなくフェルタに似ているような……と2人は思い始めるようになっていた。本当のところどうなのか、本人に直接聞くしかない。福希が彼女に質問をする。

 「あ……あの?五十嵐さん、でしたっけ??さっき聞き間違いでなければ、貴女のこと”フェr――」

 「言ってません。」

 即答された。

 「さぁ!ベルガ校長!!()()のいるところへ私たちをお連れ下さいませ!!」

 「え、ええ?りょーかいちまちたの……?」

 ベルガ校長はフェル――いや、五十嵐楓花に言われるがままに、光の居場所へと3人を案内し始める。五十嵐楓花と名乗る黒髪の少女は、背後の地球人2人からの疑いの視線を無視してベルガの後について行く。エルクと福希は、なんだかモヤモヤした感じを胸に残したまま、仕方なく彼女たちと行動を共にすることとした。

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