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EDENERー《楽園》に住まう者たちー  作者: Caries10
Chapter2:《サピエンス》と《レリギオス》
20/63

Episode2:《博士》の名は。

 「――ス君!フォルス君!!」

 「ん――んん――」

 エルクは気を失っていた。数十分も穴の中を落下し、凄まじい風圧に耐えかねず途中で気絶してしまったのだ。

 彼は微かに取り戻した意識と感覚の中で、今の自分の状況を探っていた。両手を少し握ると、短い草のようなものが手の中に収まっていくのが感じ取れた。背中には平坦な固い地面が広がっていることも分かる。どうやらここは草原のようだ。

 「フォルス君!!起きて下さい!!」

 そう言えばさっきから自分を呼ぶ声があることにエルクは気付いた。福希フーシーの声だ。

 「フォルス君!!」

 「――!!」


 ペチンっ!!


 2388年5月25日(水) 5:30 P.M. 《ヘスペリディア》・ヘゲモニア岬


 「いてぇっ!?!?」

 エルクの頬に、強烈な痛みが走る。耐えかねずエルクは起き上がり、ぱっと瞼を見開く。

 「――福希?」

 ウェーブのかかった茶髪に、黒縁のメガネ。何千、何万回と見てきた親友の顔が、確かにそこにあった。

 福希は右手を痛そうに、何度もパタパタと扇いでいた。福希が自分の頬を叩いて起こしてくれたのだと、エルクはすぐに理解した。

 「ああ、良かった。やっと起きましたか。すみません、手荒なことをしてしまって。君は図体が大きいから、ボクの身体能力じゃあ気絶した君を担いだり引っ張ったりできませんので、君に起きてもらうしか方法が――」

 エルクはふと、自分が此処にいる理由を思い出した。先に穴に落ちた福希を助けるためだ。彼はすかさず福希の身体を両手でがしっと掴んだ。

 「!?」

 「福希!!無事か!?ケガはないか!?」

 「は、はい?大丈夫ですけど……」

 エルクは念のため、福希の全身をポンポンと触り始める。頭・首・肩・胸・腕・腰・脚――どの部位を触っても福希が痛がる素振りを見せない。改めてエルクは福希の無事を確認した。

 「よし!!異常はないな!!じゃあ帰るぞ!!」

 「――“帰る”?」福希は首を傾げる。「帰るって、どこにですか?」

 「決まってんだろ!?高校にだよ!!」

 福希は更に首を傾げる。「どうやってですか?」

 「どうやって、って――」

 エルクは周囲を見回した。


 石畳の道路に青銅製の街灯。遠くに見える中世風の城塞。そしてこちらを見つめる大勢のレリギオスの姿。

 ここが明らかに地球人類の居住区ではないことが、エルクにも容易に理解できた。

 「――どこだ、ここ?」エルクは問う。

 「忘れたんですか?ここは《ヘスペリディア》。あのフェルタっていうレリギオスの皇女が言っていた浮遊島ですよ。」

 「“浮遊”――??」

 そう言えば、本来空の上にあるはずの雲が、なぜかこの地面よりも下にある。エルクは、近くにあった柵のない場所から顔を出し、下を覗いてみた。

 「――!!」

 一面に広がる雲海。そしてそこに開いた僅かな隙間から見えたのは、胡麻粒程度の大きさになった、第1居住区・イレブンスニューヨークのビル街だった。

 「ひ、ひぇええええええええっ!?!?」

 あまりの高さに恐れ戦いたエルクは、腰が抜けたまま後ずさりする。


 どすっ。

 「うっ!?」

 後ろが見えていなかったせいか、エルクは何かとぶつかってしまう。

 べたぁ……

 「ひぃぃぃっ!?」

 ぶつかると同時に、生臭く、生暖かい、ぬめぬめとした液体が、べっちょりとエルクの頭上に零れ落ちた。

 エルクはゆっくりと、その液体の零れた先を見上げてみた――。

 「あ、ああああ……!?!?」

 エルクの頭上には、彼の身体を丸ごと飲み込める程大きな口を開けた、グリフォンのような巨大生物の頭部があった。エルクに降り注いだぬめぬめした液体の正体は、その怪物の、獲物を発見した際に流すよだれであった。


 〔〔〔ピフォオオオオオオオオオオン!!〕〕〕

 「うぎゃぁああああああああ!!!!!!」

 グリフォン風の生物はけたたましい咆哮をエルクに浴びせる。喰われると本能的に察知したエルクは、不格好にもいでその怪物から猛スピードで福希の元に逃げ出した。福希の元にたどり着いたエルクは、彼の両足首をがしっと掴み、顔から涙と鼻水を垂れ流していた。

 「なななななななななななんなんだここはああああ!?!?ふふふふ福希!!帰るぞ!!落ちてきた穴を登ればきっと学校に戻れ――」

 「ボクたちが落ちた穴は、あそこですよ、フォルス君。」

 手で鼻を覆いながら福希が指差した穴は、ここから遥か遠方の空高い所にあり、並の人間の力では到底近くにさえ辿り着けない距離にあった。

 「な、なんて所に!?あれじゃあ帰れねぇじゃねぇか!?」

 「そうです。ボクたちはもうあの学校には戻れないんですよ。ボク自身、元々そのつもりであの穴に落ちたんですから。」

 「そ、そんな……」

 エルクはがっくりとこうべ項垂うなだれた。額が地面についてしまう程、低く。もうあのニューアシヤの街に戻れないことへの失望感、そしてこの得体の知れない謎の浮遊島で生涯を終えるのかという果てのない絶望感で、彼の心は一杯だった。

 「――ていうか、フォルス君?言いづらいんですが、そのぅ……ニオイが凄いので、ちょっと離れてくれませんか??」

 「どうすりゃいいんだよ……!?こんなワケ分かんねえ場所で、どうやって生き延びりゃいいんだよ……!?」

 「ちょっと、フォルス君?聴いてますか??おーーい??」


 「おや?どうしてまだ諸君らはここにいるのだ?」

二人の後ろから突然、女性の声で、“地球人類の言語”での問いかけがあった。それを聴いたエルクは反射的にピタリと泣くのをやめた。

 「あぁ、すみません。ここにいる彼が起きるまで待っていたんですよ。ボクには彼を担げるほどの力はないので――」

 「そうか。さぁ、さっさと城の中へ入り給え。他の仲間たちは既に皆入っていってしまったぞ?」

 福希がその女性と応答している間に、エルクは顔を上げてその女性の姿を観た。

 褐色の肌に、長身でスレンダーな体躯。身の丈程の白衣とスーツを着ていることからして、職業は研究者の類であろう。何故か妙にデカい名札はさておいて、掘りの深い彼女の顔は、さらりと長い金髪にとてもよく似合っている。そこに眼鏡と白い口紅、額中央には赤い点のようなメイクが施されており、知性を感じさせながらもどこか民族的な雰囲気を漂わせている。そして何よりエルクが注目したのは――

 「み、耳が、丸い!!尖っていない!!」

 つまり、彼女はレリギオスではなく、“地球人類”であるということにエルクは忽ち歓喜した。この未知なる浮遊島にも、自分たち以外の地球人類がいたとは、全く予想だにしていなかったからだ。

 エルクは歓喜のあまり、いきなり立ち上がったと思いきや彼女の元へビュゥゥンと駆け出した!!

 そして彼女の眼の前でピタッと停止し、エルクは彼女の左手を取り、優しくそこにキスをした。

 「なっ――!?」

 「おお……この摩訶不思議な未知の大地に狼狽ろうばいする私の前に現れし貴女は、迷える子羊めを導き照らさんとする、正に心優しき女神様!!この地で出会えた奇跡を、私は心の底より感謝しております。」

 エルクの唐突な言動と、怪物の涎で濡れた髪から漂う悪臭で、女性はとても引きつった表情を見せる。が、エルクはそんなこともお構いなしに言葉を続ける。

 「私の名はエルキュール・フォルス。どうぞ“エルク”とお呼び下さいませ。――女神様、貴女のお名前は?」

 エルクに名前を尋ねられ、女性は強張った唇をどうにか動かして答えた。

 「ヴィ……ヴィシュヴァカルマンだ……!」

 「?????」

 エルクは一度では覚えられなかった。

 「――すみません、もう一度お名前いいですか?」

 女性はもう一度名前を告げる。

 「私はヴィシュヴァカルマン。」念のため、女性は更にもう一度名乗る。「アンジュリ・ヴィシュヴァカルマンだ。」


 「――“ミソラーメン”??」


 ブチッ。

 その時、エルクの運命は決した。

 「あぁ~!なるほど!!“ミソラーメン”さんと仰るのですね!!いやぁ~なんて美味しそうな名前なんだ~!確かにそのさらりと伸びた金髪は、スープとよく絡む極細ストレート麺の如き美しさで、艶めかしい褐色の素肌は、コクのある濃厚な特製赤味噌スープを思わせる!!でもって眉間にあるその赤いペイントは、味のアクセントとなるトッピングの豆板醬をあらわ……し??」

 突如エルクの頭を、彼女の右手が鷲掴みにした。涎のぬめりと悪臭をものともせずに。

 その時の彼女の顔は、女神というよりは死神のような、それはそれは恐ろしい表情だった。

 「あ……えっと……すみません?これはどういうアレでしょうか?“ミソラーメン”さん!?」

 「誰が“ミソラーメン”じゃゴルァアアアアアアアア!!」


 ドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコ!!!!


 怒りの境地に達した“ミソラーメン”――ならぬ“ヴィシュヴァカルマン”は、エルクの顔面を地面に何度も激しく叩きつける。その衝撃は、周囲の石畳にひびが生じる程であった。

 「ちょっ!?やめっ!?たずっ!?たずけてっ!?!?福希ィィィィ!!」

 「ヴィ……ヴィシュヴァカルマンさん、ヴィシュヴァカルマンさん、ヴィシュヴァカルマンさん、ヴィシュヴァカルマンさん……」

 その様子を傍観していた福希は、エルクのアホさに閉口しつつも、もし自分が“ヴィシュヴァカルマン”の名前を間違えたら、今度は自分がああなってしまうと恐れ、必死に彼女の名前を復唱し続けていた。

 「なっ、何やってんだ!?早く、早く助けてぐれぇええええ!!」




 「――!!あそこにいるのは、福希か?お~~~~い!!」


 福希の後方から、突如声が響いてきた。

 その声に聞き覚えがあった福希は、反射的に振り向く。

 「この声は――望月君!?」


 「お~~~~い!!福希ぃいいいい!!」


 福希の目線の先には、手を繋ぎながら空を飛ぶ2人の人物の姿があった。その内の一人である金髪の少年は、こちらに向かってぶんぶんと右手を大きく振っていた。

 「間違いない!望月君だ!!フォルス君!望月君が来ましたよ!?お~~~~い!!ここですよ~~~~!!」

 福希は空の2人に向かって大きく両手を振り始める。

 「うぐぅ……??」

 「“望月”――?あの少年のことか?」

 福希の呼びかけでようやくヴィシュヴァカルマンはエルクの頭を手放し、エルクもヴィシュヴァカルマンも、こちらに飛来してくる光とフェルタの姿を確認した。

「おお!ホントだ!!望月だ!!うぉおおおおい!!」

 エルクは傷だらけの顔も気にせずすっくと立ちあがり、2人に向かって駆け出して行った。


 その姿を、飛行中の光とフェルタも確認していた。

 「あ、エルクもいる!!他の皆はどこだろう……??」

 光は岬の上にいる人影を一つずつチェックするが、福希とエルク以外の生徒の姿が全く見当たらないのを不思議がっていた。

 「恐らくもうお城の中にいるはずです。到着したらすぐにそちらへ誘導するようにと事前に打ち合わせておりましたから。」

 「そうか。じゃあ僕たちも早くお城の中へ――」

 「それより……光様?もう少しこのまま飛行を続けませんか?あの山の向こうにとっておきの絶景スポットがあるのですが――」

 フェルタは顔を赤らめながらそんな提案を持ちかけた。だが光はそんなことよりも、先に行った仲間のことで頭が一杯だった。

 「いや……皆待っているだろうから早く着地しよう?君も人を待たせているんだろう?」

 「――むぅっ!!」

 フェルタは口を尖らせ、とても不機嫌そうな顔をする。光はフェルタが何故そんな顔をするのか分からなかった。

 「な……何か間違ったこと言ったかなぁ、僕??」

 「――そろそろ着陸します。」

 「あれ?どうしてそんな悲しい顔に??」

 「何でもありません!!」

 「――!?」

 フェルタの八つ当たり的な発言に、光はぎょっとする。

 (やはりこの、思考が読めない――)

 そうこうしている内に、二人はついにヘゲモニア岬の先端に到着した。


 光とフェルタは、岬の先端にある円形の広場の中央上空で一旦停止し、そのままゆっくりと身体を起こしながら降下していく。

 「「お~~~~い!!」」

 福希とエルクは、降り立とうとしている2人の元へと駆け寄る。ヴィシュヴァカルマンもその後を追って歩き出す。

 「Yai, videro!! Basilisa Felta!! Fia bringios sapiensione!!」

 そして岬の上にいたレリギオスたちも、フェルタの帰還を知り同じく広場へと集まっていく。

広場の中央は周囲よりも少し高いステージのようになっており、エルクと福希、その他大勢のレリギオスたちはその手前で立ち止まり、光とフェルタの着陸を見守る。

 光とフェルタの着陸地点付近には弱い上昇気流が吹いており、地面に落ちていた木の葉がそれに乗って上空へと舞い上がっていく。今は着陸体勢に入っているために弱いものになっているが、2人が空を飛べたのは何を隠そうこの上昇気流をフェルタが《魔法》で発生させていたからであることに他ならない。2人は毎秒15cmずつ降下し、やがて地表にいる者全員の顔がはっきりと分かる程になってきた。

 「《解除レラーチェ》!!」

 地表までの距離が1mを切った地点で、フェルタは《魔法》の効果を解除する呪文を唱えた。すると光とフェルタの身体に、しばらく忘れていた重力が復活し、2人はぐっと地面に引っ張られる。そして、


 パタン。


 と、2人は石のステージの上に着地した。

 同時に上昇気流は吹き止み、舞い上がった木の葉は再び地表へと舞い戻っていく。

 「「「ウォオオオオオオオオ!!」」」〔〔〔パチパチパチパチ〕〕〕

 光とフェルタが着地するや否や、周囲にいたレリギオスたちは忽ち温かい歓声と拍手を2人に贈った。

 「望月ィ!!」「望月君!!」

 エルクと福希はステージに飛び乗り、光の到着を喜んだ。光もエルクと福希の元気そうな様子に安心して顔をほころばせる。

 「エルク!福希!無事に着いたんだね!!」

 「ええ!!この通り!!」

 「元気モリモリだぜ!!」

 「――??……くんくん。」

 光は何か変なニオイを感じ取った。それはエルクの頭部から漂ってきていた。

 「――クサッ!?何このニオイ!?エルク、一体何があったの!?顔も傷だらけだし!?」

 「あ?ああ、こ、これはなぁ――」

 「さっきあそこのグリフォンみたいな怪物に食べられそうになった時に、その怪物の涎がついてこうなっちゃったんですよwwwプークスクスwww」

 「おい!何笑ってんだよ!?」福希の嘲笑にガチギレするエルク。

 「え?だって事実じゃないですか?クスクスwww」

 悪びれる素振りを見せない福希。エルクはすぐさま右の拳を大きく振りかぶる!

 「こ……このぉおおおお!!」

 「まぁまぁ。二人とも喧嘩はお辞めなさい。同種同士で争い合うなど、お見苦しいことこの上ありませんよ?」

 「あぁ??」

 エルクを制止したのは、フェルタだった。ところでエルクは先程高校にいた時には頭が混乱していて、フェルタの容貌など全く気にも留めていなかった。が、今一度、彼女のその姿をよく見ると、レリギオスであるという先入観を除けば、とても清楚で上品そうな人間の美少女にしか見えない。しかもその屈託のない笑顔は、エルクにとっては正に“女神”のような美しさであると感じたという(というか、“女神”以外の女性への誉め言葉のレパートリーがないのだろうか――)。

 「……そ、そうですね!!ケンカなんてみっともないですよね!!えーっと、たしか貴女は……」

 エルクは光の隣の美少女の名前を言おうとしたが、それが何だったのかを忘れてしまった。フェルタは2度目の自己紹介を厭う素振りを一切見せずに再び名乗った。

 「フェルタ・エオルシア・フルトニオスです。どうぞ“フェルタ”とお呼び下さいませ。」

 「ああ、そうそう!!フェルタさんでしたね!!ありがとう!あとキレイだ!!」

 忘れたことへのお詫びに、エルクは脈絡もないお世辞を付け加えた。その様子を傍目はためで観ていた福希の表情は、呆れ顔であった。

 「じぃぃぃぃ……」

 「な……なんだよ……」

 「フォルス君ってやっぱりアホですね。」

 「ンだとォオオ!!」再びエルクは拳を振り上げる。

 「ちょっと!?喧嘩辞めるんじゃあ!?」


 「成程。フェルタ皇女の名前はすんなり覚えられるのに、私の名前は一文字も覚えられないとは――確かに君は阿呆だな。」

 レリギオスの群衆の後方から、先程の白衣を着た女性がエルクに対して苦言を呈する。それによってエルクの怒りの矛先は、福希から彼女へとシフトする。

 「“アホ”!?今“アホ”っつったな!?この“ミソラーメン”!!」

 「ミ、“ミソラーメン”!?」

 それはあの白衣の女性のことを指しているのか!?と光は一瞬戸惑った。咄嗟にフェルタがフォローする。

 「違います!!この方は“毘沙門天”博士です!!」

 「毘沙門!?――“博士”??」

 光は思い出した。そう言えば暗闇を抜ける前に、フェルタに通信をかけてきた人物が“博士”と呼ばれていたのを。だが肝心の名前が思い出せないのだ。“ミソラーメン”でも“毘沙門天”でもないことは確かなのだが――

 「どっちも違ーーうッ!!!!私は“ヴィシュヴァカルマン”だッ!!!!ヴィ・シュ・ヴァ・カ・ル・マ・ン!!もう何度目だッ!?このやり取りッ!?」

そうそう、思い出した。彼女、“ヴィシュヴァカルマン博士”は、皆に覚えてもらえるように改めて自らの名を大声で叫んだのだった。

 (どうやらこの人、相当自分の名前で苦労しているみたいだね――)

 (ボク、今日何度この人の名前を聞いたことでしょう――)

 ヴィシュヴァカルマンの叫びが反響する中、光と福希は心の中で、彼女の苦心に同情を寄せていた。


 「――と、それはともかくだ。」

 自分の名前のことはよしなに、ヴィシュヴァカルマン博士は、先程エルクと福希に言いかけた事項を、合流した光も交えて再度伝達する。

 「3人とも、早く城の中へ入りなさい。学校の仲間がもう中で待っているぞ。」

 「お城の中で?」光は道の向こうに建つ城塞に目を向けた。

 「そうだ。君たちはまだ、レリギオスについての本当の知識や、この《ヘスペリディア》での生活の術など、全く知らないであろう?この先にあるアネモニア城で、レリギオスの文化・歴史等々についての基礎知識や、レリギオス社会下における日常生活の注意事項等々を、フェルタ皇女と私ヴィシュヴァカルマンが直々に行う。先のUGE軍の襲撃で、諸君らに疲労やストレスが溜まっていることは重々理解している。が、これからの君たちの今後にとってとても重要になる説明ガイダンスだ。どうか心して聴いておいて欲しい。」

 そう。UGE軍に命を狙われ故郷を離れることを余儀なくされた光たちにとって、この《ヘスペリディア》がこれからの自分たちの“家”となるのである。そして故郷ニューアシヤと大きく違うのは、フェルタを中心に沢山のレリギオスがこの地に生息らしていることである。レリギオスが《エデン》の先住民族であることは既に理解したが、彼らがどのような民族で、どのような文化や社会を持っているのかを、光たちはまだ何も知らないのである。今後《ヘスペリディア》で生きていくためには、彼らとの交流や協力が必要不可欠になってくるであろう。そのためにも、まずはレリギオスのことをよく理解しなければならないのである。

 3人はその説明を受ける意義を理解し、同意の旨をヴィシュヴァカルマンに伝える。

 「分かりました!」

 「了解です!」

 「しゃーねぇな。これからここで生活せにゃあならねぇからな。」

 3人の返答に、フェルタもヴィシュヴァカルマンも安堵の表情を見せる。フェルタは光の手を引っ張り一緒にステージを飛び降りる。レリギオスの群衆たちはフェルタのために道を開け、フェルタと光は全体の最前列に立った。

 「それでは早速、城へ向かいましょう!!城ではガイダンスの後、国民総出での歓迎パーティーを開催致します。我が魔法騎士団によるパフォーマンスや、アリティア帝国の伝統楽器による演奏などを披露致します!そしてフィナーレには、私と光様の結婚披露宴が――」

 「え、ええええええええっ!?!?」

 「皇女、それはプログラムにありません。お引き取りを。」

 「――むぅっ!!」

 (よ、良かった……のかな??)

 ヴィシュヴァカルマンの却下に、フェルタはまた不機嫌そうに頬を膨らませる。光は少しほっとはしたものの、フェルタのその表情を見るに素直に喜ぶことはできなかった。

 気を取り直して、光は石畳の向こうの青い屋根の城塞に目を向ける。

 「さて、じゃあ行こうか!!」

 光、エルク、そして福希の3人は、フェルタやヴィシュヴァカルマンらとともに、遠くに見える城塞への一歩を踏み出した。この未知の大地《ヘスペリディア》で生きていくために。そして未だ謎多きこの世界の“真実”を知るために――。


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