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第六十七話 受診のススメ

 第六十七話    受診のススメ



 「こんにちは。 FM放送から素敵なゲストをお呼びしました。 今では雑誌から講演会まで人気のカウンセラー、久坂撫子先生をお招きしました」



 「どうも、はじめまして…… 久坂撫子です」



 その頃、てのひらでは

 「わっ! 出てきたー 待ってました!」


 事務所では小坂と吉野、八田先生までが来ていた。



 これはラジオ番組に撫子の出演が決まり、放送10分前に遡る。


 「これから撫子がラジオに出演するから、しっかり聴かないとね」

 小坂が張り切っていると


 「では、外来は止めちゃいましょう」 吉野は玄関の札をCLOSEにしてしまった。



 「先生も緊張しているんじゃないですか?」 小坂はニヤニヤしている。 この日、撫子が出演するので全員でラジオを聴こうとなって八田まで呼んでいたのだ。



 「あの…… 先生、大丈夫ですか?」 吉野が気づき、声をかけると八田の手が震えていた。


 (可愛い……) 吉野はクスッと笑う。



 「まだですよね? 私、喉が渇いてきて……」 吉野は慌てて全員のお茶を淹れにいく。



 そして番組が始まると 「きたっ!」 全員が黙ってラジオに耳を傾けた。




 「それでは久坂先生…… どんな時に心療内科やカウンセリングに受けに行ったら宜しいですか?」 



 「そうですね…… 普段と違うな? と、数日間続いたら行って頂くのが理想だと思います。 どうしても「これくらい我慢すれば治る」とか、「寝れば治る」と思う方が多いですから心配になりますよね……」



 ラジオの中での撫子は優秀だった。

 「もう緊張して話せない撫子じゃないわね」 小坂も聞き惚れている。



 「やはり、几帳面な方が……って方がなると聞きますが?」


 「そうですね。 几帳面な方は悩みやすい傾向にあると思います。 少し、肩の力を抜いて欲しいですよね……」


 この放送を聴いている八田は「グスッ―」 小さな涙を浮かべていた。



 「ちょっと先生……?」 小坂が慌ててティッシュの箱を持ってくる。

 八田は頭を下げて涙を拭きだした。



 「そんなに彼女の活躍を……」 吉野はトキメキに近い感情で八田に話しかけると、


 「彼女ってより、小坂君もそうだが…… 大学院で教えた子がラジオや雑誌に出るようになったんだ…… 撫子だけじゃなく、小坂君が出たって同じようになっちゃうよ……」


 八田は感慨深く涙を拭っている。


 (お人好し同士、お似合いだな……) 



 すると、ラジオのパーソナリティの声が高くなり


 「例えば、心療内科に行ってみよう! となった時に、まず何と言えば宜しいのでしょうか?」



 これが大事だった。 心療内科やメンタルクリニックに行こうと思っても “何て説明したら良いんだろう?” と思ってしまう方も少なくないだろう。



 「まず、説明をするなら症状を説明するより『受診しようと思ったキッカケ』を話してみたら良いと思います」



 撫子は明るい声で説明していた。 『これは敷居が高くないですよ』『ちょっと心配だから診てもらおう』程度で良いというメッセージだった。



 これは「どのような理由で受診を決めたか」を話してくれれば良いのだ。


 ・眠れない日が続いている ・仕事(学校)に行けない ・人と話すのが怖い ・その状態が、いつから続いているのか


 こんな事を話せれば医師やカウンセラーも聞きやすいだろう。 また、症状の方向性を把握しやすいのもある。



 原因が分からなくても「気が沈む」や「身体が重い」でも良いのだ。


 八田はラジオを聴きながら何度も頷いている。



 そして撫子が気分や心の説明していると、八田が口をパクパクさせているのを吉野が見つける。


 「??」(どうした?) 吉野が八田の顔を覗き込むと

 「身体からだもー」 と、八田は大声で叫んだ。


  “ガシャン―”


 驚きのあまり、小坂と吉野が後ろにひっくり返る。



 「ビックリした! 何なんですか、先生―」 小坂と吉野が苦笑いをすると、


 「ほら、心だけじゃない! 身体も反応するんだから」 八田はラジオに向かって話している。 きっと撫子に向けて言っているのであろう。



 撫子が説明していたのは心や症状の話である、 これに八田が付け足したかったのは身体的な症状である。



 ・動悸 ・息切れ ・頭痛が続く ・眠れない日が続く ・食欲低下などだ。


 これらの症状を医師やカウンセラーに話すだけでも違ってくる。 医師なら細かく検査や問診。 カウンセラーならクライアントに合った医師を紹介してくれる。


 中でも生活習慣の変化も重要になってくる。


 ・睡眠時間が短くなった。 または長くなった ・食欲がなくなった。 あるいは増加した ・仕事や学校に行こうとすると体調不良になる ・趣味への関心が無くなった……などである。


 その時に知らせて欲しいことがある。 他院などで受けている治療内容や服薬状況である。 『お薬手帳』を見せるのも良い。 


 これは心療内科だけではなく産婦人科や内科なども同様、適切な服薬量を知る為である。



 そうすれば医師も計画が立てやすくなり、患者さんも負担や不満を感じにくくなるだろう。


 撫子が説明すると、八田はホッとした表情になる。

 (保護者かよ……) 小坂と吉野は、さらに苦笑いをしていく。



 医師は何でも話して欲しいと思っている、 診療次第では『自立支援医療』(精神通院医療)制度によって医療費の負担を軽減できる可能性があるのだ。



 「そうは言っても、抵抗ある方にはどうでしょうか?」 パーソナリティが撫子に訊くと


 「そうですね。 中にはいらっしゃると思います……」

 ・まず何を話していいか分からない ・医師にも話したくないことがある ・感情が高ぶって上手く話せない可能性が心配 ・診察中に不調の原因を思い出すのが不安 ・服薬に抵抗がある などが出てくる。



 「症状が心と身体で、どっちに行けばいいの? と悩む人もいると思います。 精神科と心療内科が一緒になっている所が多いです。 まずは話してみてください」 最後に撫子が明るいトーンで締めると



 「今日はカウンセリング事務所『てのひら』の代表、久坂撫子先生でした~」

 パーソナリティが最後の紹介をすると、ラジオの中では拍手が聞こえてきた。



 「グスッ―」 八田が涙を流していると


 (いい加減にしなさいよ。 何回も……)

 段々と小坂と吉野の目が厳しくなっていった。



 夕方になり、撫子が帰ってくる。


 「おかえり~」 三人が並んで出迎えていると


 「あれ? 今日のクライアントさんは?」 撫子が目を丸くする。 この日は日曜日、最近は遅くまでカウンセリングが入っていたのだが……



 「あっ! 札をCLOSEにしたままだった―」 慌てて吉野が札をひっくり返す。


 「まさか、この時間にクライアントさんを入れる気?」 撫子が呆れて吉野を見ると、


 「しゅ、しゅみません……」 吉野は何度も頭を下げていた。



 「まぁまぁ、後は留美さんが一人で閉店まで頑張るということで…… 飲みにいきますか」 小坂が張り切って言うと、



 「いや~ 私も連れてって~」 と叫ぶ吉野であった。



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