∥008-E 閑話休題・歴史探訪――ミッドウェー奇譚
#前回のあらすじ:アメリカ、滅んでた。
『この』世界における歴史、それが大きく狂ったきっかけは、一体何だったのだろうか?
予兆となる小さな異変は数あれど、決定的な契機と呼ぶべきものは唯一つ。
歴史の転換点として満場一致で挙げられるのは、あの戦いにおいて他に無いであろう。
1942年―――ミッドウェー海戦。
正史に於いて空母4隻を失い、大日本帝国が太平洋戦争の主導権を喪失した戦い。
そして、この世界における両軍は極めて数奇な運命を辿った末、日本側の勝利―――
否、不戦勝の結末を迎える結果となったのである。
激戦を制したのは日米どちらでも無く、誰もが予期せぬ第三者であった。
それは過去、戦死・あるいは作戦行動中行方不明となった者達により構成された、混成部隊。
―――『死者の軍勢』。
公的な文書にその名が記されたのは、この戦いが初となる。
以降、激動の20世紀においてその名は、極めて重要な意味を持つ事となるのである―――
・ ◆ ■ ◇ ・
[マル視点]
「1942年、6月4日。ミッドウェー海域では赤城・加賀・飛龍・蒼龍の4隻による、軍事作戦が行われていました。俗に言う、ミッドウェー海戦ですねぇ。アメリカ合衆国の崩壊を語るにはまず、その契機となった事件について語らねばなりませんから。まぁ・・・チミも、触りくらいはご存じだと思いますがねぇ?」
「教科書にも載ってる位だし、多少は?確か・・・日本側が劣勢の所に、第三勢力―――今でいう、西アメリカ軍が参戦したんでしたっけ?」
「当時、その呼び名は存在しませんから・・・『死者の軍勢』と呼んだ方がいいですよぉ?・・・キヒヒヒヒ!」
奇妙な笑い声を上げる真調。
それを尻目に、ぼくは記憶の奥から引っ張り出した歴史知識を披露する。
―――1942年。
ミッドウェー島における海戦にて、歴史上初となる死者と生者による近代戦闘が勃発した。
交戦したのは、当時のアメリカ海軍と件の『死者の軍勢』。
かの軍勢は日米両軍による激突の後、米軍を奇襲する形で戦場へと介入した。
一方、帝国海軍は空母三隻を失っており、戦力の立て直しを図る中、中核となる戦いには参戦しない形となった。
結果―――勝利したのは、『死者の軍勢』。
空母エンタープライズ及びホーネットは船体に取り付いた『軍勢』に内部へと侵入され、白兵戦により指揮系統を喪失したのである。
先の戦闘により損傷していた空母ヨークタウンは、後方にて艦体の応急処置をしており、辛くも難を逃れる結果となった。
唯一、アメリカ側として戦場より帰還を果たしたヨークタウンは戦場より両空母からの生存者を回収。
彼等の証言により戦況の詳細を知る事となったが、「水死体が襲ってきた」等と謎めいた内容は、大いに頭を悩ませたという。
「この戦いに先立ち、『軍勢』の盟主―――『死体蘇生者』ハーバート・ウェストは太平洋戦争の戦地を渡り歩き、密かに戦死者を回収していたようです。そうしてかき集めた死体が、『軍勢』の素材となった訳ですねぇ」
「ウェスト博士って・・・。確か、後の西アメリカ大統領の?」
「おっしゃる通り。そうして出来上がった玉石混合の混成部隊が、後に人類圏を護る防波堤となるのですから・・・。縁は奇なり、とはよく言ったものです。その後、日・米両方ともに睨み合ったまま。太平洋戦争の戦況はしばし、足踏みを続ける事となります」
「まぁ、無理も無いかな・・・?正体不明の勢力が突如現れて、戦場をしっちゃかめっちゃかにした訳だし」
ぼくが口にした通り、ミッドウェーでの歴史的な敗戦後、アメリカ側は疑心暗鬼に陥っていた。
当時の状況を探ろうにも、生還者から飛び出すのは意味不明の証言ばかり。
おまけに、戦場に現れた謎の軍勢は、自軍の装備を身に纏っていたのだという。
日本勢による情報攪乱、第三勢力による破壊工作、集団ヒステリー。
憶測が憶測を呼び、アメリカ政府内部は機能不全寸前の大パニックへと陥っていた。
一方、日本側もまた海軍の主力を喪失し、次の打つ手を欠いていた。
空母三隻とその人員は、太平洋におけるアドバンテージを失うに十分すぎる痛手である。
政府内部は後始末で紛糾し、両国は睨み合ったまま、太平洋戦争は膠着状態となった。
戦局が次に動きを見せるのは、翌年―――1943年。
北米大陸西岸に再び、二隻の空母が姿を見せた時より、それは始まる。
ワシントン州ブレマートンにふらりと現れた『それ』は、ミッドウェーより消息を絶っていた両空母であった。
入港を求めるエンタープライズ、及びホーネットに対し、議論は紛糾した末、その要求は許可される事となる。
しかし―――空母内部より姿を表したのは、変わり果てたかつての同胞達であった。
北米大陸全土を飲み込み、合衆国の歴史に終焉を告げる死者の行軍。
歴史の転換点の第二幕は、この時より始まるのであった―――
今週はここまで。




